第272話 砦の戦い
砦の中は多くの兵士が倒れていた。血の臭いが充満し、遠くから兵士たちの怒声が聞こえる。
彼方は新たなカードを選択する。
◇◇◇
【アイテムカード:レーザーブレード】
【レア度:★★★★★(5) 無属性の剣。装備した者の意思を読み、刃の長さを変える。具現化時間:3時間。再使用時間:7日】
◇◇◇
宙に浮かんでいたレーザーブレードを手に取る。黄緑色に発光する刃は厚みがあり、僅かに振動していた。
――ニーアが夜に偵察してくれた情報だと、右奥あたりの倉庫が本命か。
彼方は石の壁に沿って走り出す。
角を曲がると三人の兵士の姿があった。
すぐに彼方が動く。一気に距離を詰め、先頭にいた兵士にレーザーブレードを振り下ろした。
金属製の鎧がすっぱりと斬れる。
「しっ、侵入者がこっちにもいる…………」
後方にいた兵士が喋り終える前に彼方はレーザーブレードを横に振った。黄緑色の刃が五十センチ以上伸び、兵士の腹部を斬る。
「くおおおっ!」
三人目の兵士がロングソードを斜めに振り下ろす。
彼方は左腕を動かし、ネーデの腕輪でロングソードの刃を受けた。
「なっ、な…………」
予想外の受けに兵士の動きが止まる。
彼方はレーザーブレードを右下から振り上げる。兵士の体が鎧ごと斬られた。
溜めていた息を吐き出し、彼方は周囲を見回す。
――兵士は残ってるみたいだけど、数は多くない。ゼルブと呂華のおかげだな。
兵舎と兵舎の間を走り抜けると、二階建ての大きな倉庫が視界に入った。倉庫の前には数十人の兵士たちが集まっている。彼らの声が彼方の耳に届いた。
「戦況はどうなってるんだ? 侵入者がいるらしいが」
「カリック千人長がやられたらしい」
「ウソだろ? 侵入者は一人のはずだぞ?」
「敵はSランク上位の実力者のようだ。逆方向にいるようだが、油断はするなよ」
「わかってる。ここにある食糧が奪われたら、まずいからな」
――当たりか。
彼方はぐっとこぶしを握る。
――兵士の数は…………二十三人だな。それなら…………。
三百枚のカードが彼方の周囲に浮かび上がる。
◇◇◇
【呪文カード:六色の流星雨】
【レア度:★★★★★★★★(8) 広範囲の対象にランダムな属性のダメージを与える。再使用時間:20日】
◇◇◇
赤色、青色、緑色、黄土色、黄白色、黒色の雨が兵士たちの体に降り注いだ。
予想外の攻撃に兵士たちは対応することができず、悲鳴をあげて倒れる。
「てっ、敵襲っ!」
生き残った兵士が駆け寄ってくる彼方に気づいた。
彼方は立っている三人の兵士たちをレーザーブレードで倒し、倉庫の中に入る。
倉庫の中には多くの麻袋や樽が積まれていた。
彼方はカードを選択する。
◇◇◇
【アイテムカード:重魔光爆弾】
【レア度:★★★★★★★★(8) 半径五十メートル以内に多大なダメージを与える光属性の爆弾。遠距離から起動することができる。具現化時間:10時間。再使用時間:20日】
◇◇◇
彼方の前に直径一メートルの球体が具現化された。それは黒く輝いていて、表面に小さな魔法陣が刻まれていた。その魔法陣が黄緑色に発光している。
「これでよし…………と」
彼方は倉庫を出て、門に向かう。
兵舎と兵舎の間を抜けてさらに進むと――。
「氷室彼方っ!」
後方から女の声が聞こえた。
振り返ると、そこには白銀の鎧を装備した黒髪の女が立っていた。女は二十代後半で肌は褐色、頭に猫の耳が生えていた。
「君は…………テレサ千人長」
彼方はリシウス城で戦った女兵士の名前を口にした。
「生きてたんだ?」
「お前に城から落とされた時、運よく木の枝に引っかかってな」
テレサ千人長は牙のような歯を見せて笑った。
「どうやら、私は幸運の女神ラーキルに好かれているようだ」
青白く輝くロングソードを両手で持ち、ぐっと腰を落とす。
「今度は逃がさんぞ。覚悟しろ!」
「…………五十七メートルか」
「んんっ? 何を言ってる?」
「食糧庫から、ここまでの距離がだよ」
彼方は数歩、後ろに下がる。
「わけがわからんことを」
「すぐにわかるよ」
彼方は呪文カードを選択する。
◇◇◇
【呪文カード:オーロラの壁】
【レア度:★★(2) 指定の空間に物理、呪文、特殊攻撃を防御する壁を五秒間作る。再使用時間:2日】
◇◇◇
彼方の目の前に白、赤、緑に変化する半透明の壁が現れた。
さらに彼方は重魔光爆弾を起動させる。
真っ白な光が輝き、爆発音が響いた。
爆風で飛ばされたテレサ千人長の体がオーロラの壁にぶつかった。
五秒後、オーロラの壁が消える。
彼方はぴくりとも動かないテレサ千人長に視線を向けた。
「う…………」
テレサ千人長の頭部の耳がぴくりと動いた。
「…………たしかに君は幸運の女神に好かれてるね」
彼方は倒れているテレサ千人長に背を向けて、その場から走り去った。
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