第263話 リューク団長vsナグチ将軍

 ナグチ将軍は低い姿勢でリューク団長に突っ込んでくる。その手には黄金色の短剣が握られていた。


「ナグチ将軍かっ!」


 リューク団長は腰を落とし、ロングソードを斜めに構えた。


 ――ターゲット変更だ。ナグチ将軍を倒せば、サダル国はガリアの森から手を引く。この戦争を俺の手で終わらせてやる!


「うおおおおっ!」


 気合の声をあげて、リューク団長はロングソードを振り下ろした。その攻撃をナグチ将軍は紙一重で避ける。


「まだまだっ!」


 リューク団長は体を反転させて、ロングソードを振る。甲高い金属音がして、黄金色の短剣が弾き飛ばされる。


 ――勝機っ!


 リューク団長は一気に前に出る。


 その瞬間、飛ばされた黄金色の短剣がナグチ将軍の手に戻ってきた。

 ナグチ将軍はロングソードの突きをぎりぎりでかわし、斜め下から黄金色の短剣を振り上げた。

 リューク団長の鎧が斜めに斬れ、血しぶきが舞った。


「があ…………っ」

「終わりです」


 ナグチ将軍が笑みを浮かべて、一歩前に出る。


「させるかっ!」


 ティアナールがナグチ将軍に突っ込んだ。


「おっと。こんなところであなたに出会えるとは」


 ナグチ将軍は黄金色の短剣でティアナールの攻撃を受ける。


「これは幸運ですね。リューク団長は殺しますが、あなたは生け捕りにしましょう。理由はおわかりかと思いますが」

「舐めるなっ!」 


 ティアナールはロングソードを真横に振って、ナグチ将軍を下がらせる。


「リロエールっ!」

「わかってます!」


 リロエールが呪文を唱え、ナグチ将軍の前に半透明の壁を出現させる。

 同時にエリスとドミニクが右からナグチ将軍に攻撃を仕掛けた。

 エリスがロングソードを振り下ろし、ドミニクが短剣を投げる。


「おっと…………」


 余裕のある動きで、ナグチ将軍は二人の攻撃を避け続ける。


「なかなか見事な連携技ですが…………まだ、甘い!」


 黄金色の短剣がエリスのノドを斬った。


「あ…………が…………」


 エリスは大きく口を開いたまま、前のめりに倒れた。

 ナグチ将軍は体を捻って黄金色の短剣を投げた。鋭い刃がドミニクの鎧に突き刺さった。


「かっ…………」


 ドミニクの両膝が折れて地面についた。彼女の胸に刺さっていた黄金色の短剣がナグチ将軍の手に戻った。


「これで残りは…………二人ですか」

「エリス…………ドミニク…………」


 ティアナールの声が掠れ、全身が震え出した。


「混戦状態になったら、私の首を取れるとでも思ってたのですか?」


 ナグチ将軍が肩をすくめる。


「見くびられたものですね。私の白兵戦の実力はサダル国内でも、五本の指の中に入るレベルですよ」

「くっ…………」


 ティアナールはロングソードを構え、倒れているリューク団長の前に立った。


 ――ダメだ。私ではナグチ将軍に勝てない。スピードが違いすぎる。

 ――だが、なんとしてもリューク団長だけは逃がさねば。この命に替えても。


「さて、降伏してもらえると楽なのですが」

「降伏など、するかっ!」


 ティアナールが叫んだ。


「しかし、もう、白龍騎士団は終わりですよ。リューク団長は死ぬでしょうし、残りの騎士たちも死にます。奇策を仕掛けたせいで、陣形も崩れてますし」


 ナグチ将軍は、ゆっくりとティアナールに近づく。

 ティアナールの表情が硬くなり、両腕に鳥肌が立つ。


 その時、爆発音がして、白い煙が周囲に広がった。


「全員、ナグチ将軍を狙えっ!」


 ゴルバ千人長が数十人の部下とともにナグチ将軍に迫る。


「ナグチ将軍を守れっ!」


 サダル国の兵士たちがナグチ将軍の前で盾を構えた。


「突き破れっ!」


 ヨム国の騎士たちが盾を持つ兵士たちに突っ込む。


 乱戦の中、ゴルバ千人長は倒れているリューク団長に駆け寄る。魔法のポーチから回復薬を取り出し、意識のないリューク団長の口に流し込む。


「…………ちっ。意識は戻らないか」


 ゴルバ千人長は側にいた大柄の騎士の足を叩く。


「エト十人長! リューク団長を背負って、本陣まで戻れ! 護衛は…………」


 ゴルバ千人長の視線がティアナールに向いた。


「ティアナール百人長、お前がリューク団長を守れ!」

「私が…………ですか?」


 ティアナールは緑色の目をぱちぱちと動かす。

「ああ。お前の剣技なら、リューク団長を守り切れるはずだ。頼むぞ」

「わかりました! ゴルバ千人長は?」

「適当にかき回した後、撤退する。残念だが、奇襲は失敗だ」


 ゴルバ千人長は周囲を見回しながらこぶしを鳴らす。


「だが、次の戦いは白龍騎士団が勝つ! 必ずな」

「もちろんです!」


 ティアナールは強い口調で同意した。


 ◇


 ティアナールは、リューク団長を背負ったエト十人長を守りながら、戦場を走り続けた。

 隣にいるリロエールが嗚咽を漏らす。


「泣くなっ! リロエール」


 ティアナールはリロエールを叱りつける。


「ここは戦場だぞ! 気を引き締めろ!」

「だっ…………だけど、エリスとドミニクが…………」

「悲しむのは後だ。私たちはリューク団長を守る大事な任務があるんだからな」

「は…………はい」


 リロエールはこぶしで涙を拭う。

 立ち塞がる兵士たちを倒しながら、ティアナールは唇を強く噛む。


 ――すまない。エリス、ドミニク…………。


 二人の笑顔が脳裏に浮かび上がり、ティアナールの視界がぼやけた。


 ◇


 ゴルバ千人長の活躍で白龍騎士団は殲滅を免れた。しかし、五割以上の騎士が死に、救援にきた赤鷲騎士団のクック千人長も命を落とす結果となった。


 ヨム国にとって幸運だったことは、リューク団長の命が救われたことだろう。リューク団長は重体ではあったが、魔法医の懸命な治療によって意識を取り戻した。

 とはいえ、まだ、部隊の指揮を取ることはできず、団長代理として、ゴルバ千人長が白龍騎士団をまとめることになった。


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