第262話 白龍騎士団vs第七師団

 一時間後、数で勝る第七師団は白龍騎士団の左側の横陣を崩しかけていた。


 カルミーラ師団長の指揮で、百人単位の部隊が次々と横陣に突っ込む。

 白龍騎士団は予備兵を全て使って、横陣を強化した。


 その動きを確認して、カルミーラ師団長は笑みを浮かべた。


「よし! ザンゲル千人長の部隊に伝えろ。中央の横陣に突き破れと!」


 重厚な鎧を装備したザンゲル千人長の部隊が動き出した。雄叫びをあげて、中央の横陣に突っ込む。


「殺せ、殺せっ!」


 巨体のザンゲル千人長が叫んだ。


「ヨム国の騎士どもを地獄に送ってやれ!」

「おおおおーっ!」


 サダル国の兵士たちはマジックアイテムの武器を振り回す。ヨム国の騎士たちが次々と倒され、横陣が崩れ始めた。


「勝機だっ!」


 カルミーラ師団長は右手を高く上げた。

 後方に控えていた予備兵が中央の横陣に向かって走り出す。

 無数の炎の矢がヨム国の騎士たちの頭上に降り注ぎ、悲鳴と怒声が交互に聞こえてくる。


 やがて、ザンゲル千人長の部隊が横陣を突き破った。


「いいぞ。このまま、本陣まで突き進め! 一気に勝負をつけてやる!」


 ザンゲル千人長は巨大な斧を真横に振って、周囲の騎士たちをなぎ倒した。


 その時、分断された白龍騎士団の横陣が陣形を変えた。尖った角のような陣形――一角鳥の陣に変わり、一気にサダル国の本陣に向かって動き出す。


 二つの陣の先頭にいるのは、最初から横陣の端にいたリューク団長とゴルバ千人長だった。


 ◇


「狙うはナグチ将軍とカルミーラ師団長の首だっ!」


 リューク団長は大きな声で叫んだ。


「二人を倒せば、第七師団は終わりだ! ここで決めるぞ!」

「うおおおおーっ!」


 騎士たちは気合の声をあげて、サダル国の本陣に迫る。


「ちっ! 小細工を。最初から狙ってたな」


 カルミーラ師団長は細い眉を吊り上げ、短く舌打ちをした。


「この程度の奇策で私の首を取れるなどと思うなよ」


 胸元で両手の指を組み合わせ、呪文を詠唱する。

 周囲の空気が冷え、頭が二つある巨大なドラゴンが姿を現した。ドラゴンは青白い鱗に覆われていて、長い首には氷柱のようなトゲが無数に生えていた。


「氷塊のドラゴンよ! ヨム国の騎士どもを殺せ!」

「ヒュウウウウウ!」


 甲高い鳴き声をあげて、氷塊のドラゴンが動いた。

 大きく開いた口から白いブレスが吐き出され、迫ってきていた騎士たちの体を凍らせる。


「ドラゴンは無視しろ!」


 リューク団長の指示通りに、騎士たちはドラゴンの左をすり抜けようとする。


「ヒュイイイイッ!」


 氷塊のドラゴンが捻った首をぶるぶると動かした。氷柱のようなトゲが飛び出し、騎士たちの鎧を貫く。


 リューク団長は奥歯を強く噛み締め、走り続ける。その瞳にカルミーラ師団長の姿が映った。


 ――見つけたぞ。一瞬で終わらせてやる!


「カルミーラ師団長を狙えっ!」

「おおおおーっ!」


 騎士たちがロングソードを構えて、カルミーラ師団長に迫る。


「カルミーラ師団長を守れーっ!」


 サダル国の兵士たちが騎士たちの前に立ち塞がる。

 剣と剣がぶつかり、赤い血が地面を赤く染める。


 混戦状態の中、背後から氷塊のドラゴンが近づいてきた。

 リューク団長の眉間に深いしわが刻まれた。


 ――このままじゃ、カルミーラ師団長に届かんか。ならば…………。


「ティアナール百人長っ!」


 リューク団長は近くにいたティアナールに声をかけた。


「使える部下を三人選んでついてこい! 五人でカルミーラ師団長をやる」

「部隊から離れるんですか?」


 ティアナールが驚いた顔で質問を返す。


「ああ、混戦状態の今なら、少人数のほうが狙いやすい」

「わかりました!」


 ティアナールは側にいた直属の部下である女騎士――リロエール、エリス、ドミニクに声をかける。


 五人は部隊から離れ、左に移動する。周囲にいるサダル国の兵士を倒しながら、少しずつ、カルミーラ師団長に近づく。


 その時、ゴルバ千人長が率いる部隊が逆方向から、サダル国の本陣に突っ込んだ。

 悲鳴と怒声が聞こえ、サダル国の兵士たちが倒されていく。


「好機だ!」


 リューク団長はティアナールの肩を叩いた。


「俺たちがカルミーラ師団長の首を取るぞ!」


 ティアナールと女騎士たちは同時に首を縦に動かす。


「いくぞっ!」


 リューク団長は黄白色に輝くロングソードを握り締め、サダル国の兵士たちに突っ込んだ。二人の兵士が一瞬で斬られる。


「こっちだ! こっちにもヨム国の騎士がいるぞ!」


 近くにいた兵士たちが、リューク団長に気づいた。


「止めろ! カルミーラ師団長に近づけるな!」


 五人の兵士たちがリューク団長に襲い掛かった。


「させるかっ!」


 ティアナールが金色の髪をなびかせて、大柄の兵士に突っ込んだ。大きく足を踏み出し、一気にロングソードを振る。兵士の腕が斬れ、持っていた斧が地面に落ちた。


 さらに、リロエール、エリス、ドミニクが周囲の兵士に斬りかかる。


「邪魔だっ! どけっ!」


 立ち塞がる兵士たちを倒しながら、リューク団長は走り続ける。


 ――もう少しだ。もう少しでカルミーラ師団長の首を取れる。


 数十メートル先にいるカルミーラ師団長を見て、リューク団長の口角が吊り上がった。


 ――カルミーラ師団長は召喚師だ。近づきさえすれば、すぐに殺せる。白兵戦が得意な召喚師など、俺が知ってる限り、一人しかいないからな。いや、あいつは召喚師ではないか。


 一瞬、リューク団長の脳裏に彼方の姿が浮かび上がる。


 ――あいつがいれば、もっと楽に勝てたんだがな。


 突然、周囲が白く輝き、リューク団長の視界が奪われた。


 ――目くらましの呪文かっ!


 リューク団長はまぶたを何度も動かして、視力を回復させる。青い瞳に左から近づいてくるナグチ将軍の姿が映った。

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