第260話 彼方vsガトラ百人長
彼方は走りながら、意識を集中する。
三百枚のカードが現れ、その中の一枚を選択する。
◇◇◇
【アイテムカード:機械仕掛けの短剣】
【レア度:★★★★(4) 装備すると、スピードと防御力が上がる。具現化時間:2日。再使用時間:10日】
◇◇◇
カードが輝き、刃渡り二十センチ程の短剣が具現化される。刃は厚みがあり、透明のガラスのような素材でできていた。刃の中には数千個の歯車が重なりあって、カチカチと動いている。
宙に浮かんでいる機械仕掛けの短剣を右手で掴み、彼方はガトラ百人長に攻撃を仕掛ける。
「氷室彼方っ!」
ガトラ百人長は右手につけたかぎ爪で機械仕掛けの短剣の刃を受け止める。
同時に左手につけたかぎ爪を真横に振った。
彼方は左足を引いて、その攻撃を避けつつ、機械仕掛けの短剣を突く。
「舐めるなっ!」
ガトラ百人長はのけぞりながら、右足で蹴りを放つ。
彼方はネーデの腕輪で蹴りを受けつつ、機械仕掛けの短剣を斜めに振り上げる。
「くあああっ!」
ガトラ百人長は左手のかぎ爪で、その攻撃を受けようとした。
その瞬間、機械仕掛けの短剣の軌道がジグザグに変化した。かぎ爪を避けつつ、灰色の毛に覆われた首筋を斬る。
「ぐっ…………」
ガトラ百人長は首筋を押さえて、彼方から距離を取る。
――浅かったか。
彼方は腰を落として、ふっと息を吐く。
――強いな。黄金の重力時計の効果を受けてるのに、これだけ速く動けるなんて。
――この獣人が部隊の隊長か。鎧が他の兵士とは少し違うし、両手のかぎ爪は相当いいマジックアイテムに見える。
「氷室彼方っ! お前の首をもらうぞ!」
ガトラ百人長は右手の人差し指を動かし、左側に回り込む。
――ん? 今の指の動きは合図か。他の兵士と連携するつもりだな。
彼方はガトラ百人長の意図に気づき、右に移動しながら、他の兵士たちの位置を確認する。
二人の兵士が彼方に近づいてくるのが見えた。
――強い部隊だな。黄泉子と戦いながら、隊長の指示を見逃さなかったか。
――だけど、有利なのはこっちだ。黄金の重力時計の効果は僕にもかかってるけど、機械仕掛けの短剣の効果で、多少は相殺できてるし。
彼方は呪文カードを選択した。
◇◇◇
【呪文カード:黒水晶の壁】
【レア度:★★★★(4) 指定の空間に物理攻撃を防御する広範囲の壁を三十秒間作る。再使用時間:5日】
◇◇◇
黒く輝く壁が現れ、迫ってきていたガトラ百人長の足を止める。
――これで三人同時の攻撃はできない。
彼方は迫ってきていた兵士二人に自ら突っ込む。
「死ねっ! 氷室彼方!」
左にいる兵士がロングソードを振り下ろした。
その攻撃を彼方はネーデの腕輪で受け止め、機械仕掛けの短剣を振る。急角度で変化する刃の軌道に兵士は対応することができなかった。首筋を斬られて、前のめりに倒れる。
「おのれっ!」
もう一人の兵士が怒りの表情で斧を振り上げた。
「遅いよ」
彼方は兵士の側面に回り込み、機械仕掛けの短剣で兵士のノドを突いた。
「があっ…………」
兵士は血を噴き出しながら、横倒しになる。
――この状況で重い武器を使うのは厳しいよ。
彼方はくるりと体を反転させて、黒水晶の壁を回り込んできたガトラ百人長と対峙する。
「たいしたもんだぜっ! 氷室彼方!」
ガトラ百人長は両手のかぎ爪をカチカチと牙を鳴らす。
「だが、ここでお前を殺せば、俺たちの勝ちだ!」
ぐっと両膝を曲げて、ガトラ百人長はジャンプした。
彼方は転がりながら攻撃をかわし、機械仕掛けの短剣を振った。
その動きに合わせて、ガトラ百人長はかぎ爪を突き出す。
目を狙った攻撃を彼方はぎりぎりでかわした。
「まだまだ、いくぜっ!」
ガトラ百人長は左右のかぎ爪で攻撃を続ける。
彼方は防御に徹して、その攻撃を避け続ける。
――やっぱり、この隊長は強い。単純な戦闘能力はAランク以上ってところかな。だけど…………。
――残り…………四…………三…………二…………一…………。
空に浮かんでいる黄金の重力時計の針が動き、ガトラ百人長のひざががくりと折れた。
その瞬間、彼方が前に出た。低い姿勢からガトラ百人長の側面に移動して、機械仕掛けの短剣を振り上げる。ジグザグの軌道を避けることができずに、ガトラ百人長の体毛が赤く染まる。
「ガアアアッ!」
ガトラ百人長は叫び声をあげながらも、かぎ爪で彼方の首を狙う。
彼方は頭を下げながら、機械仕掛けの短剣を投げた。歯車が回る刃がガトラ百人長のノドに突き刺さる。
「ゴッ…………ゴブッ…………」
ガトラ百人長は両ひざを地面につけて、ぱくぱくと口を動かす。
「どっ…………どうして…………俺が負け…………る?」
「時計の針の動きを気にしてなかったからだよ」
彼方は暗い声で答えた。
「空に浮かぶ時計の針が動いた時に体が重くなるって、わかってたはずですよね? それならば、針の動きには注意しておかないと」
「針…………だと?」
「ええ。僕は頭の中で数えてたから、体が重くなる時間はわかってました。その差が出たんだと思います」
「…………い、イヤな予感が…………当たっちまった…………か」
ガトラ百人長の体が傾き、地面に倒れた。
◇
「私の手伝いはいらなかったみたいね」
黄泉子が彼方に歩み寄った。
「ギアドラゴンのほうも終わったみたいだし」
「そうだね…………」
ギアドラゴンに倒された兵士たちを見て、彼方は唇を強く噛む。
――善戦してたけど、ギアドラゴンを倒すことはできなかったか。黄金の重力時計の効果もあったしな。
「ん? どうしたの? 元気ないじゃん」
黄泉子が彼方の顔を覗き込む。
「なるべくなら殺したくなかったからね」
「甘いなぁ。そんな考えじゃ、ぎりぎりの戦いの時に命を失うことになるよ」
「…………うん。気をつけるよ」
両手のこぶしを固く握り締め、彼方は何度も深呼吸をした。
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