第259話 ギアドラゴンvs獣人部隊
大きく開いた翼から、数十の銃身が飛び出し、レーザー光線を照射する。
七人の兵士たちの体を青白い光が貫いた。
ばたばたと倒れる部下を見て、ガトラ百人長が叫んだ。
「ドラゴンの正面に立つなっ! 左右と背後から仕掛けるぞ!」
「おおーっ!」
動揺していた兵士たちの表情が引き締まった。
――俺たち、獣人部隊を舐めるなよ。この程度の苦境、何度もくぐり抜けてきたんだ。
ガトラ百人長はジグザグに動きながら、呪文を詠唱する。
自身の体が黄金色に輝き、力が強化される。
同時に他の兵士たちも動く。
五人の兵士たちが両手を広げて呪文を唱える。
白く光る糸がギアドラゴンの体に絡みつく。
「ギッ…………ギギ…………」
ギアドラゴンは動きを止められながらも、レーザー光線と両肩に装備された大砲で兵士たちを攻撃する。
直径一メートル近い火球が数人の兵士を吹き飛ばした。
「バカっ! 何やってる!」
ガトラ百人長が叫んだ。
「その程度の攻撃、お前たちなら…………」
その瞬間、ガトラ百人長は自分の動きが普段より鈍くなっていることに気づいた。
「あの時計かっ!」
ガトラ百人長は空に浮かぶ時計盤を見上げる。
――くそっ! あれのせいで部下たちが逃げ損なったのか。
――まずいぞ。あの女は『時計の針が進めば効果が強くなる』と言っていた。早めに勝負をつけないと。
「ガトラ百人長!」
ポルチ十人長がガトラ百人長に駆け寄った。
「兵士たちの動きが鈍くなってます。何かの効果が…………」
「あの時計だっ!」
ガトラ百人長は黄金の重力時計を指さす。
「時間が経てば、もっと、効果が強くなるぞ。急いでドラゴンを倒せっ!」
「はっ! 女のほうは?」
「シーバ十人長の部隊に追わせろ。毒つきの武器なら、早めに倒せるはずだ!」
素早く指示を出しながら、ギアドラゴンの背後に回り込む。
――ドラゴンの動きは光の糸の呪文で鈍くなってる。それに時計の効果もあるようだ。敵味方を問わずに発動しているのか。
――とんでもない効果があるマジックアイテムのようだが、欠点もあるってことか。ならば、勝機はある! 早めにドラゴンさえ倒せれば…………。
大柄の兵士たちが側面からギアドラゴンにマジックアイテムの斧を振り下ろした。
透明な皮膚が裂け、中の歯車が割れる。
「ギュアアアアア!」
怒りの声をあげて、ギアドラゴンは前脚で斧を持った兵士を払った。
兵士の体が飛ばされ、巨大な水晶にぶつかった。
「攻撃を続けろ! ドラゴンは一撃じゃ死なん」
ガトラ百人長は声を張り上げた。
「光の糸の呪文をどんどん使え! 動けなくしてしまえば勝てるぞ!」
「おおおーっ!」
雄叫びをあげて、兵士たちが攻撃を続ける。
炎の矢がギアドラゴンに突き刺さり、ロングソードや斧の刃がギアドラゴンの透明な皮膚を斬り裂く。
「いいぞ! その調子だ!」
ガトラ百人長はギアドラゴンのしっぽに飛び乗り、前傾姿勢で背中を走る。
その動きに気づき、ギアドラゴンは長い首を捻る。
「遅いっ!」と叫んで、ガトラ百人長がジャンプした。マジックアイテムのかぎ爪がギアドラゴンのレンズに突き刺さる。
レンズの中にあった小さな歯車が周囲に飛び散る。
「攻めろ! 攻めろ! 時間を無駄にするなっ!」
その時、ガトラ百人長の瞳に黄泉子の姿が映った。
黄泉子は地上に下りていて、シーバ十人長の部隊と戦っていた。
魔法陣を利用して移動する黄泉子を見て、ガトラ百人長は奥歯を強く噛んだ。
――あの時計と相性のいい奴を召喚してるってわけか。機械仕掛けのドラゴンは遠距離攻撃があるしな。
空に浮かぶ黄金の重力時計の針が動き、兵士たちの動きが、さらに鈍くなる。
鉛の鎧をつけているかのような体の重さに、ガトラ百人長の顔が歪む。
――くそっ! また体が重くなった。ドラゴンの耐久力も予想以上にある。このままではじり貧か。
「…………ポルチ十人長っ! ドラゴンはまかせる。俺は女を殺る!」
ガトラ百人長は黄泉子に向かって走り出した。
――女を殺せば、この世界から抜け出せるはずだ。状況が不利なら、ドラゴンから逃げる手も選択できる。
巨大な水晶の陰に隠れながら、ガトラ百人長は黄泉子に近づく。
黄泉子は先端が尖った金色の杖を動かし、宙に魔法陣を描いた。その魔法陣から赤黒い矢が飛び出し、動きが鈍ったシーバ十人長の体に突き刺さった。
「ひゃははっ! 当たった当たったっ」
甲高い笑い声をあげて、黄泉子は宙に描かれた魔法陣に移動する。
「だいぶ、動きが鈍くなったね。もうすぐ、歩くこともできなくなるかな」
「舐めるなっ!」
背の高い兵士が毒のついたナイフを投げる。
黄泉子は金色の杖でナイフを弾く。
「残念っ! 私も時計の効果を受けてるけど、重力軽減の呪文を使ってるの。お前たちより、まだまだ動けるから」
黄泉子は地上に描かれた別の魔法陣に移動する。
「シーバ十人長の仇を取れっ!」
六人の兵士たちが怒りの表情を浮かべて黄泉子を追う。
兵士たちの動きに合わせて、ガトラ百人長も動く。背を低くして、黄泉子の背後に回り込む。
十数メートル先にある小さな魔法陣を見て、ガトラ百人長の目が輝いた。
――いけるぞ。この魔法陣に移動した瞬間に奴の首を取る。
青白い水晶の陰に潜んで、ガトラ百人長は呼吸を整える。
――幸運の女神ラーキルよ。俺にチャンスをくれ! 死んでいった部下たちの仇を取るチャンスを!
数十秒後、兵士たちに追われた黄泉子がガトラ百人長の近くにある魔法陣に転移した。
――待ってたぞ。この時を!
ガトラ百人長が水晶の陰から出た瞬間――。
◇◇◇
【呪文カード:魔水晶のジャベリン】
【レア度:★★★★★(5) 属性:地 対象に強力な物理ダメージを与える。再使用時間:7日】
◇◇◇
青白く輝く半透明の槍がガトラ百人長の胸元に迫る。
「くあああっ!」
ガトラ百人長は上半身を捻って槍をかわす。
――くっ! 他にも敵がいたのか…………あ!
走り寄ってくる彼方を見て、ガトラ百人長の目が大きく開いた。
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