第251話 金獅子騎士団ディラス団長2
ディラス団長が率いる金獅子騎士団は薄暗い森の中を移動していた。
「ディラス団長」
五十代の千人長がディラス団長に駆け寄る。
「第七師団は進路を変え、北に向かっています」
「北か…………」
ディラス団長の眉がぴくりと動く。
「ウロナ村への奇襲が失敗したのだから、南西の砦を攻める部隊と合流するのが安全な策だが…………」
「我らの動きを知ってるのでしょう。南側に逃げたら、挟撃される可能性が高くなりますから」
「だろうな。さすがに失敗はしないか」
ディラス団長は鼻の下に伸びたひげに触れながら考え込む。
「…………遠話の呪文で銀狼騎士団のウル団長に連絡を取れ。赤鷲騎士団とも協力して、三部隊で第七師団を包囲する」
「銀狼騎士団とも連携を取るのですか?」
「そうだ。三方から攻めれば、ナグチ将軍といえど、逆転する策はない」
「…………たしかに」
千人長が何度も首を縦に動かす。
「いいか…………お前の部隊は北に回り込んで…………」
「ディ…………ディラス団長!」
獣人の伝令兵がディラス団長に走り寄った。
「カリーナ千人長が戦死しました!」
「なっ、なんだとっ!?」
ディラス団長の口が大きく開く。
「どういうことだ? 夜蜘蛛の陣が破られたのか?」
「は…………はい。ディラス団長が砦から離れた後、ナグチ将軍が現れ、見たことのない陣で夜蜘蛛の陣を崩しました。そして、部隊を立て直そうとしたカリーナ千人長が呪文でやられて…………」
「ちぃっ! やってくれたな」
ディラス団長は両手のこぶしを握り締める。
「ナグチ将軍は、最初から砦を攻める部隊を指揮してたのか。あえて凡庸に攻め、第七師団をおとりにして、俺を砦から離した」
――俺が砦にいれば、ナグチ将軍の攻めにも対応できたはずだ。
「ディラス団長っ!」
獣人の伝令兵が口を開く。
「指示をお願いします。現在、タリク千人長が砦を守っておりますが、不利な状況です」
「わかってる。全軍、砦に戻るぞ!」
ディラス団長の言葉に、周囲にいた騎士たちが動き出した。
◇
数時間後、金獅子騎士団は緩やかな斜面を移動していた。
軍の列は長く伸び、巨大なヘビが蠢いているように見える。
「急げっ!」
後方にいるディラス団長が声を張り上げた。
「足の速い者は前に出ろ! 一秒でも早く砦に戻るんだ!」
額に浮かんだ汗を拭いながら、ディラス団長は水筒に口をつける。
――陣形を作り直すのに時間がかかるだろうが、今は少しでも早く砦に戻るほうが重要だ。乱戦にした後、後方にいる騎士で新たに陣を築く。
――このままでは終わらせんぞ。精鋭の第七騎士団がいないのなら、多少不利でも戦える。むしろ、ナグチ将軍を殺すのなら、この状況のほうがいい。
「小細工を弄したことを後悔させてやる!」
その時――。
「てっ、敵襲っ!」
若い騎士が声をあげた。
ディラス団長は若い騎士が指さす斜面に視線を動かす。
そこには、赤黒い鎧を装備したサダル国の兵士たちが立っていた。全員が獣人の兵士で、狼のような顔をしていた。
「あいつらは…………第七師団の獣人部隊…………」
掠れた声がディラス団長の口から漏れる。
サダル国の兵士たちが一気に斜面を駆け下りた。
迫ってくる敵兵が自分を狙っていることに気づき、ディラス団長の顔が青ざめる。
「ディラス団長を守れっ!」
騎士たちが盾を構えて、ディラス団長を囲む。
「敵の数は、約百っ!」
「別働隊だけなら、対処できる!」
数人の騎士が呪文を唱え、炎の矢で迫ってくるサダル国の兵士たちを攻撃する。
しかし、サダル国の兵士にも魔道師がいるのか、半透明の壁が現れ、炎の矢を弾く。
先頭にいた背丈二メートルを超える兵士が右足で地面を蹴って高くジャンプした。
盾を持った騎士たちを飛び越え、ディラス団長に迫る。
「その獣人を止めろっ!」
二人の騎士がディラス団長の前に立つ。兵士は両手につけたマジックアイテムのかぎ爪で二人の騎士を切り裂く。
「ひ…………ひっ!」
ディラス団長は獣人の兵士に背を向けて逃げようとする。
「逃がさねぇよっ!」
獣人の兵士は巨体に似合わないスピードでディラス団長に駆け寄り、かぎ爪で首を斬った。
首がなくなったディラス団長の体が地面に横倒しになる。
「金獅子騎士団の団長の首は、このガトラ百人長が取ったぞ!」
獣人の兵士――ガトラ団長は、そう叫びながら、さらに三人の騎士を倒す。
盾を持った騎士たちを倒したサダル国の兵士たちがガトラ百人長に合流した。
「ガトラ百人長! 金獅子の奴らが集まってきます。どうします?」
「目的は果たしたのだから、逃げるに決まってる。全員、俺についてこい!」
狼の顔をした獣人の兵士たちは、急な斜面を駆け下りていった。
◇
その後、ディラス団長を失った金獅子騎士団は、初老のアルーム千人長が団長代理となり、騎士たちをまとめて砦に向かった。
しかし、既に砦はナグチ将軍に落とされていた。
アルーム千人長は敗走するヨム国の兵士たちを守りながら、ウロナ村に撤退するしかなかった。
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