第232話 彼方vs魔法戦士ティルキル
彼方はティルキルと残った三人の兵士を見て、アイテムカードを選択した。
◇◇◇
【アイテムカード:機械仕掛けの短剣】
【レア度:★★★★(4) 装備すると、スピードと防御力が上がる。具現化時間:2日。再使用時間:10日】
◇◇◇
カードが輝き、刃渡り二十センチ程の短剣が具現化される。
刃は厚みがあり、透明のガラスのような素材でできていた。刃の中には数千個の歯車が重なりあって、カチカチと動いている。
「…………くそっ! 飛行船で逃げたんじゃなかったのか」
ティルキルは青紫色の瞳で彼方を睨みつける。
「ええ。また、戦力を補強されて、追われるのは困りますから」
彼方は淡々とした口調で言った。
「それに、あなたはSランクで、それなりに強い。ここで殺しておくほうが安全だから」
「それなりだと?」
ティルキルの眉が吊り上がる。
「言ってくれるな。Fランクの異界人が」
マジックアイテムのロングソードが小刻みに震えた。
「だが、お前の強さは認めてやる。お前はSランクの中でも、トップクラスの実力者だ」
「トップクラス…………ですか」
「ああ。ただ、ここに姿を見せたのはミスだったな。イリナ百人長っ!」
「わかってます! 氷室彼方を倒せ!」
イリナ百人長が叫ぶと、二人の兵士が彼方に襲い掛かった。
「おっと、それはダメっすよ」
ベルルが両手に持った円形の盾で兵士の攻撃を防御した。
同時に彼方が動く。機械仕掛けの短剣で右にいた兵士の首筋を斬り、左にいた兵士に近づく。
「おのれっ!」
兵士は素早くロングソードを突く。
「彼方くんはやらせないっす!」
ベルルが右手を伸ばして、ロングソードの攻撃を止める。
ベルルの横をすり抜けて、彼方が機械仕掛けの短剣を振った。兵士はロングソードで防御しようとしたが、その動きに合わせて彼方は剣筋を変化させた。ネーデの腕輪の効果を利用して刃を止め、別方向から兵士の体を斬った。
「があっ…………が…………」
兵士は顔を歪ませたまま、横倒しになった。
「許さんぞ! 氷室彼方っ!」
イリナ百人長が鬼のような形相で彼方に攻撃を仕掛ける。炎の属性が付与されたロングソードを真横に振った。赤い炎が彼方に迫る。
「無駄無駄っす!」
割り込んだベルルが二つの盾で炎の攻撃を塞いだ。
「どけっ! 小娘っ!」
イリナ百人長がベルルに肩をぶつける。ぐらりとベルルの上半身が傾いた。
その時――。
後方にいたティルキルが動いた。
光の呪文でベルルの視界を奪い、ロングソードを突き出す。 ロングソードは盾と盾の間をすり抜けて、ベルルの胸に突き刺さった。
「くっ…………ミスった…………っす」
ベルルの姿がカードに変化して消える。
同時に彼方がイリナ百人長の心臓を機械仕掛けの短剣で貫いた。
「も…………申し訳ありません…………ギジェル千人…………長」
イリナ百人長は口を半開きにしたまま、地面に倒れた。
「これで、残り一人」
彼方は顔を強張らせたティルキルに視線を向ける。
「盾の女もお前が召喚してたのか?」
「ええ。その通りです」
「…………五体も召喚するとはな。規格外にも程があるぞ」
ティルキルは肩で息をしながら、ロングソードを構える。
「しかも、まだ、余裕があるな。もしかして、六体目もいけるのか?」
「まあね」と彼方は答える。
「あなたは、だいぶ疲れてるようですね。魔力の使いすぎってやつかな」
「…………ああ。もう、呪文は一発も打てない。だが、剣なら、まだやれる!」
ティルキルはじりじりと彼方に近づく。
「俺と剣のみで戦う勇気はあるか?」
「言葉で僕を縛るのは無理ですよ」
彼方は一歩下がって、機械仕掛けの短剣を握り直す。
「チャンスがあれば、攻撃呪文も召喚呪文も使うつもりですから」
「なら、仕方ねぇなっ!」
ティルキルは一気に彼方に駆け寄り、ロングソードを投げた。
彼方は機械仕掛けの短剣でロングソードを弾き返した。
「これからだぜっ!」
落ちていたイリナ百人長のロングソードを拾い上げ、低い姿勢から彼方の足を狙った。
彼方は左足を引いて、その攻撃をかわす。
その瞬間、ティルキルのはめた指輪が輝いた。
彼方を囲むように紫色の霧が出現する。
――やっぱり、呪文を使ってきたな。
彼方は素早く呪文カードを選択する。
◇◇◇
【呪文カード:魔力霧消】
【レア度:★★★★★★(6) 属性:光 対象の呪文を打ち消す。再使用時間:10日】
◇◇◇
紫色の霧が一瞬で消えた。
彼方は動きが止まったティルキルに向かって走る。
「くっ…………くそっ!」
ティルキルは斜め下からロングソードを振り上げた。
その刃をネーデの腕輪で受け、彼方は機械仕掛けの短剣をティルキルの左胸に突き刺した。
「ごあっ…………」
ティルキルの両膝が折れ、持っていたロングソードが地面に落ちた。
「おっ、お前…………まだ、俺が…………呪文を使えることに…………」
「気づいてましたよ」
彼方はティルキルに刃を向けたまま、唇を動かした。
「呪文を一発も打てないって言う前に、少しだけ間がありましたからね。あの時、考えたんでしょ? ここ一番で呪文を使おうって」
「こ、心が読めるのか?」
「あなたの表情や仕草や言葉から、予想してるだけです」
彼方は淡々と答えながら、数歩後ろに下がる。
「だから、あなたが左手に隠している暗器にも気づいてますよ。僕を道連れにすることはできません」
その言葉にティルキルの表情が歪んだ。
「こ…………ここまでの化け物だった…………とは」
ぐらりとティルキルの体が傾き、横倒しになった。その瞳から輝きが消えたのを確認して、彼方は祈るようにまぶたを閉じた。
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