第231話 死者の王ガデスvs魔法戦士ティルキル

 アイテムカード、異形の銅像で強化されたスケルトンとサダル国の兵士たちの戦いは乱戦になった。


 強引に攻撃を仕掛けるスケルトンを兵士たちが連携して反撃する。

 ガデスに殺された兵士がスケルトンに変化するのを見て、イリナ百人長は歯をぎりぎりと鳴らす。


「何だ、あの化け物は?」


 体中の血が冷え、漏らした声が震える。


 ――奴は殺した兵士の死体を使って、スケルトンを生み出している。このままでは、味方の数は減り、スケルトンの数が増えていく。早くなんとかせねば。


「セト十人長っ! お前の部隊は右から回り込んで、あの死霊使いを狙え」

「しっ、しかし…………」


 セト十人長は青ざめた唇を動かす。


「あれは私の手に負えるモンスターではありません」

「わかってる。お前たちは陽動だ。死霊使いの注意を引ければいい。そうすれば、ティルキル様があの化け物を倒してくれる。行けっ!」

「はっ、はい!」


 セト十人長は慌てて走り出した。


「アッカ十人長、トルム十人長!」


 イリナ百人長は二人の十人長を呼んだ。


「陣を鉄亀の陣に変えるぞ。守りを重視して、粘れるだけ粘れ! 死ぬことは絶対に許さんからな!」

「わかりました!」


 真剣な表情で二人の十人長がうなずいた。


 ◇


 ティルキルは低い姿勢で草原を移動し、ガデスの背後に回り込んでいた。

 兵士の放った炎の矢を片手で払いのけたガデスを見て、ティルキルの唇が歪んだ。


「アンデッドのくせに炎の呪文も効かないか。やはり、強いな」


 ――これが氷室彼方の切り札か。最後の最後に、とんでもないモノも召喚しやがって。

 ――だが、俺の全力なら、奴を殺せる。


 ティルキルは右手の指先で左手にはめた指輪に触れる。青白く輝く指輪の輝きが消え、右手のひらにその輝きが移動した。


 ――秘薬で魔力を強化し、さらにマジックアイテムの指輪の能力で呪文の攻撃力を倍に上げる。


 高位呪文を詠唱しながら、ティルキルはガデスの隙を狙う。


 その時――。


 セト十人長の部隊がガデスに攻撃を仕掛けた。


「カカカッ、無駄な攻撃を」


 ガデスは両手の指を胸元で絡ませた。五つの黒い炎が現れ、セトたちを攻撃する。

 二人の兵士が炎に包まれ、絶叫をあげる。


「おのれっ! アンデッドめ!」


 大柄の兵士がガデスに駆け寄った。左足を前に出し、ロングソードを振り上げる。


「死ねええええっ!」

「それはできぬな」


 ガデスはロングソードの攻撃を避け、細く尖った骨の指で兵士の胸を突き刺した。


「があっ…………」


 兵士は口をぱくぱくと動かしながら、体を痙攣させる。


 ――今だっ!


 ティルキルはガデスに向かって右手を突き出した。青白い光線があばら骨の奥に浮かんでいた心臓を貫く。


「ガッ…………ガ…………」


 ガデスは緩慢な動きで振り返り、呪文を放ったティルキルを見る。


「まだ、死なないかっ!」


 ティルキルは新たな呪文を詠唱しながら、ガデスに走り寄る。手に持ったロングソードが黄白色に輝く。


「だが、これで終わりだっ!」


 呪文で強化されたロングソードで、ガデスの体を斜めに斬る。


「グッ…………ガガ…………」


 ガデスは上半身を揺らして、ティルキルから距離を取る。


「…………み、見事だ。魔法戦士よ」


 歯をカチカチと鳴らして、ガデスは笑った。


「奇襲とはいえ、我を…………倒すとは…………」


 ガデスの体がカードに変化し、すっと消えた。


「俺の全てを使ったから…………な」


 そう言うと、ティルキルは地面に片膝をついた。


「ティルキル様っ!」


 セト十人長がティルキルに駆け寄る。


「大丈夫ですか?」

「余裕だ…………と言いたいところだが、魔力を使い切って、体が重い。もう、俺には期待するなよ」

「わかってます!」


 セト十人長はティルキルの肩に手を回す。


「陣まで戻りましょう。後はイリナ百人長がやってくれるはずです」

「そう…………だな。残りはスケルトンのみだ。頼む…………ぞ」


 ティルキルは荒い呼吸を繰り返しながら、まぶたを閉じた。


 ◇


 数十分後、最後のスケルトンの頭蓋骨が飛ばされ、骨の体が地面に倒れた。


「やっ、やったぞ! スケルトンを倒したぞ!」


 若い兵士が叫ぶと、他の兵士たちも歓呼の声をあげた。


 イリナ百人長が腰を下ろしていたティルキルに歩み寄る。


「ティルキル様、終わりました」

「…………終わったか」


 ティルキルは額に浮かんだ汗を拭いながら、立ち上がる。


「何人残った?」

「私を入れて、十二人です」


 悔しそうな顔でイリナ百人長が答える。


「…………そうか。だが、生きていれば、なんとでもなる。ナグチ将軍と合流すれば、兵士の補充もできるし、他のSランク冒険者の助けを借りることもできる」

「ならば、ギジェル千人長の仇を取れるんですね?」

「当然だ。このまま、終わらせるものか。必ず、氷室彼方を…………」


 突然、六色の雨が兵士たちに降り注いだ。


 赤色、青色、緑色、黄土色、黄白色、黒色の雨が九人の兵士の命を奪った。


◇◇◇

【呪文カード:六色の流星雨】

【レア度:★★★★★★★★(8) 広範囲の対象にランダムな属性のダメージを与える。再使用時間:20日】

◇◇◇


 呆然とするティルキルとイリナ百人長の瞳に、彼方と両盾の守護騎士ベルルの姿が映った。


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