第215話 人型破壊兵器ガギオン

 突然、出現した人型破壊兵器ガギオンにサダル国の兵士たちは混乱した。刃が赤く熱せられた電熱ブレードが兵士たちを薙ぎ倒し、火球大砲が横陣を敷いていた兵士たちを吹き飛ばす。


 後方で部隊を指揮するギジェル千人長の顔が強張った。


「何だ? あの巨大なゴーレムは?」


 兵士たちがロングソードと矢でガギオンを攻撃するが、青黒い金属がその攻撃を跳ね返す。無数の歯車が高速で動き、火球が連続で発射された。


 爆発音が響き、横陣が大きく崩れる。


「氷室彼方が召喚したゴーレムかっ!」


 ギジェル千人長は隣にいたノール百人長に声をかけた。


「お前の部隊で右から城を攻めろ。そこに氷室彼方がいるはずだ。奴を殺せば、あのゴーレムも消える。急げっ!」

「はっ! おまかせください」


 ノール百人長はギジェル千人長から離れ、部下の兵士たちに指示を出す。五十人の兵士たちが右側からキルハ城目指して斜面を駆け上がる。


 その動きにガギオンが反応した。火球を発射しながら、ノール百人長の部隊に近づく。


「ゴーレムを止めろ!」


 ギジェル千人長の命令に従い、数十人の兵士たちがガギオンを取り囲む。


「無理に攻めようとするな。時間を稼げればいい!」


 そう叫びながら、ギジェル千人長はキルハ城を見上げる。


 ――ヨム国の騎士たちの動きがない。ゴーレムと連携して、攻めてこないのか?


「…………森の中に騎士たちが隠れてる可能性があるぞ。奇襲に注意しろ!」


 ――まあいい。向こうが連携しないのなら、一気にキルハ城を奪う!


 ガギオンの上半身が腰の部分から回転し、囲んでいた兵士たちを薙ぎ払う。


「ひ…………ひっ!」


 逃げようとした兵士たち無視して、ガギオンは城を攻める部隊に大砲の銃口を向ける。


 その時――。


 ガギオンの肘の部分に白く輝く光の矢が突き刺さり、数秒後に爆発した。魔法陣が刻まれた大砲が地面に落ちる。


 頭部にある五つのレンズに呪文を放ったSランクの魔法戦士ティルキルの姿が映った。


「どけどけーっ!」


 ティルキルの隣にいたSランクの狂戦士イゴールが巨体を揺らして、ガギオンに駆け寄る。大きく左足を踏み込み、大剣を真横に振った。ギザギザの刃が高速で回転し、ガギオンの左足に当たった。


 ガガガガガガッ!


 金属同士がぶつかり合う音がして、多くの歯車が地面に落ちる。


 しかし、ガギオンは痛みを感じていないのか、すぐに電熱ブレードで反撃した。

 イゴールは二メートル以上ある刃を大剣で受けた。イゴールの巨体がずれるように横に動く。


「ぐううっ! さすがにこいつはヤベェな」


 イゴールは牙のように尖った歯を見せて笑った。


「だが、こうでなくっちゃ、戦いは面白くねぇ!」


 巨体とは思えないスピードで、イゴールはガギオンの背後に回り込み、もう一度、大剣をガギオンの左足に叩きつけた。

 がくんとガギオンの体が傾き、一瞬、動きが止まる。

 頭部の五つのレンズに、ティルキルが放った黄白色の光球が当たった。周囲が白く輝き、ガギオンの頭部が爆発する。


 地響きを立てて、ガギオンの巨体が横倒しになる。


 動かなくなったガギオンを見て、周囲の兵士たちが歓声をあげる。


「やったぞ。さすがティルキル様だ!」

「イゴール様もすごいぞ。こんなにでかいゴーレムと剣で渡り合うなんて」

「さすがSランクの冒険者だ。二人がいれば、俺たちが負けることはありえない」

「ああ。ティルキル様、万歳っ! イゴール様、万歳!」


 突然、ガギオンの両肩の突起から白い蒸気が噴き出した。


 呆然と立ちすくむ兵士たちに向かって、片膝をついたガギオンが電熱ブレードを振った。

 数人の兵士たちが赤い血を撒き散らしながら、十数メートル飛ばされる。


「こっ、こいつ、まだ動くぞ!」


 兵士たちが後ずさりしながら、ロングソードを構える。


「くそっ! 頭がないのに動けるのか」

「お前たちは手をだすな!」


 イゴールが上唇を舐めながら、大剣を上段に構える。


「ティルキルっ! 頼むぜ!」

「わかってる」


 後方にいたティルキルが素早く呪文を詠唱する。


 イゴールの大剣が青白く輝いた。


「ぐおおおおおっ!」


 イゴールは渾身の力を込めて、斜め下から呪文強化された大剣を振り上げた。ガギオンの巨体が斜めに斬れ、上半身と下半身が分かれる。

 バラバラと無数の歯車が散らばり、ガギオンの上半身が斜面を転がった。

 数秒後、ガギオンの体がカードに戻り、すっと消える。


「これで終わりだな」


 イゴールが右側の唇の端を吊り上げた。


「イリナ百人長っ! ゴディス百人長」


 ギジェル千人長が部下の名を叫んだ。


「今が好機だ! 一角鳥の陣でキルハ城を攻めろ!」


「おおおおっ!」


 二百人の騎士たちが雄叫びをあげて、斜面を駆け上がる。


一瞬、城門の周囲が白く輝いた。


◇◇◇

【召喚カード:天界のドラゴン】

【レア度:★★★★★★★(7) 属性:光 攻撃力:5000 防御力:7000 体力:7000 魔力:4000 能力:回復能力あり。光のブレスの攻撃は,闇属性の生物によりダメージを与える。召喚時間:3時間。再使用時間:15日】

【フレーバーテキスト:二十体の暗黒騎士が一瞬で全滅しただと?(闇軍師ネクロ)】

◇◇◇


 城門の前に体長十メートル近いドラゴンが出現した。ドラゴンは白く輝く鱗に覆われていて、四枚の羽があった。瞳は金色で頭部に白く長い毛が生えている。


 天界のドラゴンは胸元を膨らませて、光のブレスを吐いた。

 先頭を走っていたノール百人長の兵士たちが白い光に包まれ、ばたばたと倒れる。


「ゴォオオオオオ」


 天界のドラゴンは鳴き声をあげて、動揺している兵士たちに襲い掛かった。


「ドラゴンまで召喚できるのか…………」


 ギジェル千人長の声が掠れる。


「氷室彼方…………ここまでの召喚師だったとは…………」


 長髪の女兵士がギジェル千人長に駆け寄った。


「ギジェル千人長っ! ノール百人長が戦死されました!」

「…………くっ! ノール百人長の部隊を横陣の後ろまで下がらせろ!」


 素早く指示を出して、ギジェル千人長は暴れている天界のドラゴンに鋭い視線を向ける。


 ――やってくれたな。あのドラゴンが氷室彼方の切り札だったのか。


 ――ならば、あれを倒して、一気に勝負をつけてやる。こっちにはティルキル様とイゴール様がいるんだからな。

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