第213話 雨の中の戦い

◇◇◇

【召喚カード:スライムの女王 スウラ】

【レア度:★★★★(4) 属性:水 攻撃力:200 防御力:800 体力:500 魔力:400 能力:三つの属性のスライムを召喚することができる。召喚時間:3時間。再使用時間:10日】

【フレーバーテキスト:ふぇええ。私、悪いスライムの女王じゃないんですぅ】

◇◇◇


 彼方の前に光沢のある白地の服を着た二十代の女が現れた。女の髪は青緑色で、瞳も赤色、胸は大きく、腰はくびれていた。右手には六色の宝石が埋め込まれた杖を持っている。


 女――スウラは彼方に向かって、優雅に一礼した。胸元が大きく開いた服から、柔らかそうな膨らみが見えている。


「彼方様、ご命令をどうぞですぅ!」


 おっとりとした声でスウラは言った。


「攻めてくる兵士の撃退だよ。数は約三十」

「理解しましたぁ。では、早速…………」


 スウラは呪文を唱えながら、杖を振った。周囲に青色のスライムが十数体現れる。

 スライムはスウラの意思を理解しているのか、楕円形の体をうねうねと変形させながら、斜面を這いずる。


「ひっ、氷室男爵」


 コロン十人長がぱくぱくと口を動かした。


「この女は何だっ!?」

「僕が召喚したんです」


 彼方は視線を下方の森に向けたまま、コロン十人長の質問に答えた。


「人間の女を召喚? いっ、いや、それ以前に、いつ召喚呪文の詠唱を?」

「そんなことより、敵が来ました。気をつけて!」


 彼方はさらに呪文カードを選択する。


◇◇◇

【アイテムカード:レーザーブレード】

【レア度:★★★★★(5) 無属性の剣。装備した者の意思を読み、刃の長さを変える。具現化時間:3時間。再使用時間:7日】

◇◇◇


 刃が黄緑色に発光するレーザーブレードが具現化された。

 彼方はレーザーブレードを掴み、両足を軽く広げる。


「具現化能力っ!?」


 コロン十人長の目が丸くなる。


「あっ、あなたは一体…………」


 その時、ひゅんと風を切る音がして、黒く塗られた矢がコロン十人長の頭部に迫る。

 彼方の持つレーザーブレードの刃が、ぐっと伸びて黒い矢を叩き落とした。


「油断しないほうがいいよ」

「あっ…………あ……ああ」


 コロン十人長が強張った顔でうなずく。


 斜面を駆け上がってくる三人の兵士が彼方の視界に入った。兵士はぼんやりと輝くマジックアイテムのロングソードを手にしている。


 ――あの三人の後ろに弓兵がいるな。呪文カードで早めに倒しておくか。


 突然、迫っていた三人の兵士の足が止まった。彼らの足に青色のスライムがくっついている。スライムはどろどろのノリのように兵士たちの足に絡み、ブーツとズボンを溶かしている。


 ――これなら、呪文はまだ使わなくていい。


 彼方は黒い矢を叩き落としながら、動けなくなった兵士たちに駆け寄り、レーザーブレードで一気に倒した。そのまま、右に向かって走り出す。


 新たに五人の兵士が彼方を狙って近づいてくる。


 その五人に、十数匹の紫色のスライムが襲い掛かった。兵士たちの体が紫色の液体に包まれ、ばたばたと倒れる。さらに後方の弓兵がオレンジ色の炎に包まれた。足元には赤色のスライムが絡みついている。


 ――ポイズン系のスライムと炎系のスライムか。一匹一匹は弱いけど、スウラが指揮すると強くなるって、設定資料集に書いてあったな。


 スライムたちと協力して、彼方とコロン十人長は兵士たちを倒していく。


「くっ! 一度、退くぞ!」


 リーダーらしき兵士の声が聞こえ、生き残った兵士たちが走り去っていく。


「スウラっ!」


 彼方は後方にいたスウラを呼んだ。


「召喚時間ぎりぎりまで、兵士たちを追って!」

「全滅させろってことですかぁ?」

「理想はね」

「了解ですぅ。では…………」


 スウラは胸を揺らして斜面を駆け下りる。数十匹のスライムが彼女を追って動き出した。


 ――こういう時、召喚クリーチャーは使いやすいな。致命傷を負ってもカードに戻るだけだし。


 彼方は兵士の死体の数を確認する。


 ――十八人か。ミュリックの情報通りなら、残り十二人前後だな。次に攻めてくるとしたら、大人数になるはず。


 背後にある城に視線を向けて、雨に濡れた髪の毛をかき上げた。


 ――外壁の修理は終わってるけど、大軍で攻められたら、城とみんなを守るのは厳しいか。


「コロンさん」


 彼方は下方の森を警戒しているコロン十人長に声をかけた。


「とりあえず、城の中に戻りましょう。多分、今夜の襲撃はもうありませんから」

「あっ、ああ…………そう…………ですね」


 コロン十人長は、じっと彼方を見つめる。


「あなたがここまで剣を扱えるとは。それに召喚呪文や具現化能力まで…………」

「こっちの世界に転移した時に、特別な力を手に入れたみたいなんだ」

「いっ、いや、そういうことも、まれにあるとは聞いているが、あなたの力は…………」


 コロン十人長は彼方のベルトにはめ込まれている茶色のプレートに視線を動かす。


「どうして、あなたがFランクなのですかっ!?」

「よく言われるけど、それは僕が決めたことじゃないから」


 彼方は頭をかきながら、ぎこちなく笑った。


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