第193話 エルメアとニーア
――羽が生えた種族か…………。
彼方はニーアの白い羽をじっと見つめる。
――華奢だけど、人の子供と同じような体型だし、これで飛べるのは不思議だな。ドラゴンもそうだし、魔力が関係してるのかもしれない。
「見ての通り、ニーアは
エルメアが隣に立っているニーアに視線を向ける。
「有翼人か…………」
「んっ? 驚かないのか?」
「僕は異界人で、この世界に転移してから半年も経ってないんだ」
「異界人…………あっ!」
エルメアの金色の目が大きくなった。
「氷室彼方かっ!」
「うん。さっき、自己紹介したよね」
短剣に手を伸ばしたエルメアに対して、彼方は両手を胸元まで上げる。
「剣は抜かないでくれると助かるな。なるべく戦いたくないし、君とは話し合いができると思ってるから」
「…………本当にお前は氷室彼方なのか?」
「うむにゃ」
彼方の代わりにミケが答えた。
「彼方は彼方なのにゃ。しかも男爵でご機嫌がうるわしいのにゃ」
「意味不明だよ」
彼方はミケに突っ込みを入れた。
「それだけ警戒するってことは、僕が魔神ザルドゥを倒したことを知ってるんだろ? それなら、僕と戦っても無駄だとわかるよね?」
「それは…………」
「それとも、君はザルドゥより強い力を持ってるのかな?」
「…………いや」
エルメアの瞳から戦意が消えた。
「その通りだ。ザルドゥ様を倒したのがお前なら、私が勝てるわけがない」
「で、話を戻すけど、有翼人って珍しいの?」
「あ、ああ。最近はほとんど見かけない種族だからな」
「見かけなくなった理由があるのかな」
エルメアは右手でニーアの髪の毛をかき上げた。ニーアの額にはピンク色の宝石が埋め込まれている。宝石は光に反射して、キラキラと輝く。
「これはパルム石だ。見ての通り美しい宝石で価値が高い。魔力も秘めていて、マジックアイテムを作る素材としても使われている」
「…………使われてるって、額の石を取るってこと?」
「そうだ。パルム石が取られれば有翼人は空を飛べなくなるし、生命力がなくなり、数週間で死ぬ」
「…………もしかして、君はニーアを誰かから守っているのかな?」
彼方の言葉にエルメアは硬い表情でうなずく。
「パルム石を狙っているのはデスアリス様だ」
「四天王の一人か…………」
「ああ。そして私はデスアリス様の部下だった」
「部下だった?」
「…………今は違うがな」
エルメアは両手をこぶしの形に変える。
「私は他の仲間といっしょに有翼人がいると噂された渓谷に向かい、両親の墓の前にいたニーアを捕らえた。その帰りにドラゴンゾンビに襲われたんだ」
「ゾンビ化したドラゴンだね」
「ああ。突然の襲撃で仲間は全員殺された。私も大ケガをして動けなくなった。その時、助けてくれたのがニーアだった。ニーアは必死に私を看病してくれた。額の石を奪って、ニーアを殺そうとしている私をな」
エルメアのこぶしが小刻みに震え始めた。
「私はニーアを連れて逃げる決断をした。デスアリス様の追っ手と戦いながら、この廃墟の城まで逃げてきたんだ」
「…………そういう事情か」
彼方はじっとエルメアを見つめる。
――エルメアの言葉にウソはなさそうだな。声や仕草にも違和感はないし、もともと、ウソをつく理由もない。
「事情はわかった。それで、これからどうするつもりなの?」
エルメアは一瞬、上唇を噛んだ。
「…………追っ手にカカドワ山を超えて東に逃げたと見せかけ、南に行くつもりだった」
「それは止めたほうがいいかな」
「何故だ?」
「南からは、サダル国の軍隊が攻めてくるからだよ」
「なんだとっ!」
エルメアの表情が険しくなった。
「サダル国とヨム国が争うのか?」
「うん。ガリアの森の西側は戦場になると思う。そしてパルム石が人にとっても貴重な物なら、君たちはデスアリスだけじゃなくて、人にも追われるだろうから。だから、逃げるとしたら、北のほうがいいかもしれない」
「北か…………」
「残念だが、逃げるのは無理だな」
突然、男の声が聞こえてきた。
彼方たちは声のした方向に視線を向ける。
そこには黄金色の鱗に覆われた大柄のリザードマンが立っていた。
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