第177話 Fランクの冒険者たち

 王都ヴェストリアの東にある鍾乳洞の前で、四人の冒険者たちが言い争っていた。年齢は十代半ばで、茶色(Fランク)と黄土色(Eランク)のプレートを鎧や服につけている。

 その鎧と服はぼろぼろで、茶髪の少女は腕と足をケガしていた。


「あのさー、どうして、ボムスライムを剣で攻撃するの?」


 金髪のハーフエルフの少女が鎧を装備した少年に詰め寄った。


「そのせいで、アニーがケガしちゃったじゃない。私たちの服だってボロボロだよ」

「暗くてよく見えなかったんだよ!」


 少年が唇を尖らせた。


「それに、でかい魔水晶とガリム鋼を見つけたからいいだろ。これを売るだけでも金貨五枚にはなるぜ」

「でも、アニーがケガしちゃったから、治療のために王都に戻らないといけないし。回復薬も全部使っちゃったからさ」


 金髪の少女はため息をついた。


「本当なら、あと二日は潜り続けるはずだったのに」

「コリン、私は大丈夫だから」


 アニーが金髪の少女――コリンに笑顔を向ける。


「たしかにケガしてるけど、このぐらいなら少し休めば大丈夫だから」

「無理しちゃダメだって。骨にひびが入ってるかもしれないし」

「そうだな」


 体格のいい斧を持った少年がうなずいた。


「一度王都に戻ろう。そのほうが間違いがない」


「ちょっと待つにゃ!」


 突然、木の陰からミケが現れた。

 ミケは茶色のしっぽを降りながら、冒険者たちに歩み寄る。


「どうやら、ケガをしてるみたいだにゃ。ミケにまかせるにゃ」

「あなた…………治せるの?」


 コリンがミケに質問した。


「ミケは治せないにゃ!」

「じゃあ、回復薬を売ってくれるの?」

「回復薬もないにゃ!」

「…………それなら何のために声かけてきたのよ?」

「ミケは治せないけど、回復呪文が使える魔道師がミケのパーティーにいるのにゃ」


 ミケはそう言うと、木の陰に隠れていた香鈴を手招きした。

 フードをかぶった香鈴がコリンの前に出て、ぺこりと頭を下げた。


「こっ、こんにちは」

「挨拶はどうでもいいよ。それより、あなた、本当に回復呪文が使えるの?」

「は、はい。そのぐらいの傷なら」


 香鈴はケガをしているアニーをちらりと見る。


「そこでにゃ」


 ミケが香鈴とコリンの間に割って入った。


「にゃんと、今ならリル金貨二枚で治療するのにゃ」

「えっ? そんなに安くていいの?」


 コリンが目を丸くする。


「それって、相場の五割以下じゃない」

「うむにゃ。こうすれば、困ってる冒険者も喜ぶし、ミケたちも嬉しいのにゃ。ウィンウィンの関係なのにゃ」


 ミケは両手を腰に当てて胸を張る。


「で、どうかにゃ? 今なら、近くの森で見つけたポク芋も一個つけるにゃ」

「もちろん、オッケーよ。いいよね?」


 二人の少年が同時にうなずく。


「じゃあ…………」


 香鈴がケガをしたアニーに歩み寄り、フードから右手を出した。右手は草のつるが絡まっていて、小さな黄緑色の葉が生えている。


「え…………?」


 アニーが驚いた顔で香鈴の右手を凝視する。


「じっとしててください」


 右手をアニーの腕に近づけて、香鈴は桜色の唇を動かす。


「…………タイノ…………イノ…………デケ…………」


 香鈴の手のひらが緑色に輝き、アニーの傷が塞がっていく。


「すっ、すげぇ」


 鎧を装備した少年が大きく口を開けた。


「安いからたいしたことないと思ってたけど、完璧な回復呪文じゃねぇか」

「もちろんにゃ」


 ミケが得意げな表情で少年の腰を叩く。


「香鈴は回復呪文が得意なので、最初からDランクになれたのにゃ。すごい逸材なのにゃ」

「お前は…………Fランクか?」

「うむにゃ。でも、ミケがリーダーなのにゃ」

「リーダーって二人しかいないだろ?」

「彼方がいるにゃ。彼方は強い異界人なのにゃ」

「へーっ、強いって、Cランク以上か?」

「彼方はFランクにゃ」

「そいつもFランクかよ!」


 少年はミケに突っ込みを入れる。


「つーか、Fランクなら強くないだろ?」

「彼方はちょー強いのにゃ。内緒だけど、上位モンスターも倒したことがあるのにゃ」

「上位モンスターをFランクが倒せるわけねーよ」


 少年は呆れた顔でミケを見つめる。


「まあ、そいつのことは置いといて、助けてくれたことに感謝するぜ。これで王都まで戻らなくてすむからな」


「そうね」とコリンが同意した。


「もう一潜りはできそう。それでリル金貨二枚以上は確実に稼げるだろうし」

「とりあえず、少し休もうぜ。俺も疲れたよ」


 ガサガサ…………。


 その時、野草を揺らす音がして、茂みの奥から黒い影が現れた

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