第176話 騎士たち
次の日の朝、ウロナ村の中央にある村長の家の一室に、多くの騎士たちが集まっていた。
ティアナール、リューク団長、ウル団長、ゴルバ千人長、クリル千人長…………。そして、Sランクの冒険者ユリエスとその娘でAランクの冒険者ユリナ。
二十人以上が部屋の中央にある巨大なテーブルの周りに座っている。
「何がどうなってる?」
白龍騎士団のゴルバ千人長が指先でテーブルを叩いた。
「何故、奴らは攻めて来ないんだ?」
「たしかに変だな」
隣の席にいたリューク団長がうなずく。
「今のウロナ村の状況を考えれば、二日連続で攻めない理由がない」
「何かの作戦では?」
銀狼騎士団のクリル千人長が片手を上げて発言する。
「いや、それはないだろう。作戦にしては意味がなさすぎる」
ウル団長が銀色の髪をかきながら言った。
「もしかして、直接王都を攻めることにしたか」
「それもないな」
リューク団長が答える。
「ここで王都を攻めようとしたら、俺たちがモンスターの軍隊を後方から攻めることもできる。奴らもそれぐらいはわかってるだろうさ」
「じゃあ、奴らの目的は何なんだ?」
「それがわかってれば、ここに集まって会議なんてしてないだろ」
リューク団長は肩をすくめた。
突然、扉が開き、ティアナールの弟のアルベールが部屋に入ってきた。
「たっ、大変です。モ、モンスターどもが…………北の盆地…………」
「おいっ!」
ティアナールが金色の眉を吊り上げた。
「息を整えて、正確に報告しろ! それが偵察に行ったお前の仕事だぞ!」
「すっ、すみません! 姉…………ティアナール百人長!」
アルベールは何度も深呼吸をして、額の汗を拭った。
「報告します! 北の盆地に多くのモンスターの死体がありました」
「多くとは、どのぐらいだ?」
「約二万です」
「二万だとっ!」
リューク団長がイスから立ち上がった。
「その死体はネフュータス軍のモンスターなのか?」
「はい。三日前に戦った上位モンスターの死体がいくつもありましたので」
「…………どういうことだ?」
イスに座っていた百人長たちが眉間にしわを刻む。
「二万なら、ネフュータス軍のほぼ全てのはずだ」
「ってことは、全滅したってことか?」
「そ…………そうなるな」
「だが、そんな都合のいいことが起こるなんて」
「正義の神フレアが助けてくれたのか…………」
「おいっ、アルベール」
リューク団長がアルベールの名を呼んだ。
「ネフュータスがどこにいるかはわかったのか?」
「そっ、それがネフュータスらしき死体もありまして…………」
「…………はぁ!? ネフュータスの死体だとっ!」
リューク団長は驚いた顔で口を大きく開く。
「ネフュータスも死んでるのか?」
「はっ、はい。多分」
「そっちを早く報告しろっ!」
リューク団長の怒声が部屋中に響いた。
「ウル団長、村を頼む。俺はネフュータスの死体を確認に行く」
「あ、ああ。それは構わんが」
ウル団長は険しい顔をして、アゴにこぶしを寄せた。
「何がどうなってるんだ?」
「俺にもわからん。だが、本当にネフュータスが死んでいるのなら、この戦争は俺たちの勝ちになるな」
「そんなのでいいのか?」
「いいも悪いも、それが事実なら受け入れるしかないだろう」
リューク団長は、両方の眉を眉間に寄せた。
「とにかく、正確な情報が必要だ」
「…………彼方だ」
両隣にいる騎士たちにも聞こえない声で、ティアナールが言った。
――彼方がネフュータスと二万のモンスターを倒したんだ。それ以外考えられない。
ティアナールは膝に乗せていた両手をこぶしの形に変える。
――魔神ザルドゥを倒し、さらに四天王のネフュータスも倒すか。
「ティアナールっ!」
リューク団長がティアナールの肩を掴んだ。
「お前の部隊もついてこい。不測の事態が起こるかもしれないからな」
「はいっ!」
ティアナールは背筋を伸ばしてイスから立ち上がる。
――彼方のことは話さないほうがいいか。彼方の実力をある程度知ってる者でも信じないだろうしな。たった一人で二万のモンスターを全滅させたなど。
ティアナールの脳裏に彼方の姿が浮かび上がる。
「本当に、とんでもない男だ」
「んっ? 何か言ったか?」
リューク団長はティアナールに顔を近づける。
「…………いいえ。何でもありません」
ティアナールの表情が引き締まった。
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