第155話 ウロナ村の戦い9

「やったね、彼方」


 レーネが彼方の肩を叩いた。


「アラクネーを一撃で倒すなんて、さすが彼方ね」

「この武器のおかげだよ」


 彼方は黄金色の銃をレーネに見せる。


「これって、変なダンジョンでキメラを倒した時にも使ってたよね?」

「うん。なかなか強力な武器なんだよ」

「なら、それをいつも使ってればいいじゃない? それなら上位モンスターをがんがん倒せるし」

「それは無理なんだ」


 彼方はレーネの耳元に唇を寄せる。


「レーネには話すけど、この武器は一発しか撃てないんだ。それに、ずっと使うこともできなくて」

「あ、そうなんだ」


 レーネは妖銃ムラマサの銃身を指で突く。


「そういや、彼方はいろんな武器を使い回しているよね。そういう事情があったわけか」

「そのうちバレるだろうけどね。一応、秘密ってことで」

「わかってる。情報屋に売ったりしないって」


 レーネはピンク色の舌を出して笑った。


 ◇


「アラクネーは死んだ! 残るはネフュータスのみだ!」


 ティアナールがロングソードの先端を宙に浮いているネフュータスに向けた。


「他のモンスターはいい! 奴だけを狙え!」

「おおおーっ!」


 騎士たちはネフュータスに向かって走り出す。

 無数の矢がネフュータスに降り注ぐ。

 ネフュータスは半透明の赤い膜で矢を防ぎながら、ゆっくりと後退する。


「四方から矢を浴びせろ! 呪文もどんどん使え!」


 ティアナールは大声を出しながら、部下たちとともにネフュータスに近づく。


その時、十数個のオレンジ色の球がネフュータスの周囲に出現した。球はネフュータスを囲みながら、意思を持っているかのように攻撃を開始した。


 ネフュータスは杖で防御していたが、一つの球が背後から肩に当たった。

 バンと爆発音がして、ネフュータスの肩が抉れる。


「ちっ…………」


 ネフュータスは舌打ちをして、さらに後方に移動する。


「逃がさんぞ! ネフュータスっ!」


 Sランクのユリエスがオレンジ色の球を操作しながら、ネフュータスを追う。

 ユリエスの動きに気づいたティアナールが口を大きく開いた。


「ユリエス殿を支援するぞ! 矢がなくなるまで打ちつくせ!」


 弓兵たちが盾を持つ騎士に守られながら矢を放つ。

 ネフュータスは矢と呪文の攻撃を避けて地面に降り立つ。

 ティアナールの緑色の瞳が輝いた。


「今だっ! 全員突撃っ!」


 ティアナールの声に多くの騎士たちが反応した。気合の声をあげて、ネフュータスに突っ込んでいく。


 その時――。


 ネフュータスの胸元にある白く小さな顔が呪文を唱えた。

 青黒い炎が周囲にいた騎士たちの体を包み込む。


「ぎゃあああああっ!」


 騎士たちが悲鳴をあげて、地面に倒れた。

 白い煙が周囲に充満し、ネフュータスの姿が消える。


「どこだっ!? ネフュータスはどこにいった?」


 騎士たちは煙を手で払いながら、ネフュータスの姿を捜す。

 背の高い騎士が北の森に向かっているネフュータスの姿を発見した。


「ネフュータスがいたぞ! 北の森に逃げる気だ!」

「追えっ! 絶対に逃がすな!」


 ネフュータスを追って、数十人の騎士たちが北に走る。

 その前に大型の盾を持ったリザードマンの部隊が立ち塞がった。


「ネフュータス様を守れ!」


 リーダーらしき大柄のリザードマンが野太い声で叫んだ。

 リザードマンたちが騎士たちに襲い掛かる。

 武器がぶつかり、金属音が周囲に響いた。


「雑魚はまかせたぞ!」


 ユリエスがリザードマンの包囲を抜けて、ネフュータスに迫った。

 ティアナールの部隊もユリエスの後に続く。


「エリスっ!」


 ティアナールは隣を走っている女騎士に声をかけた。


「赤鷲騎士団の弓兵を集めてこい。またネフュータスが空に逃げるかもしれん」

「わかりました」


 エリスはこくりとうなずくとティアナールから離れる。


 ――今がネフュータスを倒す好機だ。Sランクのユリエス殿がいて、彼方もいる。何としても、ここで勝負をつける!


 ティアナールは美しい唇を強く結んだ。


 ◇


 彼方、レーネ、風子が北の森を抜けると、ユリエスとティアナールの部隊が横陣を敷いたモンスターの部隊と戦っていた。

 その後方には十数人のダークエルフに囲まれたネフュータスがいる。


 彼方は親指の爪を唇に寄せた。


 ――攻める騎士の数が少ないな。このままじゃ、横陣を突破してネフュータスを狙うことはできないか。


「諦めるなっ!」


 ティアナールの声が彼方のいる場所まで届いた。


「ネフュータスさえ倒せば、全てが終わる! 限界を超えて戦え!」

「うおおおーっ!」


 騎士たちがモンスターの陣に突っ込んでいく。


 ――気合だけじゃ、あの陣は抜けない。バランスよくオーガも配置されてるし。最初から、ここに布陣してたのか。


 彼方はダークエルフと話をしているネフュータスをじっと見つめる。


「…………レーネ、風子。僕たちもネフュータスを狙うよ」

「なら、左側から回り込むのがよさそうね」


 レーネが周囲の地形を確認しながら、上唇を舐める。


「…………うん。ルートはなんとかなりそう。上手く横陣を避けて、ネフュータスに近づけると思う」

「そんなことができるんだ?」

「当たり前でしょ。私はこれでもシーフなんだから」


 そう言って、レーネはにっと白い歯を見せた。

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