第152話 彼方とレーネ

「どっ、どうして、あなたがここにいるのっ?」

「ちょっとお金が必要になったから、モンスター狩りをしてたんだ」


 レーネの質問に彼方は答えた。


「レーネはウロナ村の依頼で?」

「うっ、うん。あ、ありがと。助けてくれて」


 レーネは頬を赤くして、彼方に礼を言った。


「見回りしてたら、突然、ゴブリンが襲い掛かってきてさ。いっしょにいた二人がやられちゃって」

「もしかして、新しいパーティの人たち?」

「ううん。見張りで組まされただけ。当分、パーティには入らないつもりだから」


 レーネは倒れている初老の男に近づき、胸当てにはめ込まれていた緑色のプレートを手に取った。


「でも、いい人だった。私と同じ十六歳の娘がいるんだって」

「…………そっか」

「しょうがないよね。こういう仕事をしてるんだから」


 もう一人の冒険者のプレートも回収して、レーネは深く息を吸い込んだ。


 その時、五匹のゴブリンが家の陰から現れた。


「レーネ、まだ戦える?」

「当たり前でしょ」


 レーネは右手を軽くあげる。手品師のように、その手にナイフが握られていた。


「まだ、ナイフはたっぷり残ってるんだから」

「それは心強いね」


 二人は互いに唇の両端を吊り上げて、迫ってきたゴブリンに攻撃を仕掛けた。


 ◇


 ゴブリンの部隊を全滅させた彼方たちは、東門に向かって走り続けた。


「ねぇ、彼方」


 隣を走っていたレーネが、風子を指差した。


「この子、彼方が召喚したんだよね?」

「うん。見た目は子供だけど、弓の腕前は超一流だよ」

「そう…………」

「どうしたの? 変な顔して」

「いやさ、彼方って…………少女趣味なの?」

「はぁ? 何それ?」


 彼方の足が止まった。


「…………彼方って、猫耳のミケとパーティ組んでるでしょ。あの子は妹みたいなものって言ってたけどさ。この子も十歳ぐらいだよね?」

「それは偶然だよっ!」

「でも、知り合いの情報屋も言ってたんだよね。彼方は少女趣味だって」

「その情報、間違ってるから」


「間違ってないよ」


 風子が彼方とレーネの会話に割って入った。


「彼方お兄ちゃんは、私のことが大好きなんだから。今度、デートもするんだよ」

「風子は黙ってて! レーネが誤解するから」


 彼方は頬をぴくぴくと動かす。


「とっ、とにかく、その情報屋に伝えておいてよ。僕は少女趣味じゃないって!」

「…………まあ、よく考えたら、彼方はティアナールとも仲良くしてるしね」

「あれ? ティアナールさんのこと、知ってるの?」

「この前、いっしょに食事したの。共通の男の話題を話しながら」

「…………それって、僕のこと?」


 彼方は自分を指差す。


「そうよ。女ばっかり召喚してる最強のFランク冒険者」

「いや、女の子系以外も召喚できるから」

「でも、女のほうが多いよね? 私の知ってる限り、あなたが召喚したのは全員女だし」

「それは僕のせいじゃないよ」


 ――カードゲームを作った会社の方針だから。そのほうが売れるからだろうけど。


「まあ、いいけどさ」


 レーネはふっと息を吐いて、肩をすくめる。


「魔神ザルドゥを倒したあなたなら、十人以上の女を妻にすることもできるだろうし」

「そんなつもりはないよ。それに、僕に恋愛感情を持ってる女の子なんていないから」

「…………いない? 本当にそう思ってるの?」


「うん」と彼方は答える。


「好意ぐらいは持たれてると嬉しいけどね」

「はぁ…………」


 レーネはショートボブの髪の毛に触れながら、彼方をじっと見つめる。


「彼方って…………さ」

「ん? 何?」

「…………何でもない。ほらっ、早く行こっ!」


 頬を膨らませて、レーネは彼方の腕を強く叩いた。

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