第139話 ミュリックの情報

「…………イベノラ村は銀狼騎士団が守ってたはずだけど?」


 彼方はミュリックに質問した。


「ネフュータスの軍にやられたってことよ」


 ミュリックは肩をすくめる。


「まあ、ネフュータスだけじゃなくて、ゲルガもいたからね。さすがのウル団長も四天王二人相手じゃ、どうにもならなかったんでしょ」

「ネフュータスとゲルガが組んでるってこと?」

「それはないみたい。多分、ゲルガの気まぐれでしょ。あいつは変わってるから」

「変わってるって?」

「うーん。理屈に合わない行動もするし、考えが読めないのよね。ある意味、一番危険な相手かもしれない」

「…………なるほど」


 彼方は親指の爪を唇に寄せた。


「…………ネフュータスのこれからの動きは?」

「新しく軍団長になったウルエルが一万の軍を率いて、ウロナ村を攻めるみたいね」

「ウルエルがどんな能力を持ってるかわかる?」

「それはわからなかった」


 ミュリックは首を左右に振った。


「ネフュータスが一万の軍をまかせるってことだから、頭がよくて強い相手でしょうね」

「…………だろうね」

「それとセルバ村で何か起こったみたい。別働隊がそっちに向かってるわ」

「あ、それは僕だよ」


 彼方が右手をあげた。


「ちょっと陽動のために、セルバ村に駐留してた部隊を潰したんだ」

「あなただったの?」


 ミュリックの目が丸くなる。


「ひとりで別働隊を潰したってこと?」

「ガデスと強化したスケルトンも使ったよ」

「あ…………あの死霊使いか」


 ミュリックは体をぶるりと震わせた。


「あなた、他にもメイド服の女や機械仕掛けの女を召喚してたわよね? まだ、他にも召喚できるの?」


「まあね」と彼方は答える。


「何体と契約してるの? 三体? 四体?」

「…………逆に質問するけど、召喚呪文が使えるモンスターの平均ってどのぐらいなの?」

「普通は一体か二体ね。でも、ネフュータスは五体以上だし、他にも四体以上召喚できる上位モンスターはいるかな」

「…………そっか」

「それで、あなたは何体召喚できるの?」

「まあ、それ以上かな」

「ってことは、六体か七体ってこと?」

「それは秘密ってことで」

「えーっ! 教えてくれないの?」


 ミュリックが不満げに唇を尖らせた。


「マジックアイテムの首輪があるから裏切れないし、私はあなたの味方でしょ?」

「じゃあ、七体で」

「じゃあ、って何よ! 適当なこと言わないで!」

「そんなことより、ネフュータスの軍隊がウロナ村を攻める日にちはわかる?」


 彼方は話題を変えた。


「予想だけど、四、五日後ってところかしら。急いで攻めるつもりはなさそうだったし」

「…………わかった。君はウロナ村の近くで情報を集めておいて欲しい。僕もすぐに行くから」


「えっ? 彼方くん、ウロナ村に行くの?」


 香鈴が驚いた顔で彼方に質問する。


「うん。ウロナ村には知り合いがいるし、少しでも手伝えたらいいかなって。それにお金を稼ぐチャンスでもあるから」

「…………また、ひとりで?」

「うん。七原さんはミケといっしょに冒険者ギルドに行って、王都の近くの仕事を探して欲しい。回復呪文が使えるのなら、いい仕事が見つかると思うから」

「…………わかった」


 胸元に手を寄せて、香鈴は首を縦に振った。


「ねぇねぇ」


 ミュリックが彼方の肩に触れた。


「お金を稼ぐって何をする気なの?」

「ネフュータスの軍には上位モンスターが百匹以上いるって聞いたからね。それを狩ろうと思って」


 胸元をまさぐるミュリックの手を軽く払いのけて、彼方は言葉を続ける。


「上位モンスターって、マジックアイテムの武器を持ってることもあるからさ。それを上手く手に入れれば、楽にお金が手に入るかなって」

「楽…………ねぇ」


 ミュリックが呆れた顔で彼方を見つめる。


「まあ、あなたなら大丈夫だと思うけど、気をつけてね。私、まだ死にたくないから」

「僕だってそうだよ。目立たず、まったりと長生きしたいと思ってるし」

「長生きはともかく、あなたが目立たずに生きるのは不可能だから」


 そう言って、ミュリックは深く息を吐き出した。

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