第136話 銀狼騎士団
ガリアの森の中にある開墾地で、数百人の騎士たちが大量のモンスターと戦っていた。
曲刀を持ったゴブリンたちが銀色の鎧を装備した騎士に襲い掛かった。騎士は二匹のゴブリンをロングソードで倒したが、三匹目のゴブリンに手首を斬り落とされる。
「ぐああああっ!」
騎士は悲鳴をあげて逃げようとしたが、その背中に数匹のゴブリンが飛び掛かった。
地面に倒れた騎士は、集まったゴブリンたちに斬り刻まれる。
無残な仲間の死体を見て、騎士たちに動揺が走った。
ロングソードを構えたまま、ゆっくりと後ずさりする。
「うろたえるな! 銀狼の騎士たちよ!」
凜とした声が響き、騎士たちが振り返る。
そこには魔法文字が刻まれた鎧を着た二十歳前後の女が立っていた。女の髪は黒色で頭部に猫のような耳が生えている。
女は右手に持っていた黄金色の槍を高く掲げる。
「敵は雑魚のゴブリンのみだ! 横陣を崩すな! 右に予備兵を回せ!」
女の指示に従って、騎士たちは組織的な戦いを始めた。
「そうだ! 焦る必要はないぞ。普通に戦えば勝てる相手だ」
次々とゴブリンたちが倒され、周囲の野草が赤く染まる。
その時、左側の茂みの中から、二匹のゴブリンが現れた。
ゴブリンは短剣を握り締め、女に走り寄る。
「クリル千人長、お下がりください!」
若い騎士が女――クリル千人長を守るように盾を構える。
「問題ない」
クリル千人長は騎士の前に出て、黄金色の槍を真横に振った。槍の柄が一メートル以上伸び、先頭にいたゴブリンの胸が裂ける。
クリル千人長の動きは止まらなかった。くるりと体を回転させて、もう一匹のゴブリンのノドを槍で突く。
小柄なゴブリンの体が飛ばされ、地面に倒れた。
「相手の力量も読めぬか。所詮はゴブリンだな」
「クリル千人長」
痩せた騎士がクリル千人長に駆け寄る。
「左から何かが来ます」
「何かとは何だ? 報告は正確にしろ!」
「は、はっ! あれは…………多分…………」
ミシミシと木が倒れる音がして、巨大なオーガが現れた。
そのオーガは背丈が七メートル以上あり、全身を多くの鉄の板で覆っていた。右手には大木のような鉄の棍棒を握っている。
「何だ…………この化け物は?」
クリル千人長が掠れた声を出す。
――普通のオーガより倍以上でかい。異形種か。
「ゴアアアアアッ!」
大地が震えるような雄叫びをあげて、オーガが前進を始めた。
呆然と立っていた騎士が棍棒で叩き潰され、一瞬で肉片に変わる。
「ひっ!」と若い騎士が悲鳴をあげた。
「落ち着け! 予備兵全員で奴を囲め。攻撃呪文を使える者は後方から奴を狙え!」
クリル千人長は予備兵とともに、オーガに攻撃を仕掛ける。
後方から十数発の火の球がオーガの巨体に当たるが、その攻撃を分厚い鉄の板が弾き返す。
前方にいた三人の騎士が棍棒で薙ぎ払われ、数十メートル飛ばされる。
クリル千人長は怒りの表情でオーガの側面に回り込み、鉄の板と板のすき間を狙って槍を突き出す。黄金色の槍がぐっと伸び、オーガの足に刺さる。
しかし、オーガの動きは止まらなかった。痛みを感じてないかのように棍棒を振り回す。
クリル千人長は素早く後方にジャンプして、オーガから距離を取った。黒く長いしっぽが逆立つ。
「ちっ! 鈍感な奴め!」
短く舌打ちをして、クリル千人長は周囲の状況を確認する。
前にいた騎士の一人が棍棒の攻撃を受けて、上半身が潰された。
「こいつの攻撃は受けるな。避けながら戦え!」
「苦労してるな。クリル千人長」
突然、背後から声が聞こえた。
振り返ると、そこには二十代の男が立っていた。男は背丈が百八十センチで銀色の髪をしていた。目は切れ長で右頬に十字の傷がある。背中には幅広の巨大な剣を背負っていた。
「ウル団長っ!」
クリル千人長は男の名を口にした。
「どうして、ここにいるんですか?」
「ここで小競り合いやってるって聞いたからな」
男――ウル団長は背負っていた大剣を手に取る。
「とりあえず、どいてろ。あのオーガは俺が殺る」
ウル団長は片方の唇の端を吊り上げたまま、無造作にオーガに近づく。
オーガが咆哮をあげて、ウル団長に棍棒を振り下ろす。
ウル団長は姿勢を低くして、右足を強く蹴った。一瞬でウル団長はオーガの足元に移動して、大剣を振った。空気を裂く音とともにオーガの右足が鉄の板ごと半分斬れた。
大量の血が噴き出し、オーガは片膝をつく。
ウル団長はオーガの片膝に飛び乗り、さらにジャンプする。
目の前にあるオーガの顔に向かって、ウル団長は大剣を振り下ろした。驚愕の表情を浮かべたオーガの顔が二つに割れた。
「ゴゴォッ…………」
オーガは地響きを立てて、その場に倒れた。大量の血が流れ出し、周囲に赤い池ができる。
オーガが倒されたことを知り、ゴブリンたちが逃げ出した。
甲高い声をあげながら、茂みの奥に姿を消した。
「申し訳ありません、ウル団長」
悔しそうな顔でクリル千人長が頭を下げた。
「本来ならば、私が倒すべき敵でした」
「気にすんな。ネフュータスの主力が来るまでに肩慣らししておきたかったからな」
ウル団長は血と脂がついた大剣を軽く振る。一瞬で刃から血と脂が消える。
「で、奴らの動きはどうだ?」
「物見からの情報によりますと、ここから西にある採掘場の跡に集まっているようです」
「予想通り、イベノラ村を狙ってるようだな」
「はい」とクリル千人長は答える。
「イベノラ村を殲滅してから、真っ直ぐにウロナ村を狙うのでしょう」
「まっ、無難だが、それが一番いい手だろうさ」
「で、こちらの作戦は? 数的には圧倒的に私たちが不利です。奴らは数万、こっちは三千ですから」
「数万といっても、ゴブリンが多いからな。危険な上位モンスターは百前後ってところだろう。それにウロナ村には白龍騎士団の奴らもいる」
ウル団長はウロナ村のある東の方向に視線を向ける。
「金持ち貴族の多い騎士団だが、実力は間違いなくある。奴らとモンスターどもを挟撃するのが理想だろうな」
「そのためには、我らがイベノラ村を守らねばなりませんね」
「…………そうだな。まっ、お前には期待してるぞ」
「はっ、はい!」
クリル千人長は犬のように黒いしっぽを振る。
「今回はウル団長に助けてもらいましたが、ネフュータスの首は私が取ってみせます」
「それは困るな」
「えっ? 困る…………ですか?」
「ああ。ネフュータスの首は俺が取るからな」
ウル団長は右頬の傷に触れながら、不敵な笑みを浮かべた。
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