第104話 彼方とミュリック
自ら金色の首輪をはめたミュリックを見て、彼方は満足げにうなずいた。
「これで、僕たちは一蓮托生だね」
「いちれん? どういう意味?」
ミュリックが眉間にしわを寄せて、彼方に質問する。
「その首輪は特別製って言っただろ。主人が特別な言葉で奴隷を従わせる以外に、主人である僕が死ぬと、首輪の仕掛けが発動して、奴隷の首が切れるんだって」
「くっ、首っ?」
「その反応だと、君は首を切られたら死ぬみたいだね。キメラみたいな体質だったら、意味がないなって思ってたけど、よかったよ」
「…………全然よくないから」
「まあ、僕が死ななければ、君も大丈夫なんだし、いっしょに長生きしよう!」
「…………はぁ」
ミュリックは額に手を当てて、深くため息をついた。
「それで、私に何をさせたいの?」
「とりあえず、馬車の行き先を王都にしてもらおうかな。ケンラ村に用事はなくなったし」
「…………わかった」
ミュリックは小窓を開けて、御者に指示を出す。
「で、他には?」
「四天王の情報を教えてくれる。特にネフュータスの」
「そりゃあ、この状況なら知ってることは何でも話すけど…………」
「王都に戻るまでの時間に、それを教えてもらうとして、他にも頼みたいことがあるんだ」
「…………ああ、そういうことね。わかった」
突然、ミュリックは服を脱ぎ始めた。陶器のような滑らかな肌と膨らんだ胸元が見える。
「ちょっ! 何やってるの?」
「え? 私を抱くんじゃないの? サキュバスとのプレイを楽しみたいんでしょ」
「違うよ!」
彼方は顔を赤くして、ぶんぶんと首を左右に振った。
「…………あなた、変わってるのね」
ミュリックは不思議そうな顔をして服を着る。
「じゃあ、何を私に頼みたいの?」
「人を捜してもらいたいんだ。僕と同じ異界人のね。多分、この世界に転移してると思うから」
「もしかして、あなたの女?」
「女の子だけど、僕の女ってわけじゃないな。名前は七原香鈴。年齢は十六歳で髪は黒。瞳の色も黒かな」
彼方は香鈴の情報をミュリックに伝えた。
「君は人間に化けることもできるし、空を飛ぶこともできる。頭もほどほどに良くて、ちょっと抜けてるけど、計算高いところもある」
「ちょっと抜けてるって何よ?」
「まあまあ。とにかく、七原さんを捜しててくれると助かるんだ。君だって、ネフュータスを暗殺してこいなんて言われるよりいいだろ?」
「それは…………そうだけど」
ミュリックは口元に手を当てて考え込む。
「…………わかった。どっちにしても、あなたの命令に逆らうことはできないし」
「よろしく頼むよ」
「それより、あなたのほうこそ、大丈夫なの? 私があなたの暗殺に失敗したってわかったら、ネフュータスは次の手を考えてくると思う。それに、他の四天王にも注意したほうがいいから。特にガラドスはザルドゥ様を殺したあなたに強い敵意を持ってるし」
「注意はするよ。ただ、僕の体は普通の人間と同じだからね。毒を飲めば死ぬし、心臓を刺されても死ぬ。それどころか、ちょっとした出血でも死ぬかもしれない」
「何か対策はないの?」
「事前に襲撃がわかってれば、まず、殺されることはないかな。ただ、奇襲されると面倒だね」
彼方は眉間に眉を寄せる。
――この世界に転移してから、命がけの戦闘を何度も繰り返してきた。それなりに強くなったと思ってるけど、もっと、近接戦闘を鍛えたほうがいいか。
「ねぇ…………」
ミュリックが彼方の手に触れた。
「本当にしなくていいの? 何なら、もっと幼い感じの少女に化けることもできるけど」
「幼い? 何で、そんなこと言うんだよ?」
「いや、情報屋が、氷室彼方は少女趣味かもしれないって言ってたから。多分、あの猫耳のハーフとパーティーを組んでるせいだと思う」
「…………その情報、どうやったら訂正できるの?」
彼方の頬がぴくぴくと痙攣した。
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