第99話 彼方vsバザム2
「どうなってるんだ?」
中庭の壁際にいたFランクの冒険者たちが騒ぎ出した。
「あいつ…………俺たちと同じFランクなんだよな?」
「え、ええ。茶色のプレートをベルトにはめ込んでるし」
女の冒険者が答える。
「だけど、あいつ、Bランクの試験官と互角に戦ってるぜ」
「いや、互角どころか、あいつのほうが強くないか?」
その言葉は、彼方と戦っているバザムの耳に届いた。
バザムの顔が怒りで赤くなる。
「お前…………もう、終わりだぞ」
バザムの持つロングソードの柄が、みしりと音を立てた。
「アグの樹液に包まれたロングソードでも人は殺せる」
「でしょうね」
彼方は冷静な声で同意する。
「お互いに気をつけたほうがいいかもしれません」
「…………後悔するなよ」
バザムは軽く左足を前に出し、姿勢を低くする。
彼方はロングソードを上段に構えて、浅く呼吸を繰り返す。
――あの姿勢からだと、マジックアイテムのブーツで一気に攻撃を仕掛けるつもりかな。視線は真っ直ぐに僕を見てるけど、まだ、攻撃しないってことは、少し迷ってるようだ。右足のつま先の向きから、左に動く可能性が高いか。
十数秒の時間が過ぎる。
――相当、慎重になってるな。まあ、これ以上、Fランクの僕に恥をかかされるのはプライドが許さないってところか。となると、一撃で倒すことより、まずは手か足を狙ってくるか。
バザムが深く息を吸い込んだ。
――くるな。
バザムは右足を強く蹴って、一気に彼方の左に移動した。体をひねり、ロングソードを真横に振る。
――やっぱり、左からか。
彼方は一歩下がって、その攻撃を避ける。ブンと大きな音がして、彼方の前髪が揺れる。
「ここからだっ!」
バザムは体を回転させて、今度は斜めにロングソードを振り下ろす。
彼方はロングソードの先端の部分に手を添えて、バザムの攻撃を受けた。
バザムはロングソードを滑らせるようにして、彼方の左手の指先を狙う。
――やっぱり、手を狙ってきたか。
彼方は素早く左手を刃から離し、ロングソードでバザムの首筋を狙う。
「遅ぇよ!」
バザムは彼方の攻撃を余裕でかわし、今度は彼方の足を狙う。
彼方は、その動きも予想していた。左足を引くと同時にロングソードを突く。
「無駄だっ!」と叫びながら、バザムは右足で地面を蹴る。
高速の蹴りが彼方の腕を狙う。
彼方はぐっと膝を曲げて、バザムの蹴りを避けた。
黒い髪の毛が数本、引き千切られる。
下がろうとした彼方のバランスが崩れた。
バザムの青い瞳がぎらりと輝く。
「これで終わりだっ!」
バザムはロングソードを彼方の頭めがけて振り下ろす。
しかし、彼方はその動きさえも予想していた。
わざとバランスを崩した体を戻し、振り下ろされるロングソードに向かって、自らのロングソードを叩きつける。
彼方のロングソードが跳ね返り、バザムの側頭部に当たる。
ゴンと大きな音がして、バザムの動きが止まった。
彼方はバザムの右腕めがけてロングソードを振り下ろす。
ボキリと骨の折れる音がして、バザムの顔が歪んだ。
「ぐああああああっ!」
バザムはロングソードを地面に落として、右腕を左手で押さえる。
「ぐっ…………て、てめぇ、わざと隙を見せたな?」
「ええ。まずかったですか?」
彼方はロングソードの先端をバザムの顔に向ける。
「ミケと戦う時に、あなたもやってたから、問題ないと思って」
「…………く、くそっ」
「で、どうするんですか?」
「ど、どうする?」
「降参するのか、しないのか、ですよ」
彼方は凍りつくような視線をバザムに向ける。
「たしか、降参の宣言が遅くて、あなたに攻撃を続けられた冒険者がいましたよね?」
「あ…………」
バザムの顔が蒼白になる。
「宣言がないってことは、続けるってことかな」
彼方はゆっくりとロングソードを振り上げた。
「こっ、降参だ! 降参する!」
バザムは悲鳴のような声をあげて、両ひざを地面につけた。
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