第92話 冒険者ギルドにて

 二日後――。


 彼方、ミケ、レーネ、ピュートは王都ヴェストリアに戻り、その足で西地区の冒険者ギルドに向かった。


 そして、馴染みの受付のミルカに今回の出来事を報告した。


「きゅ、九十六人の冒険者が全滅したんですか?」


 ミルカの質問に彼方はうなずく。


「全員確認したわけじゃありませんが、多分……」


 彼方は魔法のポーチから、五十個以上のプレートを取り出し、机の上に置いた。


「あ……」


 ミルカの表情が青ざめ、ぷっくりとした唇が震える。


「ちょ、ちょっと待っててください」


 ミルカは奥にいた初老の男に走り寄り、話を始めた。どうやら、その男はミルカの上司のようだ。


 やがて、初老の男が彼方に近づき、丁寧に頭を下げた。


「初めまして。私は冒険者ギルドの西地区代表のタカクラと申します」

「タカクラ……さんですか?」

「…………ああ。私の先祖は異界人なんです。それで、このような名前をつけられました」


 タカクラは少しだけ口角を吊り上げる。


「それより、バーゼル様がカーリュス教の信者とは本当なのですか?」


「本当よ!」


 彼方の代わりにレーネが答えた。


「それに、イリュートやモーラもね。あいつらはネフュータスと組んで、究極のモンスターを生み出そうとしてた。それが、今回の依頼の本当の目的だったの。ウソだと思うのなら、真実の水晶の儀式を受けても構わないから」

「…………いえ。その必要はありません」


 タカクラは冷静な声でレーネの目を見つめる。


「このような仕事をしていると、相手がウソをついているかどうかは、ある程度わかりますから」

「それなら、すぐに国に報告してよ」

「はい。四天王のネフュータスが関わっているのなら、軍隊が動いてくれるはずです」


 タカクラはミルカに指示を出した後、彼方に視線を向ける。


「それで、報酬の件ですが、このような事情ですので、少し待っていただくことになります」

「僕は問題ありませんけど、亡くなった冒険者の報酬はどうなるんですか?」

「遺言書があれば、そのように。なければ、身内にお渡しすることになります」

「そう…………ですか」


 ザックとムル、そしてアルクのことを思い出し、彼方の声が暗くなった。


 ◇


 冒険者ギルドを出ると、オレンジ色の夕陽が街を照らしていた。

 夕食の時間が近いせいか、肉や魚を焼いた匂いがどこからともなく漂ってくる。


 彼方は隣にいたレーネに声をかけた。


「レーネ、これからどうするの?」

「…………ザックの両親とムルの恋人に会ってくるよ」


 だらりと下げたレーネの手がこぶしの形に変化する。


「どうせ、冒険者ギルドが連絡するけど、その前に伝えるのが、同じパーティーにいた私の責任だから」

「僕もいっしょに行こうか?」

「…………ううん。私だけで大丈夫」


 レーネは赤くなった目で彼方を見つめる。


「彼方…………あなたは死んだらダメだからね」

「…………心配しないで。僕は、これでも強いから」

「うん。そうだね」


 レーネの頬が緩む。


「じゃあ、またね」


 零れ落ちそうになった涙を見られたくないのか、レーネは彼方に背を向けて走り出した。


 ◇


「彼方さん」


 ピュートが彼方の前で頭を下げた。


「僕も今日は帰ります」

「帰るってどこに?」

「ガリアの森に寝床を作っているのです。木のうろの中に干し草を敷いてて、気持ちよく眠れます」


 ピュートはじっと彼方を見つめる。


「彼方さんには、また助けられたのです。ありがとうなのです」

「気にしなくていいよ。同じ仕事を受けてたんだしね」

「いつか、僕も彼方さんみたいに強くなって、ご恩返ししますです」

「恩返しなんて、しなくていいいけど、お互いに強くならないとね。大事な仲間を守るためにも…………」


 彼方は両手のこぶしを強く握り締めた。

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