第88話 最下層の戦い6

「それじゃあ、戦闘再開っ!」


 呂華は戟を握り締め、左足を前に出す。腰をぐっと低くして限界まで体を捻った。


 キメラは雄叫びをあげて呂華に近づき、二本の右手で彼女の頭部を狙う。さらに左手で戟を掴もうとした。


 その瞬間、呂華の体が黄金色に輝いた。

 捻れていた体が戻り、戟が斜め下から振り上がる。

 衝撃音とともに、キメラの上半身が吹き飛んだ。

 上半身は緑色の壁に当たり、ぐしゃりと潰れる。


「今度は再生できるかな?」


 呂華は壁に張りついているキメラの上半身に戟の刃先を向ける。


「ギュ…………ゴッ…………」


 キメラの目が白く濁り、開いていた口から大量の血が流れ落ちた。背中の二匹の蛇も、その動きを止める。


「どうやら、死んだみたいだね。まあ、なかなか強かったかな」

「呂華っ! 下半身のほうだ!」


 彼方の言葉に、呂華は視線をキメラの下半身に向ける。


 キメラの下半身の口が裂けるように開き、その口から、黒い炎が放たれた。


 呂華の体が黒い炎に包まれる。


「ぐっ…………」


 呂華は痛みに顔を歪めながら、キメラの側面に移動する。


 ボコ…………ボコ…………ボコ…………。


 不気味な音がして、斬られた部分からピンク色の肉が盛り上がっていく。その肉が上半身を形作っていく。


「下半身からも再生できるってわけね」


 呂華は短く舌打ちをして、戟の刃先をキメラに向ける。


 ――面倒なモンスターだな。


 彼方は完全に再生したキメラをじっと見つめる。


 ――ただ、呂華のおかげで、ある程度の情報は手に入った。上半身ではなく、下半身から再生したってことは、そっちに核のようなものがあると考えてよさそうだ。それを壊せば、もう再生はできなくなるはず。問題は、その場所だけど…………。


「呂華! お腹の口の奥を狙って!」

「お腹の口? そこが弱点なの?」

「確実じゃないけどね」

「じゃあ、試してみるか」


 呂華はキメラの四本の手の攻撃を避けながら、腹部の口めがけて、戟の刃先を突き刺す。

その瞬間、キメラの左の脇腹が僅かに膨らんだ。


 ――体の中で核を移動させてるのか。それなら…………。


 彼方の持っていた深淵の剣が消え、三百枚のカードが周囲に浮かび上がる。


◇◇◇

【アイテムカード:妖銃ムラマサ】

【レア度:★★★★★★★★(8) 遠距離から強力なダメージを与える銃。弾は一発のみ。具現化時間:5分。再使用時間:20日】

◇◇◇


 彼方の前に黄金色に輝く銃が出現した。

 彼方はその銃を両手で掴み、キメラに銃口を向ける。


「呂華、左の脇腹を狙って!」

「今度は脇腹?」

「いいからっ、早く!」

「わかったよっ!」


 呂華は頬を膨らませて、戟でキメラの脇腹を斬った。

 同時にキメラの左脚の一部が僅かに膨らむ。


 ――あそこか!


 彼方はキメラの左脚に銃口を向け、引き金を引いた。

 黄金色の弾丸が飛び出し、キメラの左脚にめり込んだ。

 ガラスの割れるような音とともに、キメラの動きが止まる。


「ゴッ…………ゴ…………」


 キメラの体が斜めに傾き、地響きを立てて倒れる。

 青黒い体がどろどろに溶け始めたのを見て、彼方は溜めていた息を吐き出す。


「どうやら、倒したみたいだな」

「ちょっと彼方っ!」


 呂華が不満げな表情で、彼方に歩み寄る。


「何で、彼方が止めを刺すんだよ? 私の獲物って言ったのに」

「どっちが倒してもいいだろ。別に競争してるわけじゃないし」

「私が倒したかったんだよ! 強いモンスターだったのにさー」

「じゃあ、また、強いモンスターと戦う時には、君を召喚してあげるから」

「…………約束だからね。もし、ウソだったら、彼方を裏切って、他のマスターにつくから」


 そう言って、呂華はうなるような声を出した。

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