第50話 未来に向かって

 長い夜が明け、ゴーレム村に朝が訪れた。

 

 彼方は中央の広場に横たわっているルトに向かって、深く頭を下げる。

 

 ルトの粘土の体は傷だらけになっていたが、その表情は穏やかだった。


 ――ルトさん。ごめんなさい。あなたを守ってあげることができませんでした。


 長い時間、頭を下げていた彼方の腰を戦闘隊長のドムが叩いた。


「元気だせ。お前が悲しそうだと…………ルトも悲しむ」

「…………そうですね」


 彼方は閉じていたまぶたを開く。


「ありがとう…………彼方。お前のおかげで…………生き残れたゴーレムもいっぱいいる」

「…………全員を助けられなかったことが残念です」

「それは…………仕方ないことだ。仲間が死んだことは…………悲しい。だが、みんな、彼方に感謝してる」

「感謝ですか?」

「そうだ。ゴーレムにも…………わかる。彼方がいなかったら…………みんな死んでた」


 彼方は無言で村を見回す。広場の木は折れていて、粘土の家の多くが半壊している。

 井戸の側では、数体のゴーレムが動かなくなったゴーレムを運んでいた。


 ――たしかに、全員を助けるのは無理だった。どんなにカードの力が強力でも、できないことはあるんだ。


「ドムさん。これから、どうするんですか?」

「何も変わらない。新しい村長を選んで…………これからも、この村で…………暮らす」

「…………新しい村長か」

「だが…………ルトのことは…………みんな、忘れない。ルトは強いお前たちを連れて来てくれた。みんながルトのことを語り継いで…………いくだろう。この村が続く限り」

「…………そうですね。ルトさんは素晴らしい村長だったと思います」


 彼方の瞳が僅かに揺らめいた。


「お兄…………ちゃん」


 突然、背後から幼い子供の声が聞こえた。


 振り返ると、そこには頭に花をつけた八十七号がいた。八十七号は胴体とは違う色の粘土で作られた手と足をつけていた。


「私…………手と足…………つけてもらった。右手…………大人の手で長いけど…………ちゃんと動く」

「…………そっか。よかったね」


 彼方は頬を緩ませて、八十七号の頭を撫でる。


「お兄ちゃん…………助けてくれて…………ありがとう」

「…………きっと、君が生きていることを、天国でルトさんも喜んでいると思うよ」

「うん。私…………大人になったら…………村長になる」

「それはいいね。きっと、君ならなれると思うよ」


「彼方っ!」


 ミケがしっぽを振りながら駆け寄ってきた。


「ご飯係のサリさんがお弁当を作ってくれたにゃ」


 そう言って、大きな葉っぱで作られた包みを二つ見せる。


「チャモ鳥の卵焼きと野苺にゃ。ちゃんと彼方の分もあるにゃ」

「それは嬉しいな。お腹も空いてたし」


 彼方はミケから葉っぱの包みを一つ受け取る。


視線を動かすと、半壊した家の前にサリが立っていた。

 彼方はサリに向かって、深く頭を下げた。


「じゃあ、そろそろ王都に戻ろうか」

「うむにゃ。これで依頼完了にゃ」


 ミケは自慢げに胸を張って、ぐっと親指を突き出した。

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