第48話 彼方vs第一階層軍団長ギラス

「ザルドゥを殺した?」

「はい。多少の情報は、あなたも知ってるんじゃないんですか?」

「…………ザルドウ様…………ザルドゥは人間の魔道師に殺されたと聞いている」

「それが僕ですよ。魔道師じゃありませんが」


 彼方は無表情を変えることなく、薄い唇を動かす。


「お前は、ザルドゥを殺せる程の高位の呪文を使えると言うのか?」

「今は制限があって、あの時の呪文は使えませんが」

「どうして、そんなことを俺に話す? 自分が不利になることではないか?」

「関係ありませんよ。あの呪文が使えなくても、あなたを殺せる手段なら、百通り以上はありますから。それに…………」


 光を吸い込むような黒い瞳で、彼方はギラスを見上げる。


「あなたは、ここで死ぬんだし」

「し…………死ぬ?」

「言いましたよね。僕はあなたたちを全員殺すと。だから、自分の能力も話してるんですよ」

「あ…………」


 ギラスの声が掠れる。


「ありえない。お前がザルドゥを倒すなど、あってはならんことだ」


 ギラスは恐怖の感情を抑えつけるかのように、歯をぎりぎりと鳴らす。


「…………そうだ。わかったぞ。ザルドゥは油断したのだな。高位の呪文など使えぬ相手とあなどり、隙をつかれたのだ」


 ギラスは四つの目で彼方を睨みつける。


「俺は違う。全力でお前と戦う。切り札を使ってな」

「切り札?」

「そうだ。本当は四天王との戦いに使う予定だった。一度しか使えぬものだからな」


 ギラスは手のひらを上に向ける。そこに緑色に輝く直径二十センチ程の石が具現化された。その石は半透明で、中で何かが動いていた。


「我が命に従え! 殺戮と破壊の王、古代墓地のドラゴン!」


 ギラスが石を地面に叩きつけると、巨大なドラゴンが姿を見せた。ドラゴンは体長七メートルを超えていて、皮膚は赤黒く、耳元まで裂けた口には鋭利な刃物のような歯がずらりと並んでいる。目が黄金色に輝いていて、額には一メートル以上の角が生えていた。


「古代墓地のドラゴンよ! その人間を殺せ!」

「グガアアアッ!」


 古代墓地のドラゴンが両翼十メートル以上の羽を動かして、彼方に近づく。巨大な口が開き、胸部が膨らむ。


 ――ブレス攻撃か。


 彼方は宙に浮かび上がった三百枚のカードから、一枚のカードを選択する。


◇◇◇

【呪文カード:オーロラの壁】

【レア度:★★(2) 指定の空間に物理、呪文、特殊攻撃を防御する壁を五秒間作る。再使用時間:2日】

◇◇◇


 彼方の目の前に白、赤、緑に変化する半透明の壁が現れた。その壁が古代墓地のドラゴンが吐き出した黒い炎を受け止める。


 ――闇属性のドラゴンみたいだな。それなら…………。


 彼方は別のカードを選択した。


◇◇◇

【召喚カード:天界のドラゴン】

【レア度:★★★★★★★(7) 属性:光 攻撃力:5000 防御力:7000 体力:7000 魔力:4000 能力:回復能力あり。光のブレスの攻撃は,闇属性の生物によりダメージを与える。召喚時間:3時間。再使用時間:15日】

【フレーバーテキスト:二十体の暗黒騎士が一瞬で全滅しただと? てっ、撤退だ!】

◇◇◇


 彼方の前に体長十メートル近いドラゴンが現れる。

 ドラゴンは白く輝く鱗に覆われていて、四枚の羽があった。瞳は金色で頭部に白く長い毛が生えている。


「天界のドラゴンっ! 目の前にいるドラゴンを倒せ!」

「承知…………した」


 天界のドラゴンは迫ってくる古代墓地のドラゴンに向かって、光のブレスを吐く。


 古代墓地のドラゴンの赤黒い鱗が白い光を浴びて、焼けただれる。


「ギュアアア!」


 古代墓地のドラゴンは鋭い爪で天界のドラゴンの鱗を引き裂いた。だが、その傷はすぐに再生される。


 地響きを立てて戦うドラゴンの横をすり抜けて、彼方はダゴールの死体に駆け寄る。突き刺さっていた熾天使の槍を引き抜き、ギラスに攻撃を仕掛けた。


「くっ! まだ、召喚術を使えたのか!」


 ギラスは短く舌打ちをして、彼方の槍の攻撃を長い爪で受け止める。


 彼方は素早く槍を引き、ギラスの心臓めがけて一気に突く。その攻撃もギラスは爪で受け止めた。

 さらに体を回転させて、しっぽで彼方の胴体を狙う。

 丸太のようなしっぽの攻撃を、彼方は低い姿勢でかわす。


「貧弱な人間がっ!」


 ギラスは両方の手を交差するように動かした。爪の先端が彼方の腕に触れる。上着が裂け、腕から血が噴き出す。

 彼方は痛みに顔を歪めながらも、熾天使の槍でギラスの左足を突いた。


「ぐあっ!」


 ギラスの巨体が傾く。


「やっぱり、左足をケガしてるようですね。刀傷みたいだから、伊緒里がやってくれたのかな」


 彼方は傷つけられた腕をちらりと見る。その傷は熾天使の槍の効果で塞がりつつあった。


「そんな…………バカな…………」


 ギラスの額から、冷たい汗が流れ落ちた。

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