第46話 リリカvs第一階層軍団長ギラス
リリカの放った光球がギラスに当たる寸前、ジーラスが呪文耐性を持つ盾でその攻撃を防いだ。
「…………ほう。主を守るか。立派な部下じゃ。殺すのは惜しいぞ」
リリカは連続で呪文を放つ。
白く輝く光球、火の玉、氷の矢に空気を切り裂く風の呪文。
「ぐううっ…………くっ…………」
ジーラスは体を丸めて、その攻撃に耐える。
「ほれっ、足元が見えておるぞ」
黒い炎がジーラスの左足を焼いた。緑色の肌が一瞬で黒く変色する。
「グウッ!」
ジーラスの体勢が崩れた。
盾の上部から見えたジーラスの頭部に火の玉が当たる。ボンと大きな音がして、ジーラスの頭の一部がなくなった。
「グ…………ガガッ…………」
ジーラスは口をぱくぱくと動かして、地面に倒れた。
「さて…………と、これで、残りはお前だけじゃな」
リリカは唇の両端を吊り上げて、ギラスに歩み寄る。
「死ぬ覚悟はできたかの?」
「そんなものは必要ない」
ギラスはトカゲのようなしっぽでパンと地面を叩いた。
「いくつもの属性の呪文を使えるようだが、それがどうした? 多少、呪文を受けても、近づいてお前を切り裂けば終わりだ」
「そう考えて、わらわに近づいた者がどうなったか教えてやろう」
リリカは杖の先端をギラスに向ける。
ギラスは素早く真横に移動する。
「ほーっ、巨体のわりには早いではないか」
杖の先端から連続で火の玉が発射される。
その攻撃を避けながら、ギラスはリリカの背後に回り込む。
「甘いわっ!」
巨大な光球がリリカの頭上に現れ、それがギラスに向かって放たれる。
光球が当たる寸前、ギラスは青白い唇を動かした。同時に水色の膜のようなものがギラスの体を包む。 同時にギラスの胸部に光球が触れた。
周囲の光景が白くなり、ガラスの割れたような音がした。
しかし、ギラスはダメージを受けていなかった。そのまま、リリカに近寄り、長い爪を振り下ろす。
リリカはその攻撃を避けながら、弾幕を張るかのように呪文を打ち続ける。
「魔力が切れるのを待つつもりなら、無駄じゃぞ。わらわの魔力は無尽蔵じゃ」
「だから、どうしたっ!」
ギラスは迫ってくる火の玉を爪で弾いて、リリカに接近する。
振り上げたギラスの右手を見て、リリカは右に逃げようとした。
その瞬間、ギラスがくるりと回転して、太いしっぽがリリカの脇腹に当たった。
「かはっ…………」
リリカの体がくの字に折れ、十メートル近く叩き飛ばされる。
地面に倒れたリリカを見て、ギラスは満面の笑みを浮かべた。
「残念だったな。俺は呪文のダメージを軽減する呪文も使えるのだ」
「…………ちっ、油断した…………のぉ」
リリカは脇腹を押さえて立ち上がる。
「しっぽをそんな風に使うとは…………」
「まあ、お前も人間にしては、なかなかのものだったぞ」
ギラスはくくくと楽しそうに笑う。
「俺は軍団長の中でも戦闘能力が高くてな。今まで、迷宮に潜入してきた雑魚どもを何千人も殺してきた。お前はその中でも、五本の指に入るほどの強者だった。褒めてやろう」
「まだ…………褒めるのは早い…………じゃろ」
リリカは落ちていた杖を拾い上げ、両手で握り締める。
「その程度の防御呪文…………わらわの最強呪文で打ち破って」
突然、リリカの背後の茂みから、漆黒の鎧をつけた骸骨の戦士が現れた。
骸骨の戦士は素早くリリカに駆け寄り、赤い刃の剣で彼女を斬った。
リリカは背中から血を流しながら、前のめりに倒れる。
「遅かったな、ダゴール」
ギラスが骸骨の戦士に声をかける。
「四天王の部下どもと揉めてな」
骸骨の戦士――ダゴールが剥き出しの歯を動かして言った。
「奴らも新たな魔神になるために動き出したようだ」
「それで、第三階層軍団長ダゴールを仲間にしようとしたか」
ギラスは四つの目でダゴールを見る。
「まさか、奴らにつくなんてことはないだろうな?」
「それなら、ここに来てない。お前とは長いつき合いだし、力を強化させる秘薬をもらえるんだろ?」
「ああ。約束は守る」
ギラスが右手を軽く上げると、手のひらの上に青い液体が入った小瓶が現れた。その小瓶をダゴールに向かって放り投げる。
ダゴールはそれを受け取り、一気に飲み干した。
「…………これは…………悪くないな。力がみなぎってくる」
「力だけじゃない。魔力も強化される。お前の闇属性の呪文も強化されるはずだ」
「それはいい。もっとないのか?」
「それが最後だったが、まだ作れる。残っているゴーレムがいるからな」
ギラスは視線を村の中央に向ける。
「ふ…………ふふふ…………」
突然、倒れていたリリカが笑い出した。
「んっ? お前、まだ、生きていたのか?」
「瀕死の状態…………じゃがな」
リリカは頭部だけを動かして、ギラスとダゴールを交互に見る。
「今回のところは、わらわの負け…………じゃ」
「今回だと?」
「わらわは死んでも、また蘇る。彼方が生きている…………限りはな」
「ふん。何度、蘇っても、お前では俺には勝てぬ」
「…………そう…………かもしれぬ。だが、お前も我がマスターには勝てまい」
リリカは血のついた唇を動かして、言葉を続ける。
「そして、お前たちは死んだら蘇ることはできぬ。結局、勝つのは…………我々じゃ」
言い終えると同時に、リリカの体がカードに変化し、すっと消えた。
「何だ? 今の人間は?」
ダゴールがギラスに質問した。
「召喚された魔道師らしい」
「んっ? 召喚されたにしては意思が強かったようだが」
「どうでもいいことだ。あの少年が召喚師だったとしても、連続して召喚術を使うことはできない。いや、もうゴブリンどもにやられて死んでいるかもしれんな」
「生きてますよ」
突然、ギラスの背後から、少年の声が聞こえた。
ギラスが振り返ると、そこには、巨大な月の光に照らされた彼方が立っていた。
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