第44話 反撃開始
彼方は鋭い視線で周囲を見回す。
――この近くの家にはゴーレムたちがたくさん隠れてる。リリカがモンスターの数を減らしてるはずだけど、万全を期すために全滅させておいたほうがいいな。
周囲に浮かび上がったカードから、彼方は一枚のアイテムカードを選択する。
◇◇◇
【アイテムカード:爆弾アリの巣】
【レア度:★★★★★★★(7) 1万匹の爆弾アリが棲む巣。爆弾アリは自爆して対象を攻撃することができる。具現化時間:10時間。再使用時間:20日】
◇◇◇
広場の中央に、いびつな形をした高さ五メートル程の蟻塚が現れた。その蟻塚は赤と緑と青色のコードが絡み合って作られていて、数百個の円形の計器が不規則に設置されている。下部には直径二十センチ程の穴が十数個開いていた。
カシャ…………カシャ…………カシャ…………。
不気味な音が聞こえてきて、下部の穴から、機械のアリが現れた。それは体長三十センチぐらいの大きさで、頭部に赤色のレンズのようなものがついていた。足は六本あり、胴体の部分は半透明でぎっしりと詰まった機械の部品が見えている。
機械のアリ――爆弾アリはぞろぞろと蟻塚から出てきて、尖った歯をカチカチと動かす。
「僕の言葉がわかる?」
彼方の質問に、爆弾アリたちは首を縦に動かす。
「なら、命令するよ。村を襲っているモンスターたちを倒して、ゴーレムを守って!」
「ギ…………ギギ…………」
その命令を理解したのか、爆弾アリたちはカシャカシャと六本の脚を動かして、周囲に散らばっていく。その一部はゴーレムが隠れている家の扉の前で脚を止め、赤いレンズのついた頭部を動かしている。
――ちゃんとゴーレムを守る命令も理解しているみたいだな。
視線を動かすと、猪の頭部を持つモンスターが斧を構えて自分に近づいてくるのが見えた。
――あれは、ギラスといっしょにいたモンスターか。ゴブリンやリザードマンよりは手強そうだ。
彼方は熾天使の槍の刃先をモンスターに向ける。
「やっと、見つけたぞ」
モンスターは全身の毛を逆立てて、彼方に襲い掛かった。
雄叫びをあげて、巨大な斧を振り上げる。
その隙を彼方は見逃さなかった。
熾天使の槍で斧の柄を握っていた手首を突く。
モンスターは苦悶の表情を浮かべながらも斧を振り下ろす。
彼方は上半身だけをひねって、その攻撃をかわし、熾天使の槍でモンスターの腹部を突いた。
「舐めるなっ!」
モンスターは熾天使の槍の柄を両手で掴んだ。
「もう、離さないからな」
目を血走らせて、モンスターは笑う。
人間の力では、どうにもならないと思ったのだろう。
しかし、彼方は片手で熾天使の槍を強い力で引き抜く。
「なっ、何だとっ!?」
呆然とするモンスターから、彼方は距離を取った。
「そんなバカなっ! 俺が力で人間に負けただと?」
「この腕輪のおかげですよ」
彼方はネーデの腕輪をモンスターに見せる。
「魔法のアイテムで力を強くする効果があるんです」
「くっ、舐めるなよ! こっちも秘薬を使って体を強化してるんだ。人間ごときに負けるはずがない!」
モンスターは腹部から血を流しながら、彼方に近づく。
「今度、槍を握ったら、もう離さないぜ」
「今度なんて、ありませんよ」
彼方がそう言うと同時に、一匹の爆弾アリがモンスターの足に噛みついた。
「があっ! 何だ、こいつ!」
モンスターは爆弾アリを足から引き剥がし、地面に叩きつける。
そして、真上から爆弾アリを踏み潰した。
その瞬間、爆弾アリが爆発した。
バンッと大きな音がして、モンスターの足の指が吹き飛ぶ。
「グアアアッ!」
モンスターは悲鳴をあげて、片膝をついた。
「何だ、この虫は?」
「爆弾アリですよ」
彼方は淡々とした声で答える。
「この通り、自爆攻撃ができる機械仕掛けの虫です」
「小細工をしやがって!」
モンスターは歯を食いしばって立ち上がる。
「この程度の攻撃では、俺を倒すことなどできん!」
「そうですね。でも、爆弾アリは一匹じゃないんです」
いつの間にか、モンスターの周囲に数十匹の爆弾アリが集まっていた。
爆弾アリは、カシャカシャと脚を動かして、一斉にモンスターに襲い掛かる。
一匹の爆弾アリがモンスターの腕に噛みつき、爆発した。
モンスターの腕から、青紫色の血が流れ出す。
さらに、別の爆弾アリが足や腹に噛みつき、爆発する。
「ガアッ! や、止め…………」
一匹の爆弾アリがモンスターの頭部で爆発した。
「ゴッ…………ゴボッ…………」
顔が半分なくなったモンスターが糸の切れた人形のように倒れた。
彼方はふっと息を吐き出し、額の汗を拭う。
――なかなか防御力の高いモンスターだったけど、爆弾アリにあれだけ自爆されれば、どうにもならないか。
遠くからも爆弾アリの自爆する音が聞こえてくる。
「他の爆弾アリたちも、ちゃんと自分の仕事をしてるみたいだな」
――これで、安心してギラスを狙える。
彼方は村の西側の入り口に向かって走り出した。
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