第41話 剣豪召喚

 村の西側の入り口には、十数体のゴブリンとリザードマンがゴーレムたちと戦っていた。

 彼方は走りながら、カードを選択する。


 ◇◇◇

【召喚カード:剣豪武蔵の子孫 伊緒里】

【レア度:★★★★★★★(7) 属性:風 攻撃力:6000 防御力:800 体力:1700 魔力:0 能力:風属性の日本刀を使う。召喚時間:7時間。再使用時間:20日】

【フレーバーテキスト:ご先祖様の名にかけて、剣なら誰にも負けない!】

 ◇◇◇


 彼方の前にセーラー服を着た少女が現れた。年は十七歳ぐらいで、髪はポニーテール。肌は小麦色で、強い意志を感じる目が僅かに吊り上がっていた。その右手には鈍く輝く日本刀が握られている。


「伊緒里っ! 前にいるゴブリンとリザードマンを倒して、ゴーレムたちを守れ!」

「了解! 僕にまかせておいて!」


 少女――伊緒里は素早く彼方の前に出ると、ゴーレムを襲っていたゴブリンの群れに飛び込んでいく。

 ひゅんと空気を切り裂く音がして、ゴブリンの頭部が首から離れた。

 地面に落ちたゴブリンの目は見開いていて、口が微かに動いている。自分が斬られたことに気づいていないようだ。


「まずは、一匹…………と」


 伊緒里は低い姿勢から、日本刀を真横に払う。二体のゴブリンの腹部が裂けた。


「ギュアアア!」


 倒れたゴブリンの背中を踏みつけ、伊緒里は高くジャンプした。

 伊緒里の姿に気づいたリザードマンが円形の盾で防御する。

 その盾に向かって伊緒里は日本刀を振り下ろした。

 盾が真っ二つに割れ、リザードマンの体に斜めの線が入った。その線から噴水のように血が噴き出す。


 呆然とした顔でリザードマンが倒れた。


 ――伊緒里にまかせておけば、ここは大丈夫だな。


 彼方は伊緒里から離れて、戦闘隊長のドムと戦っているリザードマンに駆け寄った。

 そのまま、熾天使の槍でリザードマンの左胸を正確に突く。

 曲刀を振り上げていたリザードマンは、そのままの姿勢で横倒しになった。


「ドムさん! 大丈夫ですか」

「あ…………ああ」


 ドムはぺたんと腰を地面につける。


「ドムさんも隠れててください。モンスターは僕が倒します」


 そう言って、彼方は近づいてきた五匹のゴブリンと対峙する。


 ゴブリンたちは連携して攻撃してきた。左右に分かれたゴブリンが同時に彼方に襲い掛かる。彼方は熾天使の槍を振り回して、ゴブリンの攻撃を止め、背後から近づいてきたゴブリンのノドを突いた。

 そのゴブリンが血を流しながらも、両手で槍の柄を掴む。


 一瞬の彼方の動きが止まる。

 それを狙っていたかのように別のゴブリンが短剣を彼方に振り下ろした。

 彼方の腕に刃が触れた。


 彼方はその傷を無視して、さらに近づいてきたゴブリンを熾天使の槍で突く。


「グギャッ!」


 ゴブリンは悲鳴をあげて、その場に倒れた。

 熾天使の槍の先端が輝き、彼方の傷が回復する。


 ――これが熾天使の槍の効果か。こっちが相手を倒せば、自分のケガが治るってことだな。これなら、攻撃重視でいける。


 彼方は熾天使の槍を振り回しながら、近づいてきたゴブリンを一匹ずつ倒し続けた。

 彼方に勝てないと思ったのか、最後のゴブリンが逃げ出そうとする。

 そのゴブリンの後頭部に熾天使の槍の先端が突き刺さる。

 ゴブリンはぐらりと傾き、地面に横倒しになった。


「…………ふう」


 彼方は深く息を吐いて、周囲を見回す。近くに立っているモンスターの姿はない。


「おーい」


 伊緒里が胸元のスカーフを揺らしながら、彼方に駆け寄る。


「こっちは終わったよ」

「終わったって、十体以上のモンスターがいたよね?」

「うん。でも雑魚ばっかりだったからさ。武器は持ってても、上手く使いこなせてないんだよな」


 伊緒里は日本刀を持っていない手で頭をかく。


「どうせなら、もっと強い相手がいる時に召喚して欲しいな。これじゃあ、弱い者いじめになっちゃうし」

「安心していいよ。まだ、強いのは残っているはずだから」


 彼方は視線を村の外の林に向ける。

 その場所から、ドボルーダが現れた。

 ドボルーダは彼方に近づき、青紫色の唇を開いた。


「まだ、村に残ってたんだな?」

「…………ええ。あなたたちが信用できなかったから」


 彼方は冷静な声で答える。


「ふん。上手く騙されたが、お前が死ぬことは確定したぞ」

「確定…………ですか?」

「ああ。この村は完全に包囲している。二百体以上のモンスターがな」


 ドボルーダはちらりと伊緒里を見る。


「そっちも別の冒険者が助けにきたようだが、一人だけなら何の意味もない」

「…………はぁ?」


 彼方の隣にいた伊緒里が頬を膨らませる。


「僕が弱いって言いたいの?」

「…………弱くはないだろうな」


 ドボルーダは足元に倒れていたモンスターの死体を軽く蹴った。


「下級のモンスターとはいえ、二人でこれだけ殺せたんだからな。だが、こっちの戦力は二百以上だ。それにな…………」


 ドボルーダの背後の林から、背丈が二メートル以上のモンスターが次々と現れた。

 全員が漆黒の鎧を装備していて、手には剣や斧を持っている。

 カマキリのような頭部を持つモンスター。猪のような顔をしたモンスター。目と鼻がなく口だけのモンスターもいた。


 そして、彼らよりも一回り大きなモンスターが姿を見せた。

 そのモンスターは背丈が三メートル近くあり、目が四つあった。頭部に髪の毛はなく、尖った角が十数本突き出している。肌は青白く、トカゲのようなしっぽが生えていた。


 モンスターは巨体を揺らしながら、彼方に近づき、口角を吊り上げていた唇を開いた。


「お前がドボルーダを手玉に取った冒険者か?」

「はい。あなたが第一階層軍団長のギラスですね?」


 彼方の質問に、モンスター――ギラスは笑みを浮かべてうなずいた。

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