第21話 ミケの過去

 彼方とミケは王都ヴェストリアを出て、ガリアの森に向かった。緩やかにカーブする街道を進んでいると、四輪の馬車が砂煙をあげて彼方たちを追い抜いていく。その荷台には数人の剣を持った男たちが座っていた。


「ねぇ、ミケ」


 彼方は隣を歩いているミケに声をかけた。


「この世界では、馬を使って移動することが多いのかな?」

「そうだにゃ。あとはポポ鳥も商人の人たちが使ってるにゃ」

「あーっ、昨日の夜、見たよ。ダチョウみたいに大きな鳥だよね?」

「ダチョウがよくわからないけど、大きな鳥ならポポ鳥にゃ」

「魔法を使って移動したり、空を飛んで移動することはできないのかな?」

「移動の魔法は難しいので、あんまり使える人がいないにゃ。空はモンスターなら飛べる種族がいるにゃ」


 ミケはコバルトブルーの空を指差す。


「昨日も、あのへんをワイバーンが飛んでたのにゃ」

「ワイバーンは襲ってこないの?」

「たまに襲ってくるけど、王都の近くには来ないにゃ」

「反撃される可能性があると理解してるってことか」


 彼方は視線を街道の左右に広がる草原に向ける。膝上程度まで伸びた野草が風に揺れ、数匹の白い蝶が飛び回っている。


 ――あの蝶はモンシロチョウに似てる。馬の外見も変わらないし、草はイネ科の植物っぽい。地球と変わらない植物や生物もいるってことか。


 振り返ると、王都を囲む石壁と城が見える。


 ――壁は城の周りに一つと、町を囲むようにもう一つある。ってことは、戦争に備えているってことかもしれないな。


「この国って、戦争してるの?」

「してないにゃ」


 ミケは答えた。


「昔はサダルの国と戦争してたって聞いたことあるにゃ。でも、今はザルドゥって怖い魔神がいるので、条約ができたのにゃ」

「条約?」

「うむにゃ。みんなで仲良くして、ザルドゥを倒そうって、お約束にゃ」

「そっか。国同士で協力してザルドゥを倒そうとしてたんだね」

「そうなのにゃ。ザルドゥは強いモンスターで、いっぱいモンスターを率いているにゃ。怖いのにゃ」


 ミケは体を震わせる。


「でも、王都の近くのガリアの森は、モンスターがあまりいないから安心するにゃ」

「そのほうがいいね。今の状況でモンスターと戦うのはリスクが大きいし」

「彼方はいろんなことを聞きたがるのだにゃ」

「この世界のことを何も知らないからね。どんどん情報を手に入れたいんだ。そうすれば、生き残りやすくなるから」

「それなら、ミケに何でも聞くといいにゃ。ミケはベテランの冒険者だからにゃ」

「そうなんだ? 若そうに見えるけど?」

「多分、十二歳にゃ」


 ミケは両手の指を折りながら答えた。


「ミケのお父さんとお母さんはゴブリンに殺されてしまったのにゃ」

「…………あ、そうなんだ」

「それで、ミケはひとりぼっちになったにゃ。悲しくて、ずっと泣いていたのにゃ」

「そう…………だろうね」

「でも、泣いてばかりじゃダメなのにゃ。ミケは強い子なのにゃ。だから、冒険者になって、ご飯を手に入れるためにがんがっているのにゃ」

「…………うん。前向きなのはいいことだよ」


 彼方はミケの頭の上に生えた耳を撫でる。


 ――ミケの戦闘能力が高いとは思えない。この世界では先輩になるけど、僕が守ってあげないとな。

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