第30話
―放課後―
やっぱり、五時間と六時間目の間の休み時間でもタイミングが無く、放課後になってしまったが、どうにかなるだろう。
よし、小波を誘って…、
「須原、お前今日は教室の掃除当番だろう。何ちゃっかり帰ろうとしてるんだ。」
急に担任に言われて、掃除当番表を見るとまさか今週の教室の掃除当番の中に俺の名前が入っていた。
前言撤回、どうにかならないかもしれない。
しかも、担任が適当に割り振った当番表だから、波瑠や小波、ましてや進までもが自分と同じ班ではなかった。
あぁ~、もう、さっさと終わらせて小波に伝えないとな。
いつもは他の奴らとだらだらしながら掃除をするところ、今回は仕方なく箒掛けや机運びを率先してやり、いつもより早く終わった。
終わったのはいいものの、先に帰ったのかもう小波はどこにもいなかった。
しかも波瑠もいないから、家に帰った…、あれ?それって俺ん家じゃね?
でもそうすると誕生日会の事とか波瑠にバレるんじゃ…。ヤッベ、早く帰んねぇと!!
俺は、カバンを持ってダッシュで家へと帰った。
家に着いて鍵を開け、リビングには誰もいなく、キッチンの方を見ると陽葵が誕生日会の料理を作っていた。
「あ、あれ、波瑠はまだ着いてないのか?あと、母さんは?」
「おかえり兄ちゃん。波瑠ちゃんは愛空ちゃんに六時まで家に来ないようにしてるから大丈夫だよ。それと、お母さんは途中まで準備してたけど、今はバースデイケーキを買いに行ってるよ。」
「は?小波が?」
何だ小波の奴、陽葵に呼ばれてたのか。じゃあ、良かったわ。
安心していた時、陽葵に声を掛けられた。
「それよりも兄ちゃん、料理の下ごしらえを手伝ってよ。一人じゃ準備できないよ。」
「いぃ、そんなこと言われてもなぁ、俺が料理できないの分かってるだろう?魚とか焦がしたり、肉だった半生だったり、あと…」
「はいはい、そんなの知ってるよ。だから、誰でも出来る事やらせるから、ほら来て。」
簡単なやつか、だったらいいか。
陽葵が俺でも出来る奴と言っているので、俺はキッチンへと言った。
「で、俺は何をすればいいんだ?」
「じゃあ、はいこれ、水洗いして、盛りつけといて。」
そう言って、陽葵はザルに入っているサラダを出してきた。
確かに…、これだったら出来るか。
そうして俺は、サラダを水洗いし、大体適当に皆分の皿に盛りつけた後、今度は料理器具を渡されその洗い物をやった。
で、いろんな洗い物をやらされ、半分ぐらい料理の準備が出来た。
まぁ、ほとんど陽葵がやったけど。
「あとは、焼いたりするだけだよ。」
陽葵が言った時に、リビングのドアが開いた。
「ただいま~、って、あれ?拓磨キッチンにいるけど、料理してるの?食材は大丈夫?」
と母さんが箱を両手で抱えていたり、袋を腕にぶら下げながら入って来た。
「違うよ。兄ちゃんがキッチンにいるのは、焼いたりしてるんじゃなくて洗い物とかしてもらってるんだよ。」
「いや、サラダはやっただろう。サラダは。」
「拓磨。高校生にもなってサラダでそこまで誇張して言うものでもないよ。今度は他の料理も出来ようになろうかぁ。」
ぐっ、でも、(サラダは)出来たからいいじゃん。と言いたいが、また何か言われそうだから止めとこう。
「そう言えば、波瑠ちゃんはまだ来ない感じなの?」
「うん、愛空ちゃんに頼んでおいてるから、まだ来ないよ。お母さん。」
「良かった。じゃあ、波瑠ちゃんと愛空ちゃんが来るまでに準備を終わらせないとね。」
母さんがそう言ったことで陽葵もまた一段とやる気を出していたが、
「因みに波瑠ちゃん達二人は、あと何分ぐらいで来るの?」
と、母さんが袖をまくりながら言ってきた。
そう言えば、手伝いやってたから今何時なのか忘れていたが…、あっ。
「おい!あと四十分で来るぞ!!」
「あ、もうそんなに時間が掛かってたの?じゃあ、早くやらないと。」
「拓磨、車にまだ荷物があるからそれを持ってきて。陽葵は私と料理を完成させるわよ。」
そう言ってきたので急いで車に行き、荷物を持ってきた後、また俺は二人の(簡単な)手伝いをして、料理をテーブルに並べて行った。
テーブルにローストビーフや巻き寿司、ミートパイなどいろんな料理をテーブルに並べて大分豪勢な夕食だと思ったが、お別れ会の意味も兼ねているんだったらこれぐらい普通だろうな。
そんな事を思っていた時に、急にインターホンが鳴り、母さんと陽葵に玄関の鍵を開けてくるように言われた。
二人は他にも準備をしていたから行くしかなく、玄関に言って扉を開けるとやっぱり波瑠と小波がいた。
「愛空ちゃん、六時半だけど帰らなくても大丈夫?」
「いや、波瑠なぁ、実は小波の奴は陽葵に呼ばれてるらしくてな。」
「そうそう、陽葵ちゃんに呼ばれてるの。だから、お邪魔します!」
「そうなんだ?…あっ。それと。」
波瑠は少し恥ずかしそうにしながら言ってきた。
「拓磨君、ただいま、かな?」
「おう、…おかえり。」
そんなに時間がたってないのにそんな感じで言われて、俺も照れ臭くなってしまった。
「二人とも、な~に恥ずかしそうにしてるんだよ。」
「な、波瑠が恥ずかしそうにしてたから釣られただけだ。それよりも、リビングに行くぞ。」
そそくさとリビングのドアの方へ行ったが、開けっ放しで出たはずだがドアが閉じていた。
まぁ、中の二人が閉じたのだろう。
そう思いながらドアノブに手を掛けた時、
「須原、ちょっと待てぇい!」
と、小波が言ってきた。
「はぁ?なんだよ。」
「波瑠ちゃんも週の初めで疲れてる?ことなんだし、先に入れてあげなよ。」
「え?私そこまで疲れてないけど。」
「いいから、ほら。須原もまだ入るなよ。」
小波は波瑠をリビングのドアまで背中を押して行き、波瑠が扉を開いたら、いきなり『パーンッ!』と音と共に紙テープやらなんやらが見え、
「「波瑠ちゃん、お誕生日おめでとう!!」」
母さんと陽葵がクラッカーを持ちながら、波瑠をお祝いしていたが、あぁ~、だから小波は開けるなって言ったのか。
って、そんな事よりも、波瑠の方を見ると驚いているのか固まっていた。
「誕生日…、今日って私の誕生日?あれ、そうだったけ?」
「なんで自分の誕生日忘れてるの。須原兄じゃあるまいし。」
小波は俺を例に出しながらも、呆れていたがなんで俺を引き合いに出すんだ。
「あー、中学校の頃もあんまり友達に誕生日のこと恥ずかしくて言ってなかったから、祝ってもらうのも後からだったし、それに最近色々と忙しかったからねぇー。あははは…。」
「確かに、苦笑いするほど最近そう言うこと多かったもんな。」
「うん?忙しいって、二人とも何の事なの?」
小波に言われて俺は説明しようとしたが、
「はいはい、説明は二人とも手を洗った後に席に着いてから、ね。」
母さんに言われて二人は洗面所に行き、それぞれ席に着いた後、食事を食べながら土曜日に会ったことを話した。
「えぇー!波瑠ちゃんのお母さんがあのロスガ製菓の社長って、凄すぎるでしょ!!」
「私もまさかお母さんが社長になっていたのに凄いとは思ったけど、困惑もしたよ。」
「でも、兄ちゃんは前にテレビで出てた社長が波瑠ちゃんのお母さんって言ってたんだけど、いつもは役に立たない兄ちゃんの目も今回は凄い役に立ってるって私は思ったよ。」
「陽葵、それひどすぎないか。」
「へぇー、須原兄の目もたまには役に立つんだ。」
「うん、陽葵ちゃんの言う通り、あのテレビを見ただけで、よく私のお母さんってわかったなぁって今更ながら私も感心しちゃったなぁ。」
「え、波瑠もそんなこと言っちゃう感じ?なぁ、三人がそう言うってことは俺って、いつもそんなに回りを見てないってこと?」
あまりのひどい言葉に対し聞き返したら三人が、
「そうだね。」
「そうだけど。」
「そうだよ。」
とそれぞれの口調で肯定してきた。…悲しすぎる。
母さんなら否定してくれるだろうが、今はキッチンに食べ終わった皿を持っていっていた所だから話は聞いていないか。そう思っていたら、
「拓磨が普段からしっかりしてれば、そんなこと言われないの。」
こっちに戻ってきた母さんも説教交じりに言ってきた。
そんなに俺って回り見れてないのかぁ、…これからはしっかりしておこう。うん。
そうして、食事をしながらもいろんな話をし、食後に母さんがテーブルの上にケーキを出しながら、袋を持ってきた。
「はい、波瑠ちゃんの誕生日プレゼント。」
その袋を母さんは渡し、愛空や陽葵も
「はい、これ。私から。」
「波瑠ちゃん、改めて誕生日おめでとう!はい、プレゼント。これからもよろしく。」
とそれぞれ渡した。
俺もプレゼントを…、あっ。
「やっべ、波瑠のプレゼント自分の部屋に置いたままだったわ。ちょっと、ごめん。今、持ってくる。」
俺は急ぎ足で二階に行き、机の上に置きっぱなしの手のひらサイズのプレゼント袋を持って、リビングに戻り、波瑠にすぐさま渡した。
「はい、誕生日おめでとう。波瑠。」
小波、母さん、陽葵は呆れた様子の声を出していたが波瑠だけは違く、嬉しそうに
「みんな、ありがとう。早速なんだけど中身見てもいいかな?」
と言い、みんなも頷いて波瑠は袋の中身を確認し始めた。
まず最初に開けたのは、母さんの物で中に写真立てが入っているのを向かいに座っていたから見えたが、波瑠はジッと見てニヤニヤしていた。何だ、写真でも入っているのか?
気になり、波瑠に見してもらうと入学式の俺が家に帰った後、家の前で波瑠と俺、そして陽葵が俺達の間で二人の腕を掴んで写ってる写真だった。
この時、俺的にはすぐに着替えたかったのに、もう一度外に出て写真を撮ることになったから面倒だった記憶だが、波瑠が気に入ってるのならそれでいいか。
次に愛空のプレゼントだが、舌を出しながら脱力しきってとろけている犬のぬいぐるみが入っていて、愛空も気にいっているから波瑠にも勧める形でプレゼントしたらしい。
その次に、陽葵からはクマの絵が描かれていた筆記用具とか入りそうな小物入れで、これも陽葵のおすすめのものらしい。…絵の方が。
そして、俺のプレゼントを開けようとした時に陽葵が、
「そういえば、愛空ちゃんは時間的にそろそろ大丈夫なの?」
と、言って愛空は時間を見た。
「あっ、確かにもう七時二十分か。早いね。」
「ケーキも切り分けたし、早く食べましょう。」
母さんは皆にケーキを取り分けて、波瑠も俺のプレゼントをポケットにしまい込んだので、俺のは開けずに終わってしまった。
ケーキも食べ終わり、愛空が「最後に写真を撮ろうよ。」と言い出して、母さんがスマホで撮影した後に誕生日会はお開きになった。
母さんに「遅いんだから、拓磨は愛空ちゃんを送っていきなさい。」と言われ、行こうとしていた時に波瑠も「私も行くね。」と言い出したので三人で行く事になった。
こういう時、陽葵も一緒に来そうなのに今回は付いて来ないで、陽葵は、
「波瑠ちゃん、ちょっと待って。」
「うん?何、陽葵ちゃん?」
「数秒で終わるから、兄ちゃん達は先に外にいて。」
と言って俺達は外に出されたが、何か色々話したい事でもあるのか。でも、そんなの後で家に帰ってからでも良くないか?
そう思っていると確かに数秒待たされた後、波瑠も出てきて、小波を家に送りに行った。
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