第29話
―波瑠が自分の家に帰って三日後―
今日は波瑠の誕生日だ。
色々とごたごたした事があってすっかり忘れそうになっていたが、朝起きてロスガの会社に行った時の事をぼんやりと頭に出てきて、確か波瑠の爺さんが誕生日の事を言っていたのを思い出しつつも、一階に降りた。
波瑠が居なくなった土曜日からというものの食事をとる時や陽葵がリビングにいる時、あまりにも陽葵が静かすぎるのに不自然な感じがした。
まぁ、波瑠は一ヶ月以上も俺ん家に一緒にいたからな。
そんな月曜日の朝食時、ぼんやりとしていたら母さんが
「二人とも土曜の夜から様子がおかしいわよ。やっぱり波瑠ちゃんが家に帰ったから?」
あぁ、陽葵も波瑠と朝から仲良くおしゃべりしてたもんな。
それにしても、母さんと父さんは何事も無かったように過ごしているが何でだ?
そんな事を思っていると陽葵はかなり深いため息をした。
「はぁ~、波瑠ちゃんが返ってから寂しくなっちゃったな~。波瑠ちゃんだと兄ちゃんよりも話がいろいろできて、楽しかったのになぁ。」
「あぁ、確かに陽葵は、波瑠になついてたからな。」
「「はぁ~。」」
なんか陽葵にさらりとひどい事を言われた感じだが、そんな事もツッコむ気欲が無く、俺はため息を漏らしたら、陽葵はまたもため息を漏らしてハモってしまった。
「あのねぇ。二人して朝から何ため息ついてるの。それに、今日は波瑠ちゃんの誕生日があるの忘れてないわよね。」
「波瑠ちゃんの誕生日だよ。忘れる訳ないよ。ねぇ、兄ちゃん。」
「いや、妹よ。俺はさっき思い出した。」
そんなことを言った瞬間、二人に微妙な顔をされた。
「兄ちゃん、…なんで忘れるの。」
「拓磨、あんたは…」
「し、しょうがないだろう。色々な事があったわけだし。」
そんなことを言っても二人は、忘れるのがおかしいという感じの目で俺を見てきた。
もうこれ以上変な目で見られるのも嫌だし、強引に話題を換えよう。そう思って俺は、
「それよりも、波瑠の誕生日会はその言いっぷりだと、ここでやるのかよ。」
「えっ、そのつもりだけど。と言うか波瑠ちゃん、今日うちに来るわよ。」
「はい?」
そんなこと俺、一言も聞いてな…。
「昨日の夜に言ったけど、波瑠ちゃんは自分の荷物を取りに来るのよ。」
「兄ちゃん、この事も知らない訳ないよね?昨日の夜に行ってたんだし。」
「夜に、…あっ。」
そう言えば、夕飯終わった後にそんな事を言っていたような気がしたが、何となく薄っすらとだが。
あと、陽葵に「昨日の夜」と言われて思い出せるなら、セーフ…と思いたいが、陽葵は心配そうにこっちを見ていた。
「兄ちゃん、授業とかで『ここでますよ』って先生が言ってるの聞き逃しちゃ駄目だよ。」
「あのなぁ、授業中の話は…、聞いてるぞ?」
「なんで間があるの?」
「グッ、そういう事があったか思い出せないだけで…、と言うか、昨日言ってたのは思い出したが!?」
「本当かな?」
「いや、確かに…」
俺は言い返そうとした時、母さんが割って入って来た。
「はいはい、二人とも言い合ってるところ悪いけど、時間大丈夫なの?」
時間?そう言われて時間を見ると七時半を過ぎていた。
「はい!?もう、そんな時間なの?」
「二人とも、朝ご飯をのろのろ食べてたからよ。」
「母さんそういうのは早く言ってくれ!」
まだ半分残っている朝食を急いで食べ、俺達は慌てながらも支度をし、家を出た。
途中まで二人で走り、そのおかげで遅刻はしないで済みそうだ。
「どうにか間に合いそうだね。」
安心している時に陽葵が後ろから声をかけてきた。
「そうだな。」
俺達はその一言の後、黙ってしまった。
俺が中学生で何回か一緒に登校した時は、うざったいぐらい話して来る陽葵が今日は何も言わないのが本当に不自然に感じる。
まぁ、そう言う俺も何か話す話題が出ないで黙っているのは相当重症かもな。
だが、これ以上重々しくなるのも俺達らしくないような気がするし、他に話題を…そうだ。
「陽葵。波瑠の誕生日会でロシアンルーレット形式の食べ物とか作らないのか?」
「えっ、何で作るの?」
「普通に考えて盛り上がるために決まってるだろう。それに、誕生日会と家にいるのも最後の波瑠にそれぐらい楽しくやった方がいいと俺は思うし。」
「…まぁ、そうだね。確かに波瑠ちゃんが家にいるのも最後だから派手にやらないと!」
何となく陽葵も察してくれたのか、明るい口調で返してきた。
「じゃあさ、兄ちゃんこんなのもどうかな?」
「おっ、なんだ?」
そんなこんなで陽葵が学校に着くまで今日の誕生会についての話で俺達は盛り上がった。
陽葵を学校まで見送った後、俺はふと小波も呼んだ方がいいのかと思い、時間もあまりないから全速力で学校に向かった。
向かったのはいいが今日は運悪く信号に何度も引っ掛かり俺は遅く校門に着き、一時間目のチャイムの十分前と結構ギリギリだった。
教室に入って自分の席に着いて一目散にかばんを机の上に置き、辺りを見渡して小波の事を探すと波瑠としゃべっていた。
まだ間に合うはずだったが、一時間目の先生がいつもより早く教室に入って来て、
「今日は小テストやるから早めに授業するぞ。皆席に着け。」
と言い、聞くタイミングを逃してしまった。
まぁ、時間はまだあるし、次の授業の合間にでもどっかに呼んで話すか。
そんな事を思いながらも一時間目の数学、二時間目の英語、理科、体育と授業が終わってしまい昼休みになり、先週も行った屋上に無理やり進に連れてこさせられた。
「なんで、またここなんだよ。」
「何言ってんだ。拓磨!今誰も使わないから逆にここが良いんだよ!!」
「全く、体育の後で疲れてるのによ。それに俺は小波に用が…、あっ。」
そう言えばすっかり忘れていた。ここなら使えるじゃん。
そんな事を考えてる中、進は不思議そうに俺を見ていた。
「拓磨、小波に用事って、急にどうしたんだ?」
「そのことなんだが、実は今日は波瑠の誕生日で小波の奴を誘おうと思ってるんだが、中々誘えなくて困ってるんだよ。」
「ほ~ん。それで?」
「で、思いついたんだが、今ここに小波を呼べば誰にもバレずに誘えると思ったんだよ。」
「あのよ。普通にスマホを使って連絡すればよくないか?」
進に当たり前のことを言われたが、俺はあんまりスマホを使いたくない何故なら、
「確かにスマホは便利かもしれないが、こういうのって直接聞いた方がいいと俺は思ってる派なんだ。」
「思ってる派ってなんだよ。」
進は苦笑していたが、
「分かったよ。拓磨がそれがいいなら昼飯さっさと食って小波の奴を探すか。」
了承してくれた。
まぁ、本当はスマホを教室に置いて来たから取りに行くのが面倒なのと、今日家に帰って夜中に見たい動画もあるから電源の消費をさせたくないという事は進には黙っておこう。
で、俺達はさっさと昼飯を食べ終わりにし、小波がどこにいるのか探しに行くと、教室に居なく、クラスの女子に聞いて見たら、
「さっき、運悪く担任の先生に掴まって、職員室にプリントを運ぶの手伝わされてたよ。」
との事だった。
「分かった。ありがとう。」
「…で、拓磨どうするんだ?」
「いや、もう時間も無いし、放課後にでも聞くわ。」
「あっそ。スマホの方が楽だと思うんだが。」
「まぁ~、確かに楽だけど~。」
「おい、どこ見てるんだ。」
横の方を見て、何か誤魔化そうとした時、ふと頭によぎった。
そうだ、進の奴も可哀そうだし呼んでやるか。
「そういえば、進も来ないのか?」
「へ?何言ってんだ拓磨?」
「うん?分からないのか?」
すぐに察するのに今日はどうしたんだ?と思っていた時、
「あのなぁ。俺は別にまだ仲良くなってないし、急に行っても気まずくなるだろう。」
「いや~、あいつなら…、あぁ、そう言えば人見知りだったわ。」
「なら、余計行ったら気まずくなるだろう。だから、今回はパスだ。」
と言われ、あっさり断れた。
そんなこんなで、誤魔化しも効き、予鈴が鳴る頃に小波が戻って来たので、しょうがなく俺は放課後に聞くことにした。
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