第28話
―拓磨君達が家に帰った後―
二人が帰って、早速お母さんの家に行くと思っていたら、会社の方から十二時を知らせるチャイムが鳴った。
「もうこんな時間なのね。」
「お二人は、お昼どうします?」
「う~ん、家に食材無いし、今日は社員食堂でお昼かなと思うんだけど、波瑠はどう思う?」
「へ?どうって言われも、どんな料理あるか分からないし。」
というか、一般の人って入っても大丈夫なの?
「栞社長。ほら、波瑠さんも急に言われて困ってるじゃないですか。それに一般の人はあそこは入れませんよ。」
山村さんも困った口調で言っていて、そんなお母さんは
「大丈夫よ。どうにかなるって。」
と軽い口調で言った。
と言うか、昔のお母さんはもっと優しくておしとやかな感じだった気がしたけど、私が美化してたのかな?
「なに、波瑠?私の顔に何か変なものでもついてる?」
お母さんの事を少し見ていたつもりだったけど、声を掛けられた。
「う、ううん、何でもないよ。」
「ふ~ん、そう?じゃあ、お昼ご飯にしましょう。」
そう言って、お母さん達と一緒にロスガの食堂で食べる事となった。
その後、食べ終わって山村さんがすぐにタクシーを呼んでいたので、ロスガの会社前にもう来ていた。
「うちの秘書は仕事が早くて、毎日助かるわ~。」
「そう言いますが、栞社長が少し不真面目なのがいけないんですよ。」
「でも、今日の寝坊は私だけじゃなくて、千広もしたよね?」
「うっ、最近色々と忙しくて疲れが溜まっていたので…。」
何となくわかっていたけど、やっぱり二人して寝坊したんだ。
「とにかくですよ。」
山村さんは、急に切り出して、私達を指を差しながら言ってきた。
「二人はこの後も、楽しく休日を過ごしてください!」
「それくらい当り前よ。」
「私も目一杯楽しい休日を過ごしますよ。」
私とお母さんは、誇らしげに言ったら、山村さんはフッと笑った。
「先ほどの喧嘩をまるで忘れたかのような言いっぷりですね。」
「うっ、…そうでしたね。すみません。」
「あれは、あいつ(武夫)のせいでもあったから。」
私は謝ったのにお母さんは、全てお爺さんのせいにしていた。
そうして、タクシーの運転手さんを待たせていたので早く乗り込みつつも、運転手さんに少し窓を開けてもらって山村さんにも喧嘩の件でお礼を言い、山村さんも私達に何も言わずお辞儀をし、ロスガの会社を後にした。
ロスガから離れて五分、意外にも会社の近くに住んでいたのにも驚いたけど、最も驚いたのは、十五階建てで目の前の玄関にセキュリティ用のカードをかざす所があり、いかにもという感じの高層マンションに住んでいたという事だった。
あんまりこういうこと言ったら悪いとは思うけど、やっぱりあの有名なロスガの社長となると、こういう所に借りて住めるのかな。
私は、タクシーを降りて呆然とマンションを眺めていたら、お母さんが、
「ほら、行こう。」
と、私の右手を取って部屋まで手をつなぎながら案内してくれた。
お母さんはカバンからカードを取りだして、ドア横にあるカードリーダーにかざして中に入り、エレベーターで八階へと上がった。
そして、八階に着き八〇五でお母さんは止まって、鍵を出して開けた。
「さぁ、ここが今いる私の家よ。」
今日の出来事もいろんなことが起きていて凄かったけど、それだけじゃとどまらず、お母さんの部屋の間取りは、廊下すぐにリビングとダイニング、それにキッチンに加えて、三つの部屋があり、いわゆる3LDKの部屋に住んでいた。
(ついでにお手洗いと洗面所、浴室も別々の。)
「わぁ~、お母さん良く借りたね!」
「うんん、波瑠。借りたんじゃなくて購入したのよ。」
賃貸マンションだと思っていたら、まさかの一室購入している事に余計驚かされた。
「えっ!本当に!?」
「本当よ。」
えっへん。と言わんばかりの自慢げな顔にお母さんはなっていた。
だけど、お母さんの部屋と思われる場所の扉が開いていて、何気に覗いてみるとパジャマが脱ぎ捨てられていて、自慢げになっているところ悪いけどお母さんの残念な部分が見えてしまった。
「あの~、お母さん。これは?」
「ヤッバ!そう言えば、朝そのままにしてたの忘れてた。」
あと、隣の部屋とも扉でつながっていて、そっちも開いてるから見て見ると布団が置いてあり、同じく女性のパジャマらしきものが畳んであった。
「お母さん、こっちのは誰の?」
「えっと、実はお客様用の部屋なんだけど、そんなに使わないから千広が私の仕事で大事な日に寝坊防止で泊まってて、昨日もそのことで千広が泊まってたんだけど、千広も寝坊したからそのあり様と言うかなんというか…。」
なんだか、段々とお母さんの昔のイメージが崩れていってるような気がするけど…。
でも、お母さんも寝坊をするところは私と似てる所がちゃんとあるって知れてよかった。
その後、パジャマを片付けたら、ここから近くのデパートで夕ご飯と私のパジャマを買いに行く事になった。
そして、デパートはそれなりの大きさでいろんなお店があり、夕ご飯とパジャマ以外にもお母さんと一緒にお店を回っていたらすっかり遅くなり夕方に。
それで、帰って来て、ご飯を作って食べてる時と食べ終わった後に、実は前はもう少し遠めのアパートに住んでいたことや、山村さんの意見でここに住む形になってしかも一緒にマンションを買ったことを知らされたけど、お母さんは楽しそうに話してくれた。
「と、まぁ、ぶっちゃけ、社長になってから仕事も私生活も千広に助けてもらってる毎日をお母さんは送ってたかな。」
「ふふっ。」
「で、波瑠は、高校生活はどうだったの?」
「へ?高校?中学校までの話はしなくていいの?」
「それなんだけど、お父さんとひそかに連絡とってたから、そこらへんは大丈夫。」
それも、初耳なんだけど、一旦はその事は置いといて、お母さんが聞きたいことを話した。
「高校生活は、今のところ友達が一人増えたってこと以外中学と何も変わらないけど。」
「じゃあ、好きな子とかできた?」
「えっ、そんな子いないけど?」
「えっ、て、拓磨君は?」
「普通に仲のいい友達だよ!!」
お母さんが急に拓磨君のことを言い始めたから、強く言い返してしまった。
言い返したのはいいけど、やっぱりこの話をすると顔が熱くなって、なんか胸の中でモヤモヤとした気持ちが込み上げてくる。
何でだろう?何で顔が熱く…。
そう思いつつ、こんな顔を何故かお母さんに見られてなくて下を向いているとお母さんが小声で言ってきた。
「波瑠。………ねぇ。」
「な、何?お母さん。」
まだ顔をお母さんの方に向けることができなかったけど、返事をするとお母さんはフッと笑ってきた。
「ほんと波瑠は、頑固な所は私に似ていて、内気な所は昔のお父さんに似たわね。」
「そ、そうなの?」
「うん、そうね。…でも、あなたは本当に拓磨君の事を友達だと思ってるの?」
お母さんは真剣な声で言うけど。
「私は、…そうだと思ってるよ。」
「じゃあ、何でそんなに顔を赤くしてるのよ。それじゃ、まるで…。」
うん?確かに好きな子ってお母さんが言って、拓磨君の事を考えるって、まるで、
「「拓磨君が好き。」」
私は今まで『友達』って言って、『好きな人』って言う事を何も考えてなかったけど、前に拓磨君のお母さんが言っていた『友達以上』という事は、…好き!?
その言葉が出てきたら余計に顔が熱くなって、頭の中がグルグルしてきた。
「おっとと、波瑠。余計に耳が真っ赤かだけど、もしかして、やっとわかった感じ?」
「だって、そんなの今まで考えたことなかったし、そう言われても!」
「お、落ち着きなさい、波瑠。」
お母さんに言われて少しは冷静になれたけど、まだ頭の中で整理がつかない。
「あなたは拓磨君の事を友達って思っていたのだろうけど、今この話をして、それ以上に意識したんでしょ。」
「うんん、実はこれが二回目なんだ。胸も苦しくなったし。」
「えっ、なに!?波瑠。そのことを詳しく教えて。」
目をキラキラさせてきたから、モールであったことをお母さんに話すと納得しながら話してくれた。
「もし、そのままな感じだったら。拓磨君がその子に取られちゃうかもしれないわよ。」
「え?なんで、小波さんが?」
「そんなのは、私だって分からないわよ。でもね。」
お母さんは、私の頭をなでながら、
「お母さんも昔、お父さんの事でそう言う事があったから。お母さんの勘よ。」
「そうか。」
お母さんの勘っていうのは、分からないけど、信じないと駄目だよね。って、そう言えば。
「自分なりに答えを出せなかったなぁ。」
「どういうこと?」
私は、こんな話をしていたら、とある事を思い出してつい口に出してしまった。
「実は、拓磨君のお母さんにもこの話をした時、『自分なりに答えを出した方がいいよ』って、言われたんだけど。なんかお母さんと答え合わせした感じで出ちゃったなぁって。」
「あの優衣がそんなこと言ったの?ふふふ、超鈍感だった優衣がねぇ~。」
「なになに、どういう話?」
「ふふふ、話したいけど、まずはお風呂に入り終わってからにしましょう。」
そう言われて、時間も見て見ると九時を回っていたので、急いで食器を片付けた後、お風呂の支度をし、「先に入っていいよ。」と言われてはいる事にした。
その後、お母さんも出てきてからリビングでお母さんの高校の頃の話を聞いたり、私からもこの前会った入学式の話やさっき少し話したモールでのあった事の話をして、あっという間に十一時を過ぎていた。
お母さんも話してるところ悪いけど、今日色々な事があって疲れたから「また明日にしよう。」って言おうかな。
そう思っている矢先に、お母さんが何か言いたそうに黙った。
「お母さんも疲れたの?もう今日はおしゃべり終わりにする?」
「いや、そうじゃなくてね。」
お母さんは、少し勿体ぶりながらも話し始めた。
「波瑠は、私と一緒に暮らしたい?」
その一言を言い終えるとまた黙り始めた。
お母さんと一緒に暮らす…。私は暮らせるなら一緒に暮らしたい。
だけど、拓磨君や陽葵ちゃんに何も相談してないのに暮らすのも…。
でも、須原家にこれ以上住むのも迷惑かもしれない。
私自身、この話がお母さんから出てきた時どうするのかとっくに決めていたはずなのに、一か月の須原家で楽しい毎日を過ごしていたら、どうも決められなくなってしまった。
もし二人がここにいてこの話を聞いていたら、何て言ってくれるかな。
そう思い、考えこんだら、すぐに答えが出た。
「お母さん、私はお母さんと一緒に暮らしたいよ。」
「…そう。」
お母さんは、小声で返事をしてくれた。
考えてみると、二人は笑いながら賛成してくれるのが思い浮かんだ。
ここ一カ月、いや昔からの幼馴染の二人ならそう言ってくれる。
特に拓磨君は、昔から私がおどおどしながらもやりたい事を言うと、『じゃあ、それやろうぜ。』って言って、すぐに賛成してくれたのを思い出した。
他にもこの前のおんぶして助けてくれたことや、今日一緒に来てくれたことなど、そんな男の子だから私は好きになったかもしれない。
って、それよりも、お母さんはなんていうのか聞かないと。
私は、お母さんの方を見ると今後の事を話してくれた。
そして、話が終わった後にお母さんは「今日と明日一緒に寝ようよ。」と言って来て、私はお母さんの部屋で寝る事になった。
布団を二枚しいて、一緒に寝る事になったけど、誰かと一緒に寝るが久しぶりだったから私は寝れるか心配していた。
だけど、そんな心配が要らないほどの暖かさが急に襲ってきて私はすぐに寝てしまった。
そうして、日曜日はお母さんととっても久しぶりに楽しくまったりと過ごした。
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