第24話
「波瑠や。よく来てくれた。…と言いたい所じゃが、ワシは波瑠だけ来てほしかったんじゃ。だから須原拓磨さん、今すぐ部屋から出てくれんかの?」
まさかの俺達に向かっての第一声が、俺だけ出て行けだった。
「た、拓磨君が側にいないのなら、私達はもう帰ります。」
波瑠もその言葉にすぐさま反応していたが、さっきと同じようなことを言ってるけど、波瑠の方を見て見ると体を震わせていた。
やっぱし、波瑠の爺さんは何する変わらんから警戒してるんだろうなぁ。
俺も波瑠の為だし、爺さんに言っとくか。
「波瑠もこういってるので、ここにいますけど、余計な口出しはしないようにしますよ。」
そう言って、何もしませんよ。と言うアピールをした。
まぁ、言いたい事はたんまりあるが、この爺さんを納得させるためならしかたない。
波瑠の爺さんは、俺に疑いの目を向けているが、
「まぁ、かわいい孫娘の願いだからいいじゃろう。二人とも座りなさい。」
と言ってくれて、どうにかなった。
そして、俺らから見て奥と手前に四人、左と右に三人が座れる長机の椅子の奥の左から二番目に波瑠の爺さんは座り、俺達もその向かい側に座った。
座った途端、爺さんが話し始めた。
「そういえば二人の事は分かっているんじゃが、まだワシの自己紹介しておらんかったの。ワシは広清武夫で今しがた波瑠の事を孫娘と言った通り波瑠の祖父じゃ。」
「「…」」
俺達一階でさっきの男に聞かされているから、波瑠もどんな反応をしていいのか分からなく、ただただ無言になってしまった。
「二人とも無言じゃが、そんなに驚いたのか。」
爺さんは「ほっほっほ。」と笑っていたが、納得してるようですが、違いますけど!と言いたいとこだが、これも余計な口出しになるかもしれんし、黙っておこう。
笑い終わった後、爺さんは目をつぶり少し無言になってから、また話し始めた。
「二人が驚いたところで、早速なんじゃが、何故波瑠はこの会社に来たんじゃ?この前は来ようともせんかったのに。」
そんな事を聞いてきたが、波瑠は落ち着きながら話した。
「私のお母さんがここで社長をしてると分かったので、何で十年も家に帰ってこないのか聞きたくここまで来ました。」
そう返すと爺さんは「ほ~。」と言って、
「それで来たのか、そうかそうか。」
と優しく答えていた。
「じゃが、ワシも話したいことがあるから、その事はまた後でという事で…」
「ちょ、ちょっと待って下さい。一つ聞きたいことがあります。」
波瑠は爺さんの話を聞かずに遮った。
「なんじゃ?」
「私を何で…あなたの所に連れてこさせようとしたんですか?」
「今から話すからそう焦るでない。それにおじいちゃんと呼んでくれて構わんぞ。」
無理やり連れて行こうとしたんだから、気軽に「おじいちゃん」って呼べる分けねぇだろ。それ見ろ、波瑠も黙ったぞ。
まぁ、そんな事を口にしたら追い出されるかもしれねぇから言わんけど。
爺さんは、波瑠に話を遮られ一度咳払いした後、また話し始めた。
「…でじゃ、連れてこさせようとした理由は、大事な孫娘の顔をひと目でいいから見たかったんじゃが、恥ずかしくてあんなことをしてしまったのじゃ。すまぬ。」
「えっ、そう、だったんですね。」
波瑠は戸惑いながらも受け答えしたが、
「ははは、な~んだ、そう言う事だったのか…って、そんな事で済まされる訳ねぇだろ!」
「うん、なんじゃ?須原拓磨さん?」
とうとう、しゃべってしまった。
「あっ、ヤベさっきから我慢してたから、つい本音が出たわ。」
「拓磨君!?」
爺さんすっごいこっち睨んでいるが、他にも言いたいことがあるから、言わせてもらうぞ。
一応敬語で。
「波瑠のお爺さん、それでこっちはえらい目付いたんですよ。波瑠だって社員から逃げる時、かなり怖がってましたし、他にも…」
「須原拓磨さん、もう一度言いますがその事については確かにすまない事をした。じゃが、他にも話したい事があるから黙って貰えませんかの?」
「うっ、わ、分かりました。」
波瑠の爺さんは冷たい目でこっちを見ているが、他にも言いたい事があったのに言わせて貰えず、俺の話は終わってしまった。
てか、本当に悪いと思ってるのか?
「さっきから、話が止まって、波瑠とのこれからの事について話せんじゃろ。」
「これからの事?」
何のことを言ってるんだ?
波瑠も俺も何を言ってるんだから分からず、ぽか~んとなってしまったが、爺さんはとんでもないことを言ってきた。
「これからと言うのは、ワシたちと一緒に暮らしていこうという事じゃ。」
なんかいきなり過ぎないか!?そう思って驚いていると波瑠も、
「なんでそんな急にそういう話になるんですか!?」
同じく物凄く驚いた様子で言っていた。
「何故って、波瑠も家族と一緒に過ごしたいじゃろ?じゃから、長年父親だけだった、お前さんにさみしい思いをさせていたからワシからの提案じゃ。」
波瑠も家族で過ごせるならそれの方がいいのかもしれないが、「ワシからの提案」って事になんか引っかかる。気のせいならいいが。
波瑠もそれを聞いた途端、少し笑みがこぼれていた。
「じゃあ、お母さんと一緒にまた暮らせるんですね。」
「そうじゃのう。じゃが。」
爺さんはそう言うって立ち上がり、波瑠のもとへと来た。
「娘は忙しいからすぐには来れない。だから、おじいちゃんと一緒に行くのじゃ。」
「え、でも。」
「でもじゃなく。ほら、外に車を用意しているから早く行こうではないか。」
ニコニコしながらも、爺さんは波瑠の手を掴んでいるが、波瑠は困りながらもまだ椅子に座っていた。
なんかおかしいよな。こんなに急かす必要があるのか?
そこで俺はドアの前に急いで立って、爺さんにまた何か言われるかもしれんが質問した。
「度々すみませんが波瑠のお爺さん、そんなに急いでますが、あなたは何か急がないといけない事でもあるのですか?」
「須原拓磨さん、おぬしには関係ない事じゃし、さっきもそうじゃが口出しはしないと言ってたではないか?だから、静かにそこに座るかでってくれんかの。」
また睨まれたが、引き下がらんぞ。
「余計な口出しはしないと言いましたが、波瑠が困ってるのでちゃんとした理由を言ってからにして下さい。何かやりたい事があって急いでるんですか?」
「それは…。」
爺さんは口籠っていたが、すぐに言い返してきた。
「…これから色々、あるのじゃよ。」
「と言いますと?」
「え~と、まずは~、波瑠の荷物!そう波瑠の荷物を須原さん家から取りに行って、それから~、波瑠の転校の手続きじゃ。転校編入の手続きを学校でしに行かんと行けないんじゃ!」
「えっ。」
やっぱり聞いといて良かったが、爺さんの言ってる「転校手続き」って何を言ってるんだ。
波瑠も不審に思い、爺さんの手を振り払った。
「私が何で転校する話が出てくるんですか!」
「波瑠の方こそ何を言ってるんじゃ。社長の娘なんじゃし、普通の高校ではなくもっと良い名門校に転入するのは当たり前のことじゃろう?」
爺さんは自然な感じに言ってるが、転入って時点でおかしいだろ。分からないのか?
「それから、波瑠よ。お前にはすでに許嫁もいるから挨拶しに行かんと。」
「え、え?許婚?」
許婚と言う言葉で俺は冗談でも言ってるのかと思ったが、どうやら本気らしい。
そんな事を聞いた波瑠は、呆然としていた。
「あんたは、波瑠の事をほんとに大事な家族だと思っているのか?」
「何を言う、波瑠の将来を幸せにするために当たり前のことをやってるだけじゃし、それにワシを誰だと思っている!口が悪いぞ須原拓磨!!」
俺は説得のために必死になってしまい、敬語を忘れたが、爺さんの方がもっとひどいことを真剣になって言ってるが、それも分からないのか?
「それにじゃな、色々な悩むよりもワシが孫娘を幸せにするための道を強いてあげた方が悩まずに済むじゃろう。」
「それだと波瑠本人の気持ちを無視することになるが?」
「気持などあとからでも整理を付ければよいじゃろう。」
とうとう爺さんは本性を現したが、こんな奴が波瑠を大切な家族だと言ってるのが俺には信じられなかった。
波瑠もいろいろな真実を告げられて固まった状態になっているが、どうにかしてここから逃げねぇと波瑠の人生はこの爺さんの言った通りになってしまう。
そう思っていると、
「もうそろそろ、須原拓磨さんには退室してもらうかの。来いお前たち。」
爺さんが言った直後に後ろのドアが開き、俺より背の高い二人の厳つい男が入って来た。
「な、何でこんなタイミング良く来るんだ。」
「それはワシが十分経っても出てこなかった時様に、ドア近くで待機しておくように命令したからに決まっておるじゃろう。」
「知るかそんなもん!」
「知らなくてもいいんじゃ。それより二人とも早くそいつを外にほっぽりだせ。」
「「はっ」」
男たちは、後ろを振り向いて俺の両腕を掴んだ。
「…や、やめて。」
波瑠は怖がって小声で言ってるが二人は聞いていなかった。
必死に抵抗するも力強さは物凄く、俺は只々ズルズルと引き摺られていた。
「離しやがれ!この野郎!!」
「拓磨君!!」
本当は怖いだろうに波瑠が大きな声で俺の事を呼び、俺の手を取ろうとしていたが、
「おっと、奴が暴れて危ないんじゃから、離れてなさい。」
波瑠は爺さんに止められた。
確かに俺が抵抗してもどうにも出来ないのに波瑠が止められる訳がない。
波瑠も俺の方を見て、どうにも出来ないのが分かったのか涙を堪えていた。
波瑠のお母さんに会いたい願いも叶えられず、俺はこのまま外に出されておしまいか。
って、ここまで来るのにどうにかなったんだから、俺も諦めてどうする。
今は無理でもせめて泣きそうになってる波瑠を元気づかせよう。そう思って俺は、
「波瑠、俺は追い出されてもお前の事を何が何でも必ず助け出すから、少し待っててくれ。」
「本当に。」
「本当だ。約束は破らねぇよ。」
少し心もとないことを言ったが、波瑠は頷いてくれた。
「何を言う、無理に決まっておるじゃろう。」
「俺は無理な事でもやると言ったらやるからな。覚えておけよ、波瑠の爺さん。」
そう言って俺は爺さんを睨みつけると、爺さんはたじろいでいた。
「そ、それより、二人は何をしておる、さっさと出んか。」
爺さんが言うように二人ともさっきから全然部屋を出ようとしないが、どうしたんだ?
左右の男の顔を見ると何やら焦っている様子であった。そして後ろから、
「そこを退きなさい。」
と一声女性の声が聞こえ、男たちは後ろに後ずさりをした。
そうして、男たちの左横からさっき一階にいた時に見た、運動が苦手そうな女性と眼鏡をかけてタブレットを抱えていた女性の二人が部屋に入ってきた。
「これは一体どういうことですか。会長、説明してください。そして、そこの二人はお客様を離しなさい。」
「な、何故二人がここにいるのじゃ。」
「社長がこんなところに。」
「二人とも早くしなさい。」
運動が苦手そうな人が説明を要求しているが、社長って、やっぱりこの人が、波瑠の…
そんな事を思っている間に、もう一人の眼鏡をかけた女性がタブレットを見ながら、男二人に言った。
「あなた達は、この時間に重要な仕事が入っていましたよね。そちらはどうしたんですか?」
「か、会長にそっちより優先しろと申したので…」
「重要な仕事より優先しろ?…この事を水に流したいのなら早く仕事に戻って下さい。」
「「は、はいッ!」」
「いて!」
男達が急に手を離したから、俺は少しだけ尻を痛めた。
「な、行くでない!」
眼鏡の女性が威圧的に話すと二人は慌てて俺を離して部屋から出って行った。
助かったのはいいのだが、
「お主達は、まだ会議中じゃないのか。」
「会議なら十分早めに切り上げたのよ。」
「なんで会議を早めに切り上げたのじゃ。あの会議は時間が掛かるはずじゃのに。」
「あぁ、その事ですか。そのことでしたら、会長が何か企んでいる事はとっくに気づいていましたので、ここ最近の会議は早めに終わりにしていました。」
「じゃが、それでも…」
三人は言い争っていて、俺と波瑠は置いてけぼりにされた。
一応俺は、波瑠の所に駆寄って行った。
「拓磨君。さっきは大丈夫だった。」
「あぁ、あの二人のおかげで助かったが、なんでここに来たんだ?」
「ふっふっふっ、その事は私が教えてあげようじゃないか。」
開けっ放しのドアの方からまた誰か…、と言うか陽葵の声が聞こえて、ドアの枠にもたれかかってから部屋に入って来た。
「ヒーローは遅れてやってくる…。アハッ!この言葉一度言ってみたかったんだよね。」
「陽葵ちゃん。下にいたんじゃなかったの?」
「いやいや、社長の広清さんと秘書さんの
そ、そういえば、二人が入ってきて俺も忘れかけていたが、慌ててたから変なこと言ったよな。
って、そうじゃなく。
「そこからじゃなくて、ちゃんと下からここまで来たこと言えよ。」
「そうだった。でも、兄ちゃんの『必ず助け出すから、待っててくれ。』がどうしても印象的で。」
「もう蒸し返さなくていいから早く言え。」
「はいはい。長くなるけど話しますよ。」
そう言って、陽葵は話し始めた。
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