第22話

 ―駅を出た後―


 到着してすぐにスマホで前に調べたロスガ製菓に行くバスはどこなのか確認を取り、バス停まで行くとかなりの人がバス待ちをしていた。


「げ、早く来たのにこんなに人がいるもんなのかよ。しかも土曜なのに。」


「土曜日でも仕事なんだから関係ないでしょ。拓磨君。」


「でも、こんなにいるんだったら、次のバスで乗った方が良くない?」


 俺達も陽葵の意見に賛成し、次のバスに乗ることにした。


 一応並んで、一台目のバスはギュウギュウ詰めになりながらも行ったが、そこから一分もたたないうちに二台目のバスが来た。


 二台目のバスもギュウギュウになるまで人が乗ってきたが、俺達は前の方に並んでいたので座ることが出来て、やっぱり二台目にして正解だった。


 そして、バスに乗ってから十分、ロスガ製菓本社ビルとまでは行かないバス停に降り、そこからまた五分歩いて、ついに目的のロスガ製菓本社ビルに着いた。


 ビルは、前に調べたら十階建てで横もまぁまぁ長いらしいが、現物を見ると周りのビルよりも桁違いに高いので圧倒された。


「ロスガのビルってこんな感じかぁ。だが、ここまで来たのはいいがやっぱり…」


 ビルに入っていく人はスーツを着ていて、俺達一般の人が入るような所ではなかった。


「朝に陽葵が言った通り、俺達が入るのは無理そうだな。」


「確かにそうだよね。もっと調べれば良かったかなぁ。」


 波瑠は気を落としているようだったが、しょうがないと思って今回は割り切って欲しい。


「しょうがねぇよ波瑠。一応場所は分かったんだし、また今度ということでこっちの良い店を見てから帰ろうぜ。ついでに見たいとこもある…あれ、陽葵、さっきから静かだがどうした?疲れたのか?」


 陽葵は、ビル一階に貼ってある、いろんなお菓子が写っているポスターをじーっと見て次の瞬間、それを指刺して言った。


「ねぇ、兄ちゃん、波瑠ちゃん、このビル一階は入れるらしいよ。」


「陽葵ちゃん、それって本当!」


「本当だって、ほら。」


 陽葵は、波瑠をビルに貼ってあるポスターの前に連れて行き、すぐに戻ってきた。


「そんなことある訳ないだろう。」


「拓磨君、それが本当みたい、拓磨君もポスター見てきなよ。」


「兄ちゃん、疑う前に見てきて。」


 二人に言われて仕方なく見に行くと、俺はてっきりロスガ製菓の宣伝用ポスターかと思っていた物が、


『ロスガの地方限定物も売ってるお菓子売り場とホッと一息ロスガ・イン・カフェテリアは一般の方も気軽にどうぞ。』


 と書いてあり、確かに一階は入れるらしい。


 まじか、まずは二人の所に戻って疑ったことを謝るしかないな。


「悪い、本当だったなんて思いもしなかったぜ。」


「ふっふっふ、兄ちゃんはが足りないんだよ。」


「洞察力というより、あんなに見づらい所に貼ってあったら、誰だって勘違いすると思うが。てか、スマホで調べた時はそんなこと一言も書いてなかったけど?」


「あんまり人に知られてないから、書かれてないんじゃないの?」


 う~ん、どちらかと言うと、わざとあんまり人に知られないようにしてるって感じにも思えてくるが。


 穴場スポット?的な何かにしようとして。


「とにかく面白そうだし、入ってみよう。」


 陽葵はワクワクしながらビルの中に入り、俺達もその後に続いては入った。


 ビルの中に入ると、確かに右がお店で左はカフェテリアになっていた。


「何なんだ、この会社。普通一般の人を入れないだろう。」


「まぁ、そんなこと考えてなくても良いんじゃないの兄ちゃん。」


 良くはないと思うが。


 俺ら二人が話している所、波瑠はお菓子売り場の壁に貼ってある張り紙を見ていた。


「何見てるんだ、波瑠。」


「うん?なんかここのお店、地方限定の商品一覧が乗ってるから気になって。」


「そうだよ!早く店を見に行こう。」


「え、ちょっと引っ張らないで陽葵ちゃん。」


 陽葵は我慢できなかったのか波瑠の手を引っ張って店の中に入って行ってしまった。


 俺だけ取り残されたが、お菓子にあんまり興味ないし入るか入らないか…。


 悩んでいる中、ロビーの奥を何気に見ると


「ここからは関係者以外立ち入り禁止」


 という看板と自動扉が気になった。


 自動扉は曇りガラスになっているが、やっぱりそこから社員が出入りしてるのか?だが、今はもう九時過ぎてるからなのか、社員も通らないな。


 そんな何気に奥を見ていた時、急に俺達が入って来たドアが開き、誰かが慌てて入って来た。


「もう、なんでいっつも寝坊するんですか。」


「はぁはぁ、だってぇ、会議がこんなぁ、はぁ、朝早すぎるのが、いけないんだよぉ。」


「駐車場からここまで五分しか走ってないので、疲れないで下さい。それに腕時計見たって時間は戻りませんよ。全く、大体会議を早くするって言ったのは…。」


 そして、眼鏡をかけてタブレットを抱えている女性が小言を言いながら、二人は小走りで奥の関係者入り口に入っていった。


 会社の事はよく分からんが会議って言ってたし、今の時間で大丈夫なのか、あの人達…、うん?ちょっと待てよ。


 寝坊している人達の後ろ姿を見ながらも、俺は少し引っかかる部分があった。


 二人とも顔は見えなかったが、腕時計を見ていた人、ちょっと走っただけで疲れる事や寝坊したって…誰かに似ているような。


 う~ん、でも人って色んな人がいるから何とも言えないよな。


 まぁ、気にしなくていいか。


 俺は寝坊した人たちを気にするの止めた。


 それよりも、俺がここにいて数分経つがいつまで店の中にいるんだ。


 まさかあいつら、ロスガの社員に掴まって無いよな。


 止めた途端だが、店に入った二人が全然出てこない事の方が気になってきた。


 俺はもしもの場合を考え、二人のもとへと急いで向かった。


 店の方に入ると中は棚が一つしかない小さいコンビニみたいになっていたが、近くの商品を見るとロスガの関連商品しか並んでおらず、陽葵が好きそうな感じな店だった。


 って、見入ってる場合じゃなく、波瑠たちはどこだ。


 手前はいなく、そうなると奥しかないから急いで覗くと、波瑠たち(と言うか陽葵)は黙ってお菓子を選んでいた。


 急いで、損した。


「おい、お前ら、今日はお菓子が目的で来たわけじゃないだろう。」


「私は、もう選び終わったから良いんだけど陽葵ちゃんが、ねぇ。」


「兄ちゃん、こ~んなにお菓子があったら、選ぶのに時間が掛かってもいいでしょ。」


「良くないわ!」


 陽葵はその後も、地域限定商品の前で吟味したり、海外にしかないロスガ商品に興奮したりともういい加減に決めて買ってほしかった。


 そして、やっと陽葵はお菓子選びが終わったらしく、波瑠と一緒に会計を済ませていた。


 会計を済ませたのはいいものの、今度はカフェも見たいと陽葵が言い出し、カフェの方に入り、椅子に座って陽葵と波瑠は横に座って、二人でメニューを見始めた。


 俺も二人に合わせるため、一旦座った。


「なぁ、今日の目的を忘れてるわけじゃないよな、波瑠。」


「陽葵ちゃんがここでこの後の作戦会議するって言ったから来ただけで、忘れてないよ。あ、私はこのロスガ特性ふわふわパンケーキにしようっと。」


 その割には、ずいぶんと楽しそうに選ぶな。


「おいしそうなやつだね、波瑠ちゃん。私はどうしようかなぁ。」


 本当に忘れてないんだよな。


 はぁ~、俺も朝あれだけで腹減ってたし、いいか。


 そんな事を思い、俺もメニューを見してもらった。


 また陽葵は選ぶのに十分かかり、ようやく決めたみたいで陽葵は店員を呼んでいた。


 注文してから十五分後、飲み物と食べ物を店員が席まで届けてくれた。


 俺達が頼んだものは、俺はアイスコーヒーとサンドウィッチ、波瑠はミルクティーとパンケーキ、陽葵はアイスココアとイチゴのパフェを頼んだ。


 注文の品も来たし、食べながらこれからどうするか聞いてみるか。


「で、この後はどうするんだ。波瑠。」


「うーん、ここにいても会えるか分からないし、今度きちんと事前に連絡入れてみてからにしよう。だから、今から駅に戻って、駅ビルで買い物や遊んで帰ろうか。」


 怖気着いたのか何なのか知らんが、今日は止めるのねぇ。


「朝凄くお母さんに会いたそうにしてたのに、波瑠ちゃんそれでいいの?」


「お仕事してる人たちにも迷惑掛かるかもしれないから、今日は止めるよ。」


 そんな事も思っていたのか。ここまで来たが、波瑠が止めるって思ってるなら俺達が止める事は出来ないよな。


「じゃあ、駅前に良いゲームセンター知ってるから、早く食べ終えて戻ろうぜ。」


「兄ちゃん、ここら辺来たことないよね。なのになんで駅前にゲーセンあるの知ってるの?」


 ギクッ、陽葵、何でそんなこと聞いて来るんだ。


「えっ?そうなの陽葵ちゃん。」


「うん、だって兄ちゃんだったら、面白そうなゲーセンあったら聞きたくもないのに話してくるじゃん。」


「確かに…拓磨君、もしかしてそこに行きたくて、朝説得してないよね?」


「あははは、ほ、ほら早く行こうぜ。買い物もしたいんだろう?」


 二人はジト目で見てくるが、良いじゃん。


 俺だって土曜日なんだから遊びたかったし。


 そんなこんなで、今日の所はロスガの場所を確認しに来て遊んで終わりの土曜日。


 俺達はそんな雰囲気になっていたが、


『ピンポンパンポ~ン。カフェで食べ物を食べている三人、少々そこでお待ち下さい。』


 と、カフェの放送から声が聞こえ、多分俺達のことを言ってるようだった。


 というか、俺たち以外朝早いから周り誰もいないから、俺達しかいないか。


「なんだ?俺達何かやらかしたか?」


「いや、買い物もちゃんとお会計済ませてきたし、何もやってはいないと思うけど。」


 だよなぁ、まぁ、店長みたいな声出し、誰かと間違ってるのに出て行って、もっとひどいことになるならここにいた方がいいか。


 仕方なく俺達は食べ終わった後、待つことにした。

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