第19話

―放課後―


 学校が終わり、波瑠は友人と帰っていたが、念のため後ろからかなり離れて歩き、波瑠が友人がいなくなって数分したら波瑠と合流して帰った。


 波瑠には、朝に伝えたがやっぱりバレるのが嫌なのか、少し離れて歩いていたが我慢してくれ。


 だが、進の言う通りなのか、ロスガの社員は現れず、何事もなく玄関まで来れた。


 本当に来ないって、あんまりお菓子食わないから分からなかったが、ロスガってそんなに忙しいのか。


「拓磨君、来なかったね。」


「ん?あぁ、そうだな。」


 まぁ、今日は多分もう来ない、そう思いながら、玄関のドアを開け、すぐに自分の部屋に行き、カバンを置いたらベッドに寝っ転がってゲームを始めようとしたんだが、


『コンコン。』


 と、ドアのノック音が聞こえた。


「今、時間がある?拓磨君。」


 波瑠か、だけど、今から続きにしていたゲームをやろうとしたんだが、素直に言うか。


「波瑠、悪いけど今からゲームやるから、手が離せないから後にしてくれ。」


「暇だよね。入るよ。」


 俺が暇じゃないって言ってるのに、波瑠は急にドアを開けてきた。


「び、びっくりしたぁ。何だよ、そんなに急に開けて。」


「実は、今迷ってることもあって、相談したくて入ったんだけど、こんなに勢いよく開くとは思わなくて。驚かせて、ごめんね。」


「相談ねぇ~。それならしょうがないとしよう。」


 思いつめてるし、この前の相談してくれないよりはマシか。


 だが、この流れで行くと昨日のことだろうな。


 俺は、ゲームの電源を切って、座って聞く体制になった。


「で、波瑠。相談っていうのは?」


「昨日のことで話があるんだけど…」


 やっぱりな。でも、昨日って色々とあり過ぎるんだが…あっ、あれの事か。


「昨日って、もしかして波瑠がバテて途中で俺がおんぶした事か?あれは別に気にしな…」


「違うよ!!あと、恥ずかしいかったから思い出させないでよ!!」


 物凄く怒られたが、じゃあ、なんだ?


 俺が悩んでることや他にも色んなことを思い出してる中、波瑠は落ち着かせてボソリと、


「拓磨君。私…ロスガ製菓の本社に行って、お母さんに会ってみようと思うの。」


 って、言ってきた。


「はい?お母さん?なんでお母さんに会いに行くんだ?」


「それは…」


 波瑠は言葉を詰まらせながら右手を左の肘に当ててイジイジしているが、俺は場合によっては話しが長くなると思い、波瑠をベッドの方に座らせ、俺は勉強机の椅子に座った。


 座らせたら少しは話してくれるよなと思ったが、結局下を向き何も話そうとしなく、このままではずっと下を向いたままかもしれんし、俺は話を切り出した。


「で、なんで、そう思うんだ、波瑠?」


「じ、十年間連絡してこなかったお母さんの、その、…事情を直接本人に聞いてみたい…のと、お母さんと話したいことが、いっぱいあって、それで…。」


 そうだよな。


 十年間一度も連絡してこなかった母が、昨日急に連絡してきたし、まさかロスガの社長だったなんて、聞くことがたんまりあるもんな。だが、


「だからと言って、そんな所に一人で行って、また掴まりそうになったらどうするんだ?」


「それなんだけど、…拓磨君!一緒について来て!お願い!!」


 波瑠は俺に必死にお願いしてるが、俺も行くの!?


「あのな、波瑠。昨日はここ周辺だったから巻けたけど、他の場所となると俺もどうなるか分からんぞ。あと、俺なんかついて行っても何の意味も無いとか、いろいろと問題があるんだが。」


「うぅ…」


 ちょっと涙目になりつつも波瑠は言ってきた。


「色々とわがままって自分でわかるけど、一人で行く勇気も無いし、こんなこと頼めるの拓磨君しかいなくて…。」


 また波瑠は下を向いているが、多少俺も言い過ぎたし、それにここまで必死で自分の母に会いたいって言ってるのに応えないのもな。


 はぁ~あっと。


 俺は、深くため息をついた後、頭を搔きながら波瑠に言うことにした。


「まぁ、昨日の男は最終的に俺について来なかったし、他の奴らも大体そうだろう。だったら、またおんぶして逃げられる、か。」


「えっ。」


 波瑠は顔を上げて驚いていたが、俺は淡々と話しを続けた。


「それに、勇気出るか分からんが本当に俺は会社に行っても付いて行くだけだからな。」


「ありがとう!拓磨君!!」


 最終的に恥ずかしくなっていた「おんぶ」を冗談交じりに言ったのに、聞こえていないのか安心しきった笑顔をこっちに向けてきた。


 だが、やっぱりまだ他にも問題があるから、俺は波瑠に聞いてみた。


「でも、そもそもロスガ製菓の本社の場所はどこにあるのか知ってるのか?」


「知らないけど、ネットで調べれば分かると思うよ。」


「あ、その手があったか。」


 そう言って、波瑠と俺はスマホを取り出して調べてみると、駅で一時間以上かかる都市でしかもバスを使って行かなきゃいけない事が分かった。


「かなり遠いいが、それでも行くのか、波瑠?」


「うん、行くよ。」


 波瑠は、真剣な声で意思は変わらないといった様子だった。


 俺も波瑠を連れて逃げられるように周辺の大体のマップ位は頭に叩き込んでおくか。


 あっ、あと、もう一つだけ聞いておかないといけない大事なことがあった。


「それで、いつ行くんだ?」


「早めがいいと思うから、今週の土曜の休日に行こう。だから、寝坊しないでね。」


 寝坊しないでって。


「一番気を付けてほしいのは、俺じゃなくて、波瑠何だが?」


「心配しなくても大丈夫だよ明日は早く寝るし、目覚まし時計もかけるから。」


 大丈夫って、朝いっつも陽葵に起こされて眠たそうにしてるのに、本当に大丈夫なのか?


 そんな心配に思ってる俺を置いて波瑠は立ち上がった。


「じゃあ、決まったことだし、私部屋に戻るね。また後で。」


 と言って、波瑠は部屋を出ていった。


 しょうがない、波瑠も行く気満々だから、俺も早めに寝ておくか。


 そう思って、俺はまたベッドに寝っ転がってゲームをやっと始めることが出来た。

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