第18話

 衝撃的な話があった翌日、学校に来たのはいいんだが、午前中の授業はずっと上の空でいつの間にか昼休みになっていて、進が声をかけてきた。


「今日はどうしたんだ、拓磨。朝から話しかけてもぼーっとしてるし、さっきの授業だって、先生がお前に質問してたのに聞いてないし、何かあったのか?」


「ん?先生が質問してた?」


「それも、分からないほどなのかよ。」


 俺も自分で分かるぐらい重症なのかもしれないが、やっぱり昨日の事がどうしても引っかかって、今日は授業に集中出来ない。


 だが、これ以上授業に集中出来なくて、担任やら生徒指導の先生に呼び出しされたら困るし、ここはいつでもどこでも相談できるこいつにでも聞くか。


「昨日あったことを考えていたら、先生の話を聞いてなかったわ。」


「はぁ、考え事ねぇ。この前と言い今日と言い、お前が考え事をするなんて珍しいな。明日は雨でも降るのか?」


「雨なんか降る訳ないだろ。それに俺だって考え事ぐらい普通にするわ。」


「お前が連続して考え事ねぇ。」


 そんなにおかしいことかよ。俺が連続して考えるのが。


 進は俺を不思議そうに見ていたが、


「まぁ、そんな冗談はさておき、今日は何について考えていたのか教えてくれよ。」


 と、やはりちゃんと話を聞いてくれる感じだ。


 でもなぁ、いつも通り波瑠との約束もあるし、ここでは話しづらいんだが。


 そう思いつつ、頭を抱えていたら、


「また、話しづらいことか?」


「あ、あぁ、そうなんだが…」


「だったら、いい場所知ってるから、弁当持って付いてこいよ。」


「どこにあるんだよ。そんなの、って、進待てよ。」


 進は自分の席に戻って弁当を持って廊下に出てしまい、俺も急いで弁当を持って進の後について行った。


 進は階段を上って、更に三階よりも上の階の物置っぽいところに来ていた。


 で、この部屋にある二枚扉に進は手を掛けているが、その先は屋上何だが、


「おい、屋上は鍵掛かってるから出られないぞ。」


「まぁ、見てろよ。」


 って言って、進は施錠されているはずの屋上の扉を開けていた。


「なんで開けられんだよ。」


「それはな、先輩に聞いたからだぜ。」


「誰だよ、先輩って。」


 正直聞いても無駄だが、進は『よくぞ聞いた』と言わんばかりに話し始めた。


「えへ~、二年の女子の先輩と話してた時に偶然ここの話題になってなぁ~。」


「お前、知らない上級生の人に良く話しかけられるな。俺はめんどいからやらないけど。」


「めんどいって、高校という短い青春を謳歌するためには、友達も必要だけど、やっぱり彼女も作らないといけない、そう感じないのかお前わ。」


「俺はゲームとかで忙しいから、思った事ねーよ。それより早く屋上に出ようぜ。」


「おい、お前が聞いてきた…、って、待てって。」


 そんなことを言ってる進を無視して、もう片っぽの扉を開け、屋上に出た。


 人生で初めて学校の屋上に来たが、風がそよそよと吹いていて、大体の街を一望できる場所だった。


「へぇー、見晴らしいいな、でも、柵があるのに、解放されてないなんて、もったいないな。」


「あぁ、それも先輩の話なんだが、なんでも前にうるさい生徒がここを使って、近所から苦情が来たから、一旦は封鎖したらしいぞ。でもな、」


 進が何か言おうとしていたが、俺は地べたに座って弁当箱を開けて食べ始めた。


「だから、話を聞け!」


「わがってはいるが、ゴク、…だんだん腹も減ってきたし、食べながら聞くから言ってくれ。」


「はぁ~、お前は…」


 そう言って、進は横に座って、また話し始めた。


「で、どこまで話したっけ?」


「ング…、フー、屋上が封鎖したってとこ。」


「一旦か…、で、封鎖したが、でも、二年前にここの校長になった人が生徒が可哀そうって事で、今は普段使ったり、文化祭とかの行事でも垂れ幕を下ろしたい際はいいらしいぞ。」


「ふへぇー、でも、なんへ、ゴク、俺たち以外いないんだ?」


「そこなんだが、先輩も最近知ったことらしく、まだ浸透してないし、あと、騒いだら駄目ってルールがあるから、知ってる人やその先輩もここはあんまり使ってないらしいぞ。」


「ほおー、それでねぇ~。」


「で、ここは今となっては、『告白のための屋上』って、呼ばれてるらしいぞ。」


 ここまで屋上の話をしてきたが、その話をするッとことは、まさか…


「本当は下見がてら、お前の話を聞こうと思ったんだが、本当に彼女を作らないのか?」


 はは、やっぱりな。


 その後、昼飯を食べながら進の『彼女談議』が続き、「彼女がいると高校生活が華やか。」とか「デートは、自分も彼女も楽しくなる。」だとか、今の俺には関係ない話をされた。


 で、飯を食べ終わった後、流石に切り出した。


「なぁ、悪いが俺の考え事についての話をするんじゃなかったのか。」


「あぁ、そうだった、『彼女は作った方がいい』談義は、また今度な。」


「切り替えてくれたのはいいが、その話はお断りで。」


 お前は本当に分からないよな。と言いたげな顔で進は俺を見ているが、そんな事より昨日の夕方走って逃げていた事となんでそうなったのか波瑠の事を話した瞬間、進は、


「はぁ!!高本さんがロスガ製菓の社長の…」


「待て、進!驚きたいのは分かるが、誰かに聞かれたらどうするんだよ!」


「あっ、あぁ、悪い。あと、ここで大声出しちゃ駄目だったな。」


 進が、興奮するのは分かんでも無いが。


 進は反省しながら落ち着かせるため、息を大きく吸って、吐いていた。


 で、また続きを話し始め、終わった後に俺が昨日から気になることを言った。


「で、ここからが大事なんだが、誰が波瑠を会社に連れて来いと命令したか。」


「確かに俺も気にはなったが、お前が考える事じゃなくて、高本さん自身の問題だろう?」


「…波瑠自身の問題かもしれないが、でもな、無理やり連れていかれそうになったのが納得いかねぇんだよ。それに、また連れていかれそうになったら…」


「おいおい、拓磨。落ち着け。」


 進に止められたが、昨日のモヤモヤは社員がやったことに納得いかなかったと、進に整理しながら話して分かった。


 感情的になり過ぎたが、ロスガのとある奴は波瑠を連れて行って何がしたいんだ?


 俺がちょっと苛立っていた所、進は目の前にある俺のペットボトルを渡してきて、それを飲んでる時、進が言ってきた。


「ロスガ製菓は俺もあんまりは知らんが、大手企業なんだから忙しいだろう?だから、今日とか今すぐには来ねぇって。」


「この前の日曜日は来てたけどな。」


「それは、日曜日で暇な社員が雇われただけだろう。」


 た、確かに言われてみればあの男、昨日「下っ端」って言っていたな。


「あとな、お前たちは朝からロスガの社員に追われたのか?」


「いや、追われてないが。」


「じゃあ、やっぱり暇じゃないから、いつでもは来ないんだろう。」


 それを言われて、俺も少しは気が楽になったが、でも、


「来ないことは納得いったが、誰が波瑠を連れて行こうとしていたのかが問題なんだが。」


 進も、「あっ」という顔になって、少し考えた後、思いついたのか笑いながら言ってきた。


「社長より偉い人が命令したとか?」


「社長より偉い人?それって誰だ?」


「いや、俺も企業の事なんか知るかよ!」


 進はツッコミしながら言ってるが、有り得なくもないような。


 ようやく話はまとまって、大体は納得いったが、それよりも話が終わってすぐ進がにやにやしていた。


「なんでニヤニヤしてるんだよ。進。」


「拓磨は高本さんの話となるとすっごい気にしてるな~って。」


「はぁ?そんなのあたりまえだろ。」


「なんで当たり前なんだ?」


 一層進はニヤニヤしているが、急に言われて適当に答えただけなんだが。


 まぁ、一つだけ頭の中で出てくる言葉としては、


「だって波瑠は、お前や小波みたいに親友だからな。」


「…お前、良いことは言ってるけど、ゲームばっかりやってないで少しは自分の周りの事、考えような。」


 なんか、最後に諭されるように進に言われたんだが、別におかしなこと言ってないだろう。


 そうして、昼休みが終わる予鈴が鳴り、俺達は教室に戻ることにした。


 戻っている途中、進が何気なく、「遅かれ早かれ、すぐに犯人が正体を表すんじゃないのか?」と言っていたが、「そんなすぐに見つかるもんか?」と言い返して、「そうだよな~。」と二人で笑っていた。


 はははは、まさか本当にすぐ正体が分かったが、進はどこまで予知してるんだ。


 こっわぁ。

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