第11話

―須原家―


 私は、家に着いて、まだ夢の記憶の事で悩まされていた。


 だから、今日は一人になりたくて自分の部屋で明日の英語のプリント課題をしていた。


 だけどその時、玄関のチャイムが鳴る。


 陽葵ちゃんが出たけど、気になる声だったので、踊り場からこっそり覗くと驚いた。


 玄関先には、小波さんが居候させてもらってる拓磨君家にまで来ていた。


 しかも、何故か息を切らしながら。


「お、お邪魔、しますぅ。」


「あれ?愛空ちゃん、兄ちゃんならまだ帰って無いけど、どったの?」


「す、須原じゃなく、て、高本さんに、用があって、来たの。」


「ま、まぁ、分かったけど。今呼んでくるから、愛空ちゃんはリビングで待ってて。」


 覗いてて分かったから、一声かけないと。


「私も今の話聞いてたから、そっちに行くね。」


 そうして、私は階段を下りて、小波さんも家に上がり、リビングの椅子に座ってもらい、疲れているようだったから、飲み物を出した。


 一気飲みしてたけど小波さんが落ち着いたと思うから、私になんで用があるのか聞いてみる。


「それで、小波さん、用事って何かな?」


「いや~、それほどの事じゃないと思うけど、須原が高本さんの元気がないって心配してたから様子を見に来たの。」


「え、拓磨君、小波さんに言ったの?今朝の事を?」


「うん。あと、私だけじゃなくて、見沼にも。」


「なんで、話しちゃうかな。拓磨君は…」


 何でもないって、拓磨君に言ったのに。


 兄妹そろって、すぐに誰かに言うんだから。


 そう思っていると小波さんは、慌てた様に話を進めた。


「あの、心配しないで!誰もいない教室で話したから!!」


「そういう事じゃないけど…、ありがとう。」


「で、私も原因が聞きたいんだけど、波瑠ちゃん。」


 そういえば陽葵ちゃんにも話してなかったっけ。


 今までおとなしく話を聞いていた陽葵ちゃんと小波さんに話そうとしたその時、


「あのさ、高本さんが元気ない原因は、誰かに恋してて告白が出来ないから…、なの?」


 唐突にそんな話題を振られ、私は動揺した。


「なんでそんな話になるの!?」


「だって、須原が陽葵ちゃんと登校してる時、陽葵ちゃんがそうだって言ってたらしいから。」


「ひ~ま~り~ちゃ~ん~。」


 陽葵ちゃんはビクビクしていたけど、きっちりどういうことなのか説明して貰った。


 説明で分かったけど、陽葵ちゃんが恋愛ドラマとかで結び付けたから、拓磨君が分からなくなって二人に相談したのか。


 もうこれ以上は心配されて、変なことになる前に今朝から元気が無いことを話さなきゃ。


 そう決心して、私は二人に早急に話し始めた。


「おかしいかもしれないけど、本当は…」


 夢の話をして、また一層嫌な気分になったけど、二人は笑わずに真剣に聞いてくれた。


「…ということなの。」


「だから、元気が無かったのか。」


「それなら、早く言って欲しかったよ。波瑠ちゃん。」


「いや、落ち着いてから相談しようと思ってよ。でも、どうにも出来ないことだから相談もしづらかったんだ。」


 そう言うと二人はまた黙っていたけど、小波さんが咳払いをして話が再開した。


「まぁ、確かに私達にはどうにも出来ない。でも、一人で塞ぎ込むより、打ち明けた方がいいと思うよ。」


「えっ。」


 私は、そんなに小波さんとは話してないけど、陽葵ちゃんから聞いた小波さんの性格なら、すぐに話を切り替えると思っていたのに違って、戸惑った。


「そうだよ、波瑠ちゃん。兄ちゃんだって、今の話で心配してるのが分かったでしょ。」


「陽葵ちゃん…」


「まぁ、私もあんな恋愛とか変な事言ったけど、本当はすっごく心配してたんだから。」


 陽葵ちゃんもいつもの明るい感じとは打って変わって、私のことを怒ってくれた。


 二人の話でようやっと理解した。まずは何を言うべきなのか。


「それも、そうだね。ごめんね。陽葵ちゃん…、すぐに相談しなくて。」


「いいよ。波瑠ちゃん。」


 ようやっと、陽葵ちゃんがいつもの感じに戻ってくれた。


「高本さん。それ須原にも言いな。何はともあれ、これからも何かあったら相談ね。みんな友達なんだし。」


「うん。」


 今までもこういう夢を何回か見た事があって、その時はいつも一人で考えてたけど、今回は二人に話したことでこんな回答が来るなんて。


 恥ずかしくて言えないけど、二人とも本当にありがとう。


 あと、小波さんに相談してくれた拓磨君も…、ありがとう…。


「でも、なんで波瑠ちゃんはそんな夢を見たんだろうね?」


 話題を変えてくれたけど、夢を見た理由かぁ。


「さぁ、分かんないけど、もしかしたら、この前そういう話をしてたからかな?」


「あぁ~、兄ちゃんが急にテレビの社長がそうじゃないかって、言ってきたときね。」


「そんなこと言ったのかあいつ。」


 小波さんはちょっと呆れた顔をしていたけど、また話が変わり、


「でも、夢をきっかけに何か進展したりして。」


「ないない、愛空ちゃん。夢見過ぎ。」


「それもそうか。」


 陽葵ちゃんがそう言って、私達は笑ってしまった。


 そのあと、小波さんは


「来たついでだし。」


 と言い、もう少し話して、小波さんは帰ってしまった。


(これからも相談できることは相談しよう。)


 そんな事を思い、陽葵ちゃんに「部屋に戻るね」と伝えて、また英語の課題を始めた。


 でも、今日の夢は私も、そして、みんなもただの夢だと思っていたけど、まさか小波さんの言う通り「進展」するなんて。

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