第10話

―リビングにて―


 昨日はいつのまにか寝ていたが、俺は、いつも通りに起き、早朝ランニングをした。


 ランニングを終えた後、帰ってすぐ汗を拭いて、制服に着替え、リビングに向かうと陽葵と波瑠が座って朝食を取っていた。


「おっ!今日は寝坊しないで波瑠起きてるじゃん。珍しいな。」


「…うん。」


 家に来てから、波瑠はいっつも寝坊してて、俺が朝食を食べ終えてから波瑠の部屋のドアを叩いて起こすか。


 陽葵が起きたときに波瑠の部屋に入って起こすのが、いつもの日課だが、今日だけ違う。


 あと、からかい混じりに話したのに波瑠からの言葉が曖昧な感じだが。何だ?


 とりあえず、波瑠と陽葵の前の席に母さんが作ったであろう朝食が置かれているから、座ってもっと聞き出すか。


 座った後、タイミングを見計らって、聞いてみた。


「どうしたんだ、いつもと違ってなんか変だぞ。」


「な、何でもないよ。拓磨君。」


「確かに今日は変だよ。波瑠ちゃん。お腹でも痛いの?」


「別にお腹が痛いとかじゃないよ、陽葵ちゃん。」


 いつもすぐに聞く陽葵も、ここに居てすぐに聞いてないとなると、それだけしゃべりにくかったのか。


 波瑠は、少し話してまたうつむきながら、朝食を食べているが、なんだか空気が重い。


 陽葵は話すのを止めていたが、波瑠の事をちらちら様子を見ながら朝食を食べていた。


 俺も、もう少し何か話さないか気になって波瑠の事を見ていると、波瑠は俺らの見ている事に気づいたのか頭を上げた。


「二人とも心配しないで。それより、私は食べ終わったから、先に学校へ行ってるね。」


 波瑠は、明るい感じに言ってお皿を片付け、さっさと家を出ていったけど、やっぱり何かあったのか?


 俺も陽葵もすぐに食べて、波瑠に追いつこうとしたが、もうどこにもいなく、俺と陽葵は一緒に登校して、俺は何であんなことになっていたのか歩きながら話すことにした。


「陽葵よ。波瑠はもしかして、小波にバレたことがそんなに嫌だったのか?」


「兄ちゃん、それだったら、昨日みんなで楽しそうにしないでしょ。」


 陽葵に言われて、確かに楽しそうにしてたし、それに小波に友達って言われて、嬉しそうにしてたからそうか。


「それよりも、兄ちゃん。あれは、他にあるよ。」


「他に?」


 変な笑みを浮かべながら陽葵は言ってるが、他って…


「じゃあ、何があるんだよ。」


「それはぁ~~~…」


「間を開けてるけど、早く言ってくれよ。気になるだろ。」


 歩きながら陽葵は周りを気にし、ようやっと話してくれた。


「波瑠ちゃんは好きな人が出来て、なかなか言い出せないから思い悩んでるんだよ!」


「えっ、本当にそうなのか?」


 なんか違うような気がするのだが、陽葵は続けて話した。


「ちっちっち、兄ちゃんは分かってないなぁ。女の子はそういう時があるのだよ。」


 俺に向かって指をさしているが、俺はここでとある疑問を抱いたので聞いてみた。


「得意げに言ってるけど、お前にそんな経験はあるの?」


「え?ないけど。普通に漫画とかドラマでよくあるじゃん。だから、そうだと思うよ。」


「自分の話じゃないんかい!」


 朝から声を張ったが、陽葵も分からないなら言うな。


 その後も陽葵と歩きながらいろいろと話したが、他に思い当たることが思い付かなく、波瑠が何で暗かったのか分からない。


 このまま分からないのも落ち着かないし、俺は学校であいつらに相談することにした。


 で、陽葵と別れて、学校に着いたのはいいものの、ホームルームの予鈴が鳴っていた。


(やっべ、陽葵と話してたら、もうこんな時間か。急で教室に行かないと。)


 しょうがねぇ、進と小波には放課後にでも話すか。


 そうして、俺は早く下駄箱に行き、靴を履き替え、すぐに教室へと向かった。


 放課後になるまで、授業を聞いたり、半分寝かけになったが、それでも、言えるのは放課後の誰もいない時なので待った。


 そして、やっとの放課後、進と小波には、一応二人が暇な時に「放課後、教室で待っててくれ」と一言いい、進は『分かった』と言ってくれ、もう一方の小波は、『あっ、えっ、それって?』と困惑しながら言っていたが、分かってくれたであろう。


 周りがちらほらと教室からいなくなり、やっと俺達三人になり、話そうとしたが、


「どうして、見沼がいるんだよ。」


 と、小波が怒っていた。


「小波、俺拓磨に呼ばれてここにいるんだ。別におかしくないだろ?」


「た、確かにおかしくはないけど…。須原、なんで私達を呼んだんだよ。」


 あの時分かってたんじゃないのかよ。


 そう思いつつも最後にもう一度誰もいないか廊下を確認して、二人を俺の近くの椅子を使って座らせ、話を切り出した。


「なんというか、朝から波瑠の元気が無いから、何かあるのかと思って聞いたが、本人は何でもないって言うんだよ。で、陽葵とも俺らが何かしたのか話し合ったんだが、陽葵は恋で悩んでるじゃないかって言てってさー…」


 話したが、進は右手を口で押えながら必死に笑い堪えていて、小波がプルプルしていた。


「じゃあ、す、須原は、相談で呼んだってこと?」


「そうだが…、それ以外に何かあるか?」


「はぁ~…、まじか。」


「ぷ、ははははは、小波、どんまい。」


 なんか俺が悪いことになっているが、俺が話すって言ったら、中学からゲームかこういう相談なんだが。


 ちゃんと言っていなかった俺も悪いが、二人とも長い付き合いなんだから察してくれ。


 小波は俺の机に顔を突っ伏して、話せない感じになったので、今度は進が話してくれた。


「拓磨なぁ、気になるだろうけど、人には色々事情があるだろうし、あんまり気にしない方がいいと思うぞ?それにだな。」


 進は足を組み換えて、また話始めた。


「二人とも仲が良いって、拓磨の話を聞いてて思うから、もしどうしよもなくなったら、高本さんの方から相談してくると思うぞ。」


「そうか?」


「そうだ。」


 進の言う事は分かるが、それでも波瑠の元気の無さは今までなかったから、気になるのは当然のはずだ。


 もう少し詳しく波瑠の事を話した方がいいのか?


 と思っていた時、


「何言ってるんだよ、見沼。女の子は繊細なんだぞ。」


 やっと起き上がった小波が、反論してきた。


「繊細ねぇ。そういうお前も…」


「そうだよ。女の子だもん。」


 いや、小波、中学の時もこの前の遊んだ時も見てるけど、俺らと一緒に遊んでて、本気でゲームとかで対決してくるから言うほど繊細じゃ無くね。


 俺はそんな風に思って小波を見ていたら、いきなり小波に叩かれた。


「いってぇ~…、何すんだよ。小波!」


「何となく、失礼なこと思って見てたからだ。」


「何となくでやるなよ!だから、繊細じゃない…。あっ。」


「ほら!思ってたじゃん!!」


 流石に口が滑った。


 また、叩かれそうになったが、


「何してんだ、話が脱線してるぞ。」


 腕を組みながら進が止めに入ってくれ、小波も落ち着いたらしい。


(た、助かった。)


「話を戻すが、拓磨は高本さんが元気じゃないのが気になるらしいが、小波が言う『繊細』なら、尚更待ったほうがいいんじゃないのか?」


「はいはい、じゃあ、私が聞いてくるってのは?」


「あの~、僕の意見は聞いてくれないかなぁ、小波さん?」


 進の話をそっちのけで小波は自分の提案をしてきたが、正直なぁ。


「え~、小波が聞きに行くのかぁ?余計なこと言いそうだし、なぁ、進。」


「俺の意見はどっか行ったが、まぁ、小波じゃ、何を聞くのかわかったもんじゃな…いぃ!?」


 二人で言ったとたん、小波は物凄い剣幕で睨んできた。怖えー。


「もう一発いく?須原と、見沼。」


「「すいませんでした。小波さん。」」


 俺たち二人は、座ったまま腰を直角九十度ぐらい倒して謝った。


「もういい、そんなに二人が言うなら、私が今から家に行って聞いてあげる。じゃ。」


 そう言いながら、椅子を戻して、スタスタと廊下に出ていってしまった。


 でも、俺ん家ねぇ。


「なぁ、拓磨、あいつってお前の家の場所を知ってるのか?」


「いや、一度も来たこと無いし、知らないから戻ってくると思うぞ。」


 そんな話をして、一応戻ってこなかったことを考え、俺達も椅子を片付け、最後に残っているから、教室の戸締まりと鍵をかけて追いかける準備をしていたら、やっぱり小波は戻ってきた。


 それも、息を切らしながら。


「そう、いえば、須原の家って、どこ?」


「なぁ、進。こんな感じなのに、任せても大丈夫なのか?」


「う~ん、分からんが、小波、どこらへんで場所が分からないの気付いたんだ。」


「玄関の、下駄箱に、着いた時に、気づいたの。」


「そこで気付いたのかよ!?もっと前に気づけよ!!」


 やっぱし駄目だ。こんなんじゃ小波の奴、道に迷って、最悪聞けずじまいで終わってしまう。だったら、


「本当に来るなら、俺と一緒に来いよ。」


「いや、家がどこにあるかだけ、教えてくれればいい。」


「全く、頑なだなぁ。」


 仕方なくノートをバッグから取り出し、端っこを適当に切って、小波に家の道順を書いて詳しく教えたら、またせっせか行こうとしたが、行く前に


「じゃあ、私は須原の家に行くけど、あの近場の商店街に居て。」


「ハァ?小波、どういう事だ…」


 って言う前に行ってしまい、廊下を見てもどこにもいなかった。


「もういないのかよ!?」


「拓磨、お前も言ってたが、ほんっっっとうにあいつに任せて大丈夫か?」


「俺も今更だが、小波にこのことを聞かせたのが間違いだったかも。」


「だよな。」


 今思えば、小波は中学校の頃から思い立ったらすぐに行動に移すからな。


 あとから後悔していても遅いので、しょうがなく小波が言った、商店街へと二人で向かい、時間を潰すしかなかった。

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