第9話

 いろんなのが薄暗く見えるけど、私は、夢を見ているらしい。


 それは、幼いときの記憶でほとんどが微かな、…お母さんとの記憶であった。


 私に優しくしてくれた記憶。


 いつも私と遊んでくれた記憶。


 そして、いろんなことを教えてくれた記憶。


 また、お父さんとも、すっごく仲良くしてるのを見て、いつまでも続いて行くような日常の風景が夢の中に出てきた。


 私はこのまま楽しく終わると思っていたけど、突然場面が切り替わり、同居する前の家の玄関にお母さんは座って靴を履いている場面になった。


「お母さん、ちょっとやることが出来たから、お父さんの言うことをよーく聞いて、お父さんを困らせないようにするのよ、波瑠。」


「どういうこと?おかあさん?」


 そう言うと、お母さんは私に抱きつき、顔は肩あたりにあって見えなかったけど、何かを我慢しているような口調で言ってきた。


「いい子にして待っててね。ってことよ。」


「うん?いいこにまってるよ、おかあさん。」


「じゃあ、行ってくるね。二人とも。」


 そう言って、お母さんは最後まで顔を見せないで玄関のドアを開けて出て行った。


「ねぇ、おとうさん?おかあさんは、どこにいったの?」


「はは、な~に、すぐに帰って来るよ。それまで、待ってようね。」


「うん。わたし、おかあさんにおかえりっていいたいから、まってる。」


 お父さんは、『すぐに帰る。』って言ったけど、何日たってもお母さんは帰ってはこない。


(何で急に、この夢を見てるんだろう。)


 また場面が変わって、何日かたった土曜日、お母さんが帰ってこなくて、凄く泣きたい時があったけど、お母さんに言われた


『お父さんを困らせない。』


 を守る為に、我慢していた。


 いつも通り普通にしてたけど、お父さんは何故かすぐに分かって、


『我慢しなくてもいいんだぞ。』


 って言ってくれて、私は盛大に泣いてしまった。


(なんで、…なんでこの夢をみるの?)


 そして、また場面が切り替わる。


(嫌だ、これ以上は見たくない。)


 そう思っていたら、


『ピピピピピッ!ピピピピピッ!ピピ…』


 と目覚まし時計のベルが聞こえてきて、普段は十数分後に来る陽葵ちゃんが止めてくれる目覚まし時計を自分で止めた。


 いつも夢ってあまり覚えていなかったり、楽しい事でもすぐに忘れちゃうのに、今回は鮮明に覚えていた。


 だけど、もうお母さんの事を考えていても仕方がないと思い、いつしか忘れていた。


 いや、一旦は忘れようとしていたはずなんだけど、今日の夢に出てきた。


(最近そんな話をしたばかりだから、夢で見たのかな。)


 何だか、朝起きて夢の内容で嫌な気持ちになってるけど、今も私はお父さんとお母さん、どっちも信じてる。


(二人とも喧嘩なんて一度もして無いはずだから、絶対別の事だよね。お母さん、お父さん、私は信じてるよ。)


 もう気持ちを切り替えて、私は制服に着替えようと動いたら、目から涙がこぼれて来た。


 いろいろと思い出してきたせいなのか、全然涙が止まらないので、一、ニ分待ってからようやく落ち着き、着替えて、私はリビングに向かった。



(今日は、一人で先に学校に行こう…)

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