第7話
そして、取り終わって時間を見て見ると五時を回っていた。
「母さんたちがいつ迎えに来てくれるか分からないし、次で最後だな。」
「えっ、もうそんな時間なんだね。」
「兄ちゃんが、早くぬいぐるみを取らないからだよ。」
陽葵の奴、俺のせいにしてるが、それ以外にも雑貨屋に行ったり、小波に説明したりとかあると思うが。
「あ~、私もバスで来てるからそろそろ帰らないといけないんだけど…。最後は、どうしても私がやりたかったことでも良いかな?」
「うん?小波さん、何かやりたいゲームでもあるの?」
「そうだったの愛空ちゃん。これに時間かなり費やしちゃって、ごめんね。」
「うんん、数分で終わるし、あとでもいいかと思ってたから、大丈夫だよ。」
「何だよ、小波。別に遠慮しなくても、お前の機嫌直しで来てるわけなんだから、早く言えよ。ほら、急いでそのゲームやりに行くぞ。」
俺も軽々しく言ったが、言いづらいちゃ、そうだよな。
俺だけだったら、普通にバンバン言えても、今日初めて会った波瑠とか、陽葵がいるわけだし。
「おう、言われなくても最初からその気だよ。」
そう言って小波は、足早にゲームの方に向かったが、そんなに遊びたい奴があったのか。
まぁ、小波とよく遊んでるから大体わかるが、格ゲーとか音ゲーあたりだろうなぁ。
と思ったが、小波はさっきのいろんなゲームがあった場所とは真逆の逆方向に向かった。
違うのか?あ~、もしかして俺らが行ってないところにゲームがあ、るぅ…!
そうして、最後に小波が遊びたかったのは、俺には縁がないとこ…というより俺は一度もやったことのないプリクラ機だった。
しかも、周りもカップルや女子達が多く、なんかとても居づらい場所でもあった。
「な、なぁ、俺は別の場所に行ってもいいか。カップルとか女子しかいないし、目立っている気がするんだけど…。」
「須原。気にし過ぎ。別に目立ってないし、今日はたまたまだけど、いつもは男女のグループだっているんだぞ。」
「そ、そうなのかぁ?」
「あ~、そういえば、兄ちゃんと一緒に撮ったこと一度も無かったね。だから、そうなるのも無理もないよ。」
俺も、陽葵と一緒に撮っておけばこんなことにはならなかったのか?だが、ゲーセンに行ったら普通にゲームもしたいし、というか、俺が率先して言うことなんて多分ない。
今、一応は三人と一緒に順番待ちをしているが、どうにかして抜け出せないものか…。
「あの~。」
「どうしたの、高本さん?」
ちょこんと手を挙げていた波瑠は、気恥ずかしそうに言った。
「実は私も友達と一、二回だけしかやったこと無くて。あんまり分からないんだよねぇ…。」
「そうなんだ波瑠ちゃん!意外だね。」
「大丈夫。中でポーズの説明とかしてくれるから。」
(えっ、ポーズ説明?何が??)
そんな話を聞いているうちに順番が回ってきて、結局半ば強引に小波の奴に入らされた。
そしてプリクラ機の中に入って自分の分のお金を入れると早速、『写真を撮るよー!』と音声案内が入り、『まずは、両手を頭の上に持っていって、うさぎのポーズ!』や『顎に手を当てて、不思議そうにして!』など色々なポーズを取らされ、物凄ーく恥ずかしい。
『最後に自分の好きなポーズを取って‼』と言われ、みんな各々ポーズをとっていたが俺が知っているポーズは変身ポーズしかないのでそれをやって、どうにか終わった。
と思っていたが、『今度は、自分達の顔にデコレーションしてね。』と言われ、みんなで決めた。
「へー、プリクラってこんな事も出来るんだな、知らなかった。」
「でもこれちょっと古い機種だから、最近のはもっときれいに撮る事だって出来るんだぞ。」
「そうなんだ、久しぶりに遊んだけど、楽しいね。」
波瑠も途中まで恥ずかしそうにしてたと思うが…。
「そういえば波瑠ちゃんと一緒に撮ったことなかったし、暇な休みの時にでも、波瑠ちゃんと一緒に撮りに行こうかなぁ…。」
陽葵はデコレーションをしながらも何か考え事をしているようだったが、ほとんど声が漏れ出ていた。
「陽葵、何声に出して言ってんだ?」
「えっ、考え事声に出てた?いや~、独り言だから気にしないで。アハハ!」
「独り言ねぇ~。」
独り言でも口に出してしまう陽葵だが、聞いてた小波も何か聞きたそうにしていた。
「ねぇ、陽葵ちゃん、その時は私も呼んでよ。」
「あっ、いいね!愛空ちゃんもあんまり撮ったことなかったし、呼ぶ呼ぶ。」
「高本さんもいいよね。」
「うん。私も小波さんと仲良くなりたいから、いいよ。」
「えー、私は今日これだけ一緒に遊んだから、もう仲良しだと思ってるけど、高本さん?」
「言われてみると…、そうだね!」
波瑠は照れ臭そうに微笑んでいたが、一方の小波は本当に友達だと思っていたらしく口を膨らまして両手を組んでいた。
そういえば小波ってさっぱりとした性格してるからな。
そんな二人を見て俺は小波の性格を思い出していたが、『しゅうりょ~う!』と聞こえ、デコレーションが終わっていた。
『プリントしたものが横から出るよ!』
「やっと、終わったか~。」
「兄ちゃん、疲れた感じ醸し出してるね。なんでかなぁ?」
慣れてないことをやった後だから、背伸びしただけで陽葵にからかわれた。
「結構ポーズ取らされて疲れたんだよ。」
「兄ちゃんにゲームで疲れる事ってあるんだ。」
「はいはい、そうですよ。そんな事より、終わったんだから、早く出るぞ。」
これ以上は話すのも面倒なので適当にあしらって、プリクラの外に出ていった。
三人も俺の後についてか、もしくは次の人が並んでいたから出てきて、早速横から出ると言われたプリントシールを確認しに行った。
「これがさっき撮ったのか。ぶふっ、俺やっちまった!」
「拓磨君、なんで半目なの。ふふふ。」
「アハハハ、兄ちゃんだっさー。」
俺もデコレーションに集中してたから分からなかったが、何でこんなになっているんだ。
写真で俺は二人と一緒に笑っている中、小波は下を向いてプリントシールを見ていた。
「小波?どうしたんだ?」
「えっ、あぁ、記念になったなぁ~と思って眺めてたの!あとそれにぃ…。」
楽しそうに話していた小波は急に顔を赤くして口ごもった後、
「いや、やっぱり何でもない。それより早くバス停に行かないと。ほら、行くぞ。」
と言って、プリントシールをポーチにしまって、ゲーセンの出口へと足早に向かっていってしまった。
「あっ、小波さん待って。」
「愛空ちゃ~ん、早くな~い。」
少しは自分のせいで遅れたことを自覚してほしいが、まぁ、よくよく思い返すと俺も焚きつけてしまったのも悪いし、小波もうれしそうにしてるならいっか。
そうして、俺達三人も撮ったやつをしまって小波を追いかけるようにゲーセンを出たが、見えなくなるぐらい早過ぎだからバス停まで行ったと思っていたが、小波はゲーセン前の椅子で待っていた。
「三人とも遅すぎ。」
「なんだよ。早歩きでバス停まで行ったんじゃないのかよ。」
「だって、最後の最後までみんなと一緒にしゃべりたかったから…。」
だったら、走らなくてもよかったじゃん。
波瑠なんか急だから息切らしてるぞ。
波瑠の様子を見て小波も慌てて謝りながら、波瑠もようやく落ち着いた後、俺達は小波をバス停まで見送る事となった。
「いや~、それにしても今日は波瑠ちゃんの服とか日用品を買いに来たら、まさか愛空ちゃんに会うなんてねぇ。」
「私も買いたいものがあったのに須原達に会ったから、ゲーセンだけになっちゃったよ。」
「えっ、そうだったの小波さん。ごめんね。こんなことになっちゃって。」
「いやいやいや、遊び半分で言ってるだけだから本気で捉えなくても大丈夫だよ、高本さん。で、それよりさ、最近面白い動画見つけてねぇ~…。」
一階まで下りてきた後、三人とも横並びになって話、俺は後ろにいる形でハブられてしまったが、いつも波瑠と陽葵も家で二人で楽しそうに話しているから気にはならなかった。
そんなに話に夢中になるのはいいが、あんまり前を見てないと人にぶつかるぞ。って言っても、三人共店の方によって歩いてるし、大体みんなも気を付けて歩いてるから大丈夫か?
と、思っていたつかの間、前から歩いていた男が段々左に寄って来て、端にいた波瑠にぶつかり、波瑠は尻もちをついてしまった。
「いてて、す、すみません。話に夢中だったもので本当にすみません。」
「こちらこそ、当たってしまってすまなかった。」
「駄目じゃない高本さん。ちゃんと前見ないと。」
「そうだよ。波瑠ちゃん。」
「いや、お前たち二人も前見ろよ。」
隣にいた小波が波瑠の手を引いて立たせ、男は何度も謝っていた。
謝った後、その男と別れたが、さっきのぶつかったことに俺は違和感を覚えた。
周りに人もそんなにいなく、段々こっちによって来ていたし、急いで走っているならぶつかるかもしれないが、男も走ってはいなかった。
しかも、ちょっと歩いた後に男を見ると、こっちの事をチラチラ見ているように見えるが、なんだかあんまり普通の人には思えなかった。
だが、最近推理ゲームのやったばかりだし、サスペンスアニメの見過ぎかもしれないな、もしかしたら波瑠が怪我してないか気になったのだろう。と俺は自分に納得させ、また三人の誰かがぶつからないか注意しながら歩いた。
それからバス停についたが、バスはもう来ていた。
「やっば、もう来てる。それじゃ、またね。」
「おう、またな。」
「また、明日ね。小波さん。」
「愛空ちゃん。今度は兄ちゃんに勝とうね。」
小波は急いでバスに乗り込んでいたが、まだ後ろの窓側の座席が空いていたらしく座って、陽葵の言葉をちゃんと聞いていたのか俺らに向かってグッドポーズをとり、その後手をひらひらとさせていた。
こっちも手を振ると同時にバスのドアが閉まり、動き始めた。
さて、小波も帰ったのはいいが、まだ母さんからメールも来ないのでまた中に入り、出口付近に椅子がありみんなで座った。
はぁ~、本当に今日は疲れた。
「ねぇ、拓磨君、急に悪いんだけど…。」
「うん?何だ、波瑠。」
波瑠は落ち着かないのか、足を軽くバタつかせながら聞いてきた。
「拓磨君と小波さんっていつから仲が良いの?」
「いつから?小波とは、中学の時から仲良いぞ。」
「そうなんだ。…どうやって仲良くなったの?」
「どうやってって、今もよく行くゲーセンで初めて会って、そこから徐々に仲良くなっただけだぞ。」
「はいは~い、ちょっといいかな?波瑠ちゃん。」
俺の隣からのぞき込むように割って入った陽葵は、顔をにやにやとさせていた。
「なんで、そんな事を聞いてるのかなぁ~?」
「あぁ、確かに何でそんなに聞いてくるんだ?波瑠?」
「えっ?…私も急に聞きたくなった理由は分からないけど、ただ…。」
波瑠はちょっと黙り込んだ後、うつむきながら胸のあたりに手を置いていた。
「さっきのゲームセンターで拓磨君と小波さんが仲良くしてた時から、その、少し胸のあたりがチクチクしてて、何となくモヤモヤもしてたから聞いてみたの…。」
「はぁ?それ、もしかして…。」
なんか隣にいる陽葵が「おぉ、おぉぉ!」っと興奮気味に小声で言ってるが、それよりも俺は、波瑠の顔をジッと見た。
「な、何?拓磨君。」
波瑠は目をつぶっていたが、顔をよく見るとかなり赤くなっている。
さっきは近づいて顔を見ていなかったから分からなかったが、チクチク、モヤモヤ、そして顔が赤い、これでどういう症状なのかようやっと分かった。それは…、
「…、陽葵の言う通り、ゲーム酔いだな。」
「「へ?」」
「胸がズキズキしてモヤモヤっていうのは、気持ち悪くなってる証拠だ。それにゲーセンの時は近くで見てなかったからよく分からなかったが顔が赤い、ってことは頭痛も少しはあるんじゃ無いのか?だから、今日は帰ったらゆっくり休んで早く寝た方が良いぞ。」
「兄ちゃん、それ本当に言ってるの?」
陽葵は溜息をしつつ、「駄目だこりゃ。」とつぶやいていた。
「…なんだか頭痛もしてきたから、そうかも拓磨君。」
「ちょっ、違うから!波瑠ちゃん!真に受けないでぇーーー…!!」
陽葵はこの後、俺と席を交代して「ズキズキとモヤモヤ」は何の事だか説明しようとしていたが、説明しにくそうにし、「とにかく、私もそう言ったけど違うの。」と言って波瑠に言い聞かせていた。
いや、先にゲーム酔いって言ったの陽葵だろう。だったら他に何があるんだ?
分からず首を傾げていたら電話が鳴り、見てみると母さんからのメールだった。
『今どこにいるの?最初に下したところ当たりの駐車場に止めてるから来て。』
「おい二人とも、もう母さん達来てるってよ。場所は最初に下した所らしいから、行く…。」
まだ言い切っていないのにも関わらず、陽葵はカバンを持って早くも立ち上がった。
「早く行かないとね。波瑠ちゃんも、ほら、今日買った荷物もあるし、行こう。」
そう言いつつ、波瑠の手を引っ張って立ち上がらせた後、先に行ってしまった。
先に行くのはいいが、波瑠は疲れてるのかもしれないから走るのだけは止めてやれよ…。ってなんだ、ただ少し小走りしただけか。
物凄く近いので、俺も走って追いつき三人で荷物をとりに行ってから車まで歩いた。
その後は、疲れのせいなのか途中途中の記憶が朧気だが、車に乗って家に帰り、夕飯を食べて風呂に入ったまでの記憶はあるが、その後はベッドに入って仰向けになってちょっとゲームをしようと思っていたのに目の前が暗くなりつつあった。
ん?そういえば、風呂から出て二階に上がる時にリビングで波瑠と母さんがいたが、何してたんだ?
そんなことをふと思いだしたが、眠気がかなり来て、そのまま…。
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