第6話

 フードコートに来て、飲み物を(なぜか小波の提案?で俺のお金を使って)買い、座る場所を見つけて適当に座った後にこれまでのいきさつを三人できちんと小波に説明した。


 そうして、小波は俺の目の前で不満そうな顔をしつつも少しは納得してくれたらしい。


「まぁ、高本さんの理由は、分かったけど。なんで、須原は私に話さなかったの。」


「それなんだが、小波が俺達と同じクラスだと思わなかったし、誘って話す機会をうかがってたけど、学校始まったばっかりだから、なかなか言える機会が無かったというか。」


「それでも早めに言って欲しかった。」


 小波は、左手で頬杖をつきながら俺にジト目を向けてきた。


「そうだぞ。このことに関しては、兄ちゃんが悪いんだぞ。」


「いや元々、お前がべらべらしゃべったからだろうが。」


 確かに今まで小波に言わなかった俺も悪いが、今回は陽葵がすぐに話したからここまで事態が悪化したと俺は思うんだが。


 まだ陽葵に言い返そうとした時。


「陽葵ちゃんのすぐに人に言う事と、た、須原君の変な感じに言ったのどっちも悪いよ。」


 俺の隣で冷たい飲み物を持ちながら、冷たい口調で波瑠は言っていた。


「「ご、ごめんなさい。」」


 俺達は、この一言を言った後黙った。


 そんな俺達を横で見ていた小波だったが、波瑠が話している時に不思議そうにしていた。


「高本さん、さっきから須原のこと呼ぶ時、た、とか拓って言いかけになってるけど、もしかしてなんだけど、須原のこと下の名前で呼んでたりするの?」


「う、うん。家では下の名前で呼んでるけど、学校は色々と面倒ごとになるかもしれないから名字呼びしてるの。ねぇ、拓、す、スハマ君??」


 まだ波瑠も小波のこと慣れてなくてもその事でツッコまれたからって、テンパり過ぎで俺の名前と名字ごっちゃにしないでくれよ。


「あの~高本さん?呼びづらかったら、普通に須原のこと下の名前でも良いんじゃないかな。もう私には、バレてることなんだし。」


「そうだったね。小波さん。」


 俺が言わなくても小波は、しゃべり慣れしてるやつなのでどうにかなった。


「じゃあ、兄ちゃんも波瑠ちゃん呼び解禁だね。」


 陽葵も場が少し和やかになっていたから話し始めたので俺も「ちゃんは着けてないけど、そうだな。」と言いたかった。


 が、小波は今度ワナワナとしだしたのを見て、また陽葵は黙ってしまい、波瑠も話しかけられない感じだったので俺が聞くことにした。


「今度はどうしたんだ。小波?」


「え、須原?須原も高本さんの下の名前で呼んでるの?」


「うん?そうだが。」


「えっ、いつからなの?」


「いつからって…。」


 小波に聞かれて答えようとしたが、思い出そうとしてもいつなのか分からず、つい首をかしげてしまった。


 え~っと、いつからだっけ?かなり前から呼んでるから、覚えてないんだけど。


「拓磨君。四、五回会って遊んだとき当たりじゃないかな?私も大体そうだった気がするし。」


 波瑠はそう言ってくれたが、曖昧なので結局思い出せなかったが、小波にはそういう事にしこう。


「あ~、そうだったか?まぁ、波瑠が言うんだからそうだろう。多分。」


「ふ~ん。そう、なんだ。」


 なんか拗ねている感じに小波は、残ったジュースをストローですすっていた。


「なぁ、小波。いつまで怒ってるんだよ。いい加減に機嫌直してくれよ。」


「別に怒って無いけどぉ。」


 小波はそんな事を言いつつも、怒った口調で返してきた。


「じゃあ、何でまだそんな感じなんだよ。」


「だって…。」


 小波はそう一言言った後、波瑠の事をジッと見ていた。


「どうしたの?小波さん。」


「あ、愛空ちゃん?」


「高本さんって、かわいいし、スタイルも良いし、何より須原と昔から仲良しで同居って…。」


 小波は下を向いたまま、一人でぶつぶつ言って顔を赤くしたりしていた。


 陽葵は何かに気が付いて「あぁ~。」と言っていたが、俺と波瑠はさっぱり分からなかった。


 それよりも絶対に言っておかないといけないことがあるから、二人も黙っていたので小波が一旦落ち着くまで待つことに。


ー数分後ー


 待ってどうにか落ち着いた感じがしたので、俺は話そうとしたが、その前に波瑠が話しかけていた。


「小波さん。落ち着いた?」


「ごめん。一人で考え事しちゃって。」


「そういう時?もあるよ。」


 波瑠は、疑問形になっていたのに対し、小波は「あるよね。」という感じの一息をついていたが、無理やり切り返して波瑠は話し続けた。


「それで、小波さんに言っておきたいことがあるんだけど。」


「え、何、高本さん?」


 波瑠は、小波の方をきちんと向き直し、両手を合わせて、軽く頭を下げて。


「拓磨君の家で同居している事は、クラスメイトの人たちには誰にも言わないでほしいの。お願い。」


 波瑠が正してまで話していたので、小波は少し動揺していたが息を吐いた後、波瑠に向かって言った。


「高本さん、私は誰かが傷つくことはしたくないから、言わないよ。」


「ありがとう!小波さん!!」


 波瑠は、嬉しそうにしていて、小波もさっきの落ち着かせたことで普通に戻ったらしい。


「だけど、この後は少し付き合ってもらうから。特に須原、お前はさっき自分から遊ぼうって言ったから、絶対について来いよ。」


「そういえば、さっき雑貨屋の前でそんなこと言ったな。別にいいぞ。」


 そうして、波瑠の同居の話も終わり、みんなジュースを飲み終えて片付けた後、フードコートを出て、小波が行きたいというところに向かった。


 何となく俺は小波が行こうとしている所が分かったが、小波の後について行くと遠くに微かにゲームセンターが見えた。


 てか、俺も行こうとしてたけど場所が分からなくて、ラッキーでもあったが。


「小波って、中学の時に遊びに行くといったら、大体ゲーセンだったもんな。」


「別にいいでしょ。楽しいし、ここのゲーセンはやりたいゲームもいっぱいあるんだから。」


 小波のこのゲームが一番ってところ、俺もそうだから話しやすくて、中学の頃から仲良くなったんだよな。


「ねぇねぇ、小波さん、よく行くってどれくらいなの?」


「ゲーセン?数えたことが無いから分からないけど、月に三、四回は遊びに行くよ。」


「へぇ~、そんなに行くんだ。」


「あっ、でも、前の年は高校受験があったから、そんなには行ってないよ。」


「それより、みんな早く入ろう。」


 そんな話をしつつも、最後は陽葵に急かされながらゲームセンターに到着し、早速目の前にクレーンゲームの筐体がズラーと並んでいたが、まずは一通りどういうゲームがあるのか(俺が)気になったのでみんなで中を回ることにした。


 しかも、ここのゲームセンター「ガース」は、いろんなところに展開しているゲームセンターだし、クレーンゲーム一帯を抜けて奥の方に行くとやはり、音ゲーやら格ゲーなどいろいろなゲームがある。


 しかも、ここだとかなり年季の入ったレトロゲーなんかも。


「でも、久しぶりにここ来たけど、なんか前よりゲーム減ってるんだけど。」


「えっ?そうなのか。」


「うん、ちょっと前だけど、もう五、六台くらいレトロゲーあったんだよ。ここに。」


 そう言って小波はあったという場所を指差していて、俺もやりたかったが、他にもレトゲーがあるからいいと思った。というか、割り切ることにした。


 そんな中、陽葵があるゲームを見つけた。


「わー、兄ちゃんがいつもやってるゲームみっけ。」


 陽葵がそう言って指をさしていたのは、銃が付いていて、モンスターを倒してストーリーを進めるゲーム機であった。


「うわ~、こんな怖そうなのよくやるね。拓磨君。」


「私も今までここに置いてあって、怖そうだからやって無いけど、須原はこういうのが好きなのか。」


 波瑠と小波に思ったことを言われたが、筐体自体がおどろおどろしいので当たり前な反応である。


「ねぇ、兄ちゃんさ、少しだけやってよ。久しぶりにストーリーとか見たいし。」


「だめだ、このゲーム以外と長くて一時間近くかかるから他のことやれなくなるぞ。」


「そうだぞ、陽葵ちゃん。あと、このゲームをやって人の後ろで見た事あるけど、相当難しくて何回もやられてお金使ってたから、いくら須原がゲームが得意でも無理だと思うぞ。」


 小波、残念だが小さい頃にいろんな所にこのゲームあってやりこんでたから百円で行けるぞ。と言いたい所なのだが、さっきも言ったが時間かかるし、みんなも見てるだけで飽きてくると思うから、(本当はやりたいが)今日だけは止めてほしい。


「そっかぁ、兄ちゃんも久しぶりだから、お金使っちゃうかもしれないし、止めておくか。じゃあ、他に…アレやろうよ!」


 久しぶりだとしても百円しか使わないと思うが…。


 俺は、そう思いつつも諦めてくれた陽葵が今度指を差していたゲームは、四人で出来るアイテム妨害あり、スキルの使いどころで勝敗が決まるハチャメチャレースゲームであった。


「これ、四人で出来るし、前の人が終わったらみんなでやろうよ。」


「いや、私こういうゲームは苦手だから後ろで見てるね。」


「ん?そういえば、高本さんって普段はどういうゲームをやるの?」


「えっ、普段?う~ん、普段は拓磨君や陽葵ちゃんに見してもらってそんなにやらないけど、やるとしたら頭を使うパズル?ゲームの穂が得意かな?」


「そうだよな。いつも家でレースゲームやるとビリだし、ハンドルのコントローラーで操作すると体ごと動くもんな。」


「もう、意地悪なこと言わないでよ。拓磨君。」


 波瑠に後ろから軽くたたかれたが、本当のことで何なら他のゲームでも体が反応しているから見てるこっちは楽しい。


「兄ちゃん、ほんっとうの事でも言っちゃダメだよ。」


「あの、陽葵ちゃん、あなたの方がもっとひどいこと言ってるけど。」


「え、何が?愛空ちゃん。」


「自覚してないの?」


 そんなこんなで前の人が終わり、波瑠は見てるだけと言っていたが陽葵がどうしてもとのことで結局ここにいる全員で遊ぶことになった。


 車を決めて、どのコースにするかも決めた後、レースが始まったが、俺はみんなが楽しめた方がいいから(あとこの前家で、本気でやったら陽葵に半泣きで何回も同じゲームの対戦やらされたから、同じようなことになると思うし)本気を出すのはまずいよなと思ったので手を抜いてレースをした。


 その結果一位は陽葵、二位は小波、三位は波瑠でビリは俺という結果になった。


 また後ろに並んでいる人がいるから、俺達はサッサとどいて近くの空いているベンチへと行ったが、陽葵は不満そうにしていた。


「兄ちゃん、手を抜いてやったでしょ。」


「手を抜いた?そんなことしてないぞ。今日は、たまたま調子が悪かっただけだ。」


 なんで、すぐにわかるんだよ。


「いやいや、さっきだってわざと壁にぶつかってるの見たし。」


 こっちがいやいやだよ。なんでそんなところ見てるんだ。普通見なくない?


「え?でも陽葵ちゃん、家でみんなで遊んでる時の拓磨君って、確かにたまには強くなるけど、大概こういう感じじゃなかったけ?」


 そうだぞ、波瑠。それが一応本物の俺だってことをもっと言ってやれ。


 このまま、うやむやで終わらせるはずだったが、そうもいかず陽葵はまだ引き下がらずに言ってきた。


「波瑠ちゃん。私達と遊んでる時はそうなのかもしれないけど、兄ちゃん一人で遊んでる時は違ってたでしょ。」


「う~ん?言われてみれば、そうかな。」


 何だか、もう一回戦やらされそうな雰囲気になってるんだが、どうにかしないと…。と考えている時、今度は小波が何か言いたそうにしていた。


「なぁ、須原よぉ。手を抜いてやるんじゃねぇよ。」


「小波、いきなりなんだよ!?」


「この前、私と須原と進の三人でゲーセンで遊んだ時、同じゲームで私たち二人だけで対戦したよな。」


「…やったような。やって無いようなぁ。」


「やったよ。まぁ、ごまかそうとしてるんだろうけどなぁ、あの時の勝負は私が負けて悔しかったんだよ。そして、今日また同じゲームで再戦できると思ったのによ。」


 まさか、小波の奴まだそのこと根に持っていたなんて俺は思っていなかったぞ。


 しかも、陽葵はもう俄然やる気満々になってるんだけど。


「愛空ちゃんもやる気だし、もう一回やるよ、兄ちゃん。」


「えぇ、他のやつにしようぜ。」


「「だめ。」」


 なんか陽葵と小波に怒られたんだが、これそんなに本気でやらないといけないものなの。


「あと、波瑠ちゃんもやるよね。」


 そういえば、波瑠のやつさっき無理にやらされてるからもうやる気ないだろうし、そこに便乗して…。


「う~ん、みんながやるなら、私もやろうかな。何となくコツ?も覚えたし、頑張ってみる。」


 波瑠も二人のやる気パワーをあてられたせいなのかやる気になり、仕方なくもう一回戦よることになってしまった。


 結局、家で対戦した時と同じことになるような…。


 そう思いつつも、俺らの後に遊んでいた人達も終わっていたのでまた遊ぶ羽目になり、レースが始まる最後の最後まで二人に「本気出せ。」と言われた。


 その結果、やはり俺が一位になり、二位は小波、三位は陽葵でビリは波瑠となった。


 本気を出してゲームをやったのにも関わらず、なぜかまた二人は不満そうにしていて、一時休息と不満を聞くため、レースゲーム近くの自販機前にあったベンチの方へと行かせて、俺以外の三人を座らせた。


「須原、何であそこで前に出る飛び道具系のアイテム使うんだよ。」


「そうだよ、兄ちゃん。途中までは私達が前に居たのにそのアイテムのせいで二人とも巻き込まれて遅くなったんだよ。」


「それなりに強いアイテム持っていったからな。」


「それに、何で兄ちゃんの車だけ、最後の方物凄く早くなってるのズルくない?」


「車に『最後だけ激そ~く』っていうスキルを付けたからな。」


「拓磨君、それがズルって言うんじゃないの?」


 波瑠にツッコミを入れられてしまったが、小波のやつもいろんなゲームそこそこ強いし、(本気を出すためには。)と思って使っただけなんだが。


「ねぇ、私も疲れちゃったし、こればっかりじゃなくて他のゲームもやろうよ。二人とも。」


「波瑠ちゃん、こういうの苦手だもんね。」


「あ~、高本さんごめんね。こんなことに付き合わせちゃって。」


「ううん、楽しかったし、拓磨君も強いってこと改めて知れたからよかったよ。」


「しょうがない、あんまり納得いかないけど、クレーンゲームで気になるやつあったから、兄ちゃんに取って貰うとするか。だから、今回は負けでいいよ。」


 負けでいいよって、本気出せって言ったのはそっちなんだが。


 だけど、これ以上言うとまた同じゲームやらされそうだし止めておこう。あと、クレーンゲームは俺が取る前提なんですね。


「あっ、ちなみに須原。」


「ん?なんだ。」


「今度は絶対に負けないからな。覚悟しておけよ。」


 そう言いつつ小波は立って次に向かう準備をしていたが、俺と同じぐらい強いはずなのに俺と対戦するとどこか詰めが甘いところがあって初歩的な所で結局負けるのが大概で、俺にほとんど勝ったことがない。


 まぁ、俺も小波のミスする部分が分からないし、今度も遊びに付き合ってくれるならそれでいいか。


「おう、今度も俺が勝ってやるよ。」


「なにを~。」


 小波は、笑いながら軽く睨みを利かせてきたので、俺も笑いながら睨み返しをした。


 そんな遊び半分の睨み合戦をしていたら、波瑠と陽葵がこっちをじーっと見てきた。


「いやぁ~、二人とも仲良しですなぁ。波瑠ちゃ、ん??」


「…本当に、仲が良いね。」


「な、なんだ波瑠。そんなに眉間にしわ寄せて。」


「えっ?私、そんな顔してた。」


 なんか、一瞬だがムスッとしているように見えたが、俺が聞き返したときは普通にしてるし、気のせいか?


「いや、私も須原と同じで、不機嫌そうに見えたけど、まさか…。」


 やっぱり、そう見えたと思った矢先に陽葵が話に入って来た。


「あ!愛空ちゃん、兄ちゃん。たぶん、二回も同じゲームやってゲーム酔い?しちゃってそういう顔になったんじゃない?きっとそうだよ。だから、休ませるためにも早くクレーンゲームやりに行こうよ。」


「いや、それだったらここで休ませた方がいいんじゃないのか、陽葵さんよ。」


「それも、そうだね。兄ちゃん、ははははは。」


 なんか、陽葵のやつ焦って変なこと口走ってるけど、波瑠の事を思ってるからそんな感じになったのだろう。


「確かに、アーケードゲームをあんまりやって無い人が急に二回も同じのをやるとゲーム酔いになるよね。今度また遊ぶ時は私も気を付けるし、高本さんも何かあったら言ってね。」


「う~ん。私は別に何ともなって無いと思うけど。」


 まだ波瑠も、自分の症状を自覚していない感じに首をかしげていたが、ちゃんと休息をとってから、陽葵にクレーンゲームへと速攻に連れられた。


 俺も今度からは、そういうの気にするか。


 で、クレーンゲームコーナーについて、早速陽葵が「これだよ。」といって、熊のぬいぐるみを取ろうとしたが三千円使っても取れなく、とうとう諦めようとした時に波瑠が「ちょっとやらせてみて。」と言ってきたので交代した。


 すると波瑠はあっさりと取ってしまい、そう言えば波瑠は昔っからパズル系のゲームは得意だったのを俺は思い出し、取れるのも納得であった。

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