第5話
陽葵の奴、俺の事を連れていくのはいいんだが、正直どこに向かっているのか、全然分からないんだが。
「おい、陽葵。今から行くところってどんなところなんだよ。」
「兄ちゃん、行ったら着いて来ないかも知れないから、教えな~い。」
どんな所なんだよそれ。陽葵は教えてくれなくても、俺には頼もしい味方の波瑠がいるし、どうにかして聞き出そう。
そうして、エスカレーターに乗った時に陽葵がずっと先頭に居るのを見計い、波瑠を二番目に乗らせて、俺はわざと一番後ろに行き、波瑠に聞き出そうとした。
「なぁ、波瑠。陽葵が言う俺が行きたがらない店って、どういう店なんだ?波瑠なら陽葵から聞いてるから知ってるだろ。教えてくれよ。」
「実は、陽葵ちゃんに拓磨君に聞かれても言わないでって口封じされてるの。だからごめんね、拓磨君。」
波瑠、お前まで教えてくれないのかよ。それにしてもマジでどこ?逆に何も知らないと行きたくないんだけど。
そうこうしているうちにエスカレーターも二階に着き、陽葵はまた歩き出したので、もう何も聞かずについて行くしかなく、行ったら来ないと聞かされていても俺が入れそうな所(服屋とかコスメショップ以外)だと信じて陽葵について行き、ようやく到着したらしく陽葵は歩くのを止めた。
「ここだよ。兄ちゃん。」
そこは、雑貨屋なんだが…。確かに俺は普段はあまり興味が無くみるものも無いと思うので、陽葵も何で俺をここに連れてきたのか謎だった。
「陽葵。何でここに俺を連れてきたんだ?」
「兄ちゃん。お昼ご飯食べる前に本屋に行ってたけど、こういうところ来るといつも同じような場所に行くから、たまには雑貨屋とか見た方がいいと思って連れてきたんだよ。」
親切心で来させたのは分かったが、別に俺がどこ行ってもよくないか。
それに、もうなんか陽葵について行ったのが間違えだったので、一声かけて俺も自分の行きたい所に行こう。
「俺、別に行きたい所があるから、それじゃ。」
「兄ちゃんが行きたい所って、本屋かスポーツ店かゲームセンターしかないじゃない。」
「うぐ、そうだけど。」
また止められたが、確かに陽葵が言っていること全部図星で、今からスポーツ店に行って新しいランニングシューズの品定めでもした後、ゲーセン行こうかなと思っていた。
「拓磨君、陽葵ちゃんも言ってるし、一緒に行こうよ。それに、拓磨君がやってるゲームのグッズもあるって陽葵ちゃんが前に行ってたよ。」
「何!?その話、本当なのか!陽葵!!」
いろんなゲームをやっていても、その手のグッズはあまり持っていなく、ネットで探すのもいいのだがやっぱり現物で見てみたいものもあり、不覚にもどういう物なのがあるのか気になってしまった。
「あれ?えっと、あっ、そうだよ。確かにあった気がするけど、兄ちゃんが入るならどこにあったのか教えてもいいよ。」
「じゃあ…。五、六分だけなら…。」
「決まり。私がまた先頭で歩くからついてきてね。特に兄ちゃんは。」
「え、何が?」
「拓磨君。本当に見たいのならちゃんとついてきた方がいいよ。はぐれるかもしれないし。」
何で二人は俺がはぐれる前提で話しているのか、正直分からなかったが、陽葵たちは早速中に入ったので俺も後について行った。
雑貨屋の中は、キャラクターのぬいぐるみやコップ、世界のお菓子や変な商品などいろんなものが売っていて、最初は人で込み合っているからはぐれるものばかりだと思っていたが、本当は物が多すぎてかなりゴチャついているからはぐれるというのを店に入って初めて分かった。
また、途中途中の道幅が狭く人が前から来たら通すか先に行くかをしないといけない所もあり、陽葵達は慣れているのかササッと行けていたが、俺はほとんどの人を通していたら結局二人とははぐれてしまった。
店の中にいるはずなので探してみたものの全然二人を見つけることが出来ず、しかも同じところをぐるぐる歩いている感覚もあり、俺は無理だと判断してゲームグッズを諦めて店を出ることに。
しかも、出るのも一苦労だし。
ようやっと出た頃には、時間を見ると十分以上経っていて、二人が釘をさす理由は分かったが、ここは初心者にはきついので、陽葵にメールでも打って俺はここを離れることにした。
そうして、俺はズボンの右ポケットからスマホを取り出し、人の邪魔にならない脇の方で、
『俺は、無理だったから、違うところに行くな。後で合流するときにメールするから。』
と打ち、行こうとしたが俺が行きたい所はどこにあるのか分からないからまずは、ショッピングモールの地図を探すことにした。
ここに来る途中にあったはずなので、戻るかと考えながら歩き始める。
だが、後ろから誰かに声を掛けられるような気がし、陽葵達も出てきたのか?と思い、後ろを振り返ってみた。
「須原?だよね。」
「うん?誰だ。」
明らかに二人とは違く一瞬戸惑ったが、
「…って、小波じゃねえか。」
見知ったやつだった。
しかも小波なのはいいが、いつもの制服姿ではなく私服姿でしかも、ズボンを穿いていて帽子もかぶっているから余計に分かりづらかったが中学の休日に会った時はいつもこうだったのを忘れていた。
そうして、小波は俺を見るなり、ホッとしたような息を出していた。
「よかったー。雑貨屋の前でスマホいじってるの須原に見えたから声を掛けようとしたんだけど、人違いってたまにあるじゃん。それだったら嫌だと思って一旦は止めて素通りしたけど、どうしても似てるから一か八かで声かけたんだー。ほんと合ってって良かった。」
小波は、あって早々に早口に話していたが、俺もそれは共感できた。
「あぁー、それ分かるわー。間違って同じ人に声かけたら微妙な空気になるもんな。」
「そう、それ。アハハハ!」
俺達は、そんなことを言いながらも笑って…。うん?
「それでさぁ、私前に…。」
小波は続けて話してるが、ん、あれ?
まずくね?
小波がここにいるってことは、波瑠と鉢合わせになるってことじゃ。
いやいやいや、ここで鉢合わせって、波瑠だけ出てくるならまだしも、陽葵と一緒に出てきてはまずいような。
しかも陽葵の事だから友達ってことだけではなく、同居ってことも言いそうな。
でも、俺以外はやらないって言ってたし…、あー、ここで考えていたらなんかヤバいような気がしてきたし、とりあえずどこかに小波を行かせよう。
「…そういえば、なんでこの雑貨屋の前でスマホいじってたの?須原。」
「うん?俺か?あ~、実は陽葵と一緒にこのモールに来て、陽葵がここに入りたいって言って俺も無理やり入らされたんだが、はぐれちゃってな、今は俺だけ出てきたんだよ。」
「へぇー、須原兄妹はいつも仲良い…、って、何やってんの須原!陽葵ちゃんを雑貨屋の中で一人にさせて!」
素直にはぐれたと言ったら小波に怒られたが、もう少しはぐれた説明をしないとな。
「この店の構造がちょっと特殊過ぎて、迷ったらはぐれたんだよ。だから、俺がさせたくて陽葵一人にさせたわけではない。」
「なんか誇ったように言ってるけど、ここ普通に迷わないと思うけど。」
おかしいんじゃないの。という感じに小波は話すが、小波や陽葵達は何回もここに来るから迷わないんじゃないか。
「それよりも、一人なら私が見に行ってくるよ。久しぶりに会いたかったし。」
「いや、だ、大丈夫だと思うぞ。後で合流しようってメールしたところだし。」
「そう?でも、メール見てないで須原を探してたらどうするの?」
確かに波瑠と一緒だから俺のメールなんて無視して、楽しんでそうだが。
あ~もう、それでも止めて、入らないでくれ。そんな言葉が喉まで出てきそうになったが、どうにか耐えられた。
早く別の方法を考えないとまずい。…そういえば!
「じゃ、私が探してくるね。」
「小波、待て。」
「ふぇ、な、なに?」
思わず小波の手を掴んで止めてしまったが、やっと良い案を思い付いた。
「え~と、小波とここであったのも何かの縁だろうし。だから、久しぶりに遊ばないか?」
「えっ、須原と…。」
小波は何故か先程までの勢いのある声じゃなかった。
「なんだ小波?急に黙り出して。」
「え?いや、別に何でもないし…」
それによく見ると、
「お前、顔が赤いぞ。」
「はぁ!そんなに赤くなってるの!!」
小波はもう片方の手で自分の顔を咄嗟に隠した。
急に黙ったり、うるさくしたりとこいつは何がしたいんだかわからんし、それに顔を赤くして、手まで熱く…って、そういうことか。
「あぁ~、なるほどな。」
「わ、分かったの⁉」
「いや~、分かるぞ。だって、」
小波は何かに身構えていたが、普通の事だし、俺も感じていることだから変な事じゃないから身構える意味ないと思うが、まっいいか話そう。
「ここ暑いもんな。」
「…へ?」
「実は、さっきから俺も少し暑いなと思ってたから、早くここを離れたかったんだよね。そりゃ、小波も言いづらくて少し黙って、気を反らすように騒がしくしたんだろう。だから、早く行こう、…って、何顔を下にうつむかせてるんだ?」
「…バカ。」
小声で何か言っているようだったが、周りがガヤガヤしている所なので、小波が何を言っているのか全然聞こえなかった。
「何て言ったんだ?」
「…何でもないよ。それより手を離して、須原。」
そう言って、俺も手を話したが、なんか機嫌が悪いような。
「まぁ、確かに須原の言う通りここで会うのも何かの縁かもしれないし、陽葵ちゃんは可哀そうだけど後で何か奢るついでに会うことにして、遊ぶか。」
小声で言ったことも気になったが、まだ小波が陽葵一人で中に居ると思っているうちに早くここを離れないといけなかったので、気にしないでおこう。
あと、陽葵にはメールでこの事を言っておかないとな。
「よし、それじゃ、行くかって言いたいが、実は俺が行きたい所があるんだが、その場所が分からないからまず地図探していいか?」
「なんでよ。」
そうして、やっとここから離れられるかと思っていたが、そうも簡単にはいかなかった。
「あっ!愛空ちゃんじゃん。久しぶり!」
急に店の方から声が聞こえて、誰なのか確認してみると陽葵だった。
うげ、何でこんなタイミングで出てくるんだ。
「陽葵ちゃん、久しぶり!!丁度さっき違うところに行こうとしてた所なんだよ。会えて、良かった~。」
「そんなに、元気な私に会いたかったの?愛空ちゃん。」
何言ってんだよ。いつも元気だろうが。
そういうツッコミをしたかったが、それよりもまだ波瑠の姿が見当たらないので、今ならまだ間に…。
「もう陽葵ちゃん、私を置いて行かないでよ。って、あれ?その子。」
「うん?誰??…でも確か、同じクラスにいたような。」
何でいつも俺が考えていることが、ことごとく駄目になるんだぁ~。
小波には、後でゆっくり話せば、進と同じで納得してくれるはずだと思うのに~。
だぁぁぁぁ…。しょうがない、ここは一旦ごまかすしかない。
そうして、店から出てきて困惑している波瑠と同じく誰なのか分からず困惑している小波の間に入って、俺はごまかし始めた。
「なんだ。高本、お前もいたのかよ。」
「うん?高本?」
「そうなんだよ。小波。こいつは高本波瑠ってやつで、かなり前から俺と陽葵の友人でもあるんだ。しかも、小波の言う通りで同じクラスなんだよ。な、高本。」
「そ、そうだよ。よろしく、えぇっと。」
「……私、小波愛空。よろしく。」
「う、うん、よろしくね。小波さん。」
なんか俺が、かなり前からの友人って言ったあたりから小波がムッとしていたような気がするが、それでも波瑠と普通に挨拶交わしているようだし、俺の思い違いだろう。
まぁ、何はともあれ、これでどうにかなったはず、あとは小波と俺で一緒に行動すれば俺が懸念したことにならずに…。
「あと愛空ちゃん、なんと波瑠ちゃんは私たちの家で今絶賛同居中なんだよ!」
「「なっ⁉」」
「えっ、どういう事…?」
陽葵は、前に俺以外の事はしゃべらないと言っていたのになぜか波瑠の同居ことをバラし、俺らがいる所だけ空気が変わり、小波は立ったまま固まっていた。
「陽葵のバカ!なんで言っちゃうんだよ!!」
「陽葵ちゃん、同居の事は簡単に人に言っては欲しくなかったんだよ。」
波瑠も額に手を当てながら話していたが陽葵も波瑠の様子を見て、ようやっと事の重大さに気づいたらしい。
「そうだったの。仲のいい友達だし、早く知らせたくなっちゃって、なんかごめんね。」
陽葵はシュンとなっていたが、これに懲りてべらべらとしゃべる癖を直してほしい。
それよりも、小波の方を見るとまだ固まった状態であった為、手振りをしながら試しに声を掛けてみた。
「お、お~い、小波。大丈夫かぁー。」
「だ、大丈夫だよ。ただ、陽葵ちゃんが変なことを言ったように聞こえたんだけど、同居?って嘘だよね。ははっ。」
「ソ、ソレハダナー…。」
小波は乾いた笑いをしながら俺を見てきたが、そのうち小波にも話す予定だったから今話して楽になった方が良いと思い、ついでに陽葵と同じ軽い感じにサラッと言った方が怒らないような気がしたのでサラッと流す感じに言う。
「実を言うと本当なんだよね!いや~でも、他の子が同居に来ても案外毎日普通だぞ!!」
サラッと流したつもりなんだが、小波は物凄い剣幕で俺を睨んでいた。
「その話ぃ、もう少しぃ、詳しくぅ、聞かせなさい!!」
「なんで、拓、須原君も言っちゃうの、しかも普通に逆効果だし。」
波瑠は兄妹揃ってと言いたげな溜息をついていたが、もうここまで来たのならいっそのこと話した方が気が楽になるだろうと言うつもりだった。
だが、状況も良く無くて言える雰囲気ではなかったのでその言葉を俺は言うのを止めた。
気まずい雰囲気の中、どうにか小波に説明するしかなかったが、場所もここでは人の邪魔になると思っていた矢先に波瑠も同じことを考えていたらしく。
「あの~、ここで立ち話するのも他のお客さんに迷惑になると思うし、話すと長くなるから移動したほうがいいと思うんだけど…。」
「だったら、フードコート。」
波瑠の移動の提案と小波のキレ気味のフードコートに行くという提案が一致し、俺達は黙って移動した。
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