悲しみの裁判

ユダの裏切りにより、イエスは捕らえられた。かれはまず、大祭司アンナスのもとに連行された。アンナスはイエスを尋問したが、イエスがローマへの反逆を企てているという証拠は見つからなかった。


「この男は危険だ。民衆を扇動し、暴動を起こすかもしれん。」


「しかし、具体的な証拠はありません。このままローマに引き渡すわけにはいきませんよ。」


アンナスはイエスを義父である大祭司カヤパのもとに送った。カヤパは、陰謀の中心人物だった。


「あなたが神の子、メシアだと主張しているのは本当か?」


カヤパが尋ねた。イエスが沈黙すると、傍らの兵士がイエスを平手打ちした。


「大祭司に答えなくてよいのか!」


イエスが静かに口を開いた。


「もし私がそう言ったとしても、あなた方は信じないだろう。もし私が尋ねても、あなた方は答えないだろう。」


カヤパはイエスをにらみつけ、立ち上がった。


「この男は民衆を惑わし、暴動を起こそうとしている。死刑に値する!」


カヤパはそう宣言すると、イエスに唾を吐きかけた。他の祭司たちもそれに続いた。イエスが平手打ちされ、嘲笑される中、一人の男が部屋に入ってきた。


「待ってください!」


男は息を切らしていた。かれはペテロと呼ばれるイエスの弟子だった。


「あなたもイエスの弟子か?」


カヤパが問いただした。ペテロは恐れおののき、首を横に振った。


「私はイエスなど知らぬ。」


ペテロが三度否定した時、遠くから雄鶏の鳴き声が聞こえた。その瞬間、イエスの悲しみに満ちた瞳が、ペテロと合った。ペテロは自分のしたことに気づき、涙を流しながら逃げ去った。

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