迫りくる陰謀の影
ユダヤ教の指導者たちは、密かに集まりを重ねていた。彼らの集まる部屋は、蝋燭の灯りで薄暗く、空気は重々しかった。
「あの男をこのままにしておけば、ローマの支配にも影響が出るだろう。」
「あいにく、我々には死刑を執行する権限がない。ローマに引き渡すしかないだろう。」
「民衆の支持を得ているあの男を捕らえるのは容易ではない。慎重に事を進めねばならん。」
陰謀の中心にいたのは、大祭司カヤパとその義父アンナスだった。かれらはローマの支配を背景に、ユダヤ社会で強い権力を持っていた。
「イエスを捕らえる口実が必要だ。民衆が反発しないような、正当な理由をでっち上げねば。」
「あの男は奇跡を起こしたと言っている。もしかしたら、神殿でも何かをするつもりかもしれん。」
「そうだ。神殿での商いを批判していたことを利用するのだ。神殿を荒らすつもりだと訴えれば、ローマも動くだろう。」
陰謀は静かに、しかし着実に形を成し始めていた。一方のイエスも、かれらの企みを知っていた。それでも、イエスが歩みを止めることはなかった。
「父よ、この杯を通り過ぎさせてください。しかし、私の願いではなく、御心が行われますように。」
イエスが祈りを捧げていたのは、ゲツセマネと呼ばれるオリーブ畑だった。かれは汗に濡れた顔を上げ、夜空を見つめた。星が瞬き、満月が優しい光を注いでいた。
「ユダ。」
イエスが声をかけると、一人の男が近づいてきた。かれはイエスを裏切ろうとしていた弟子、イスカリオテのユダだった。
「師よ。」
ユダは汗びっしょりで、顔色は青白かった。かれはイエスを見つめることができず、足元をじっと見つめていた。
「あなたがすることにしなさい。」
イエスが静かに言うと、ユダは踵を返し、闇の中へと消えていった。
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