第35話 四天王との戦いです。
俺の目の前にいるのは、自ら「魔王様に仕える四天王の一人」を名乗る魔族だった。しかも顔や声からして、多分女性。長い髪の毛は緑色でいかにも風属性――だって自分で風の……って名乗ってたし――で、背中には真っ黒い翼を生やしている。
体も全身真っ黒で、大事なところだけは布でちゃんと隠している。胸も隠しているところを見ると、やっぱり女性なんだろう。
やばい。敵とはいえ女性。
ドキドキしてきた。
「さあ、殺されたくなかったら、大人しく獣人族の血を……!」
ブオッ!
言葉を遮るようにして、シェイ・プアップの足元から炎の柱が勢いよく立ち昇った。彼女はそれを間一髪で交わすと、空中に逃げた。突然のことにびっくりして隣を見ると、シュワルツさんが怒った顔で杖を空に向けていた。
どうやら、シュワルツさんがシェイ・プアップに向けて魔法を放ったようだった。
「くそっ、逃げ足だけは早い奴め」
怒っている。そりゃそうだろう。長年研究してきた魔法を発動している最中に妨害されてしまったんだ。
「おい、マッチョな青年」
シュワルツさんが俺に言う。
「そこの崩れた石をあいつに向かって投げろ」
へ? この足元にある石?
さっき、シェイ・プアップの奇襲を受けて俺たちが今いる場所――お城の最上階は半分が崩れている。確かに石はあるけど……投げる? そんなの効く?
そもそも、あんな空中にいる相手に届くわけないじゃん?
「早くするんだ!」
シュワルツさんに急かされて、俺は足元の石を一つ掴み、空中に浮いているシェイ・プアップに向けて投げた。
ビュン!
俺は、俺が職業「マッチョ」スキル「イケメン」であることを忘れていた。そう、俺は最強の戦士、マッチョ=ニーナ=リタ=E。
俺の投げた石は自分でも信じられない速さで飛んでいく。
それは相手にとっても同じだったようだ。まさか下から石で攻撃してくるとは、しかも届くとは思っていなかったらしい。
「!?」
石はシェイ・プアップの右頬をかすめて、空に消えて行った。
「よし、いいぞマッチョな青年! どんどん投げろ。それに私が魔法を付与する」
シュワルツさんが持っている杖に魔力を込める。
俺が再び石を持つと、その石に杖から魔力が流れ込んできてだんだんと赤くなってきた。
「ほれ、早く投げろ。さすがのマッチョでも火傷するぞ」
本当だ! 熱っ!
ビュン!
急に熱くなったので、さっきよりも早く空へと投げ飛ばした。
「同じ手を二度もくらうか!」
シェイ・プアップは翼を羽ばたかせ、赤く燃える石を避けようとする。
だよね、石は直線軌道でしか向かってこないから、ちょっと左右によければ当たることはない。
でもそれは、石の速度についてこれればの話。
俺の投げた石は、シェイ・プアップの反応速度を遥かに上回り、彼女の右の翼の中心を突き破った。
「なんだと!」
バランスを失い、ゆっくりと落ちてくるシェイ・プアップ。そこにシュワルツさんが容赦ない一言を浴びせる。
「まだだ、もう石を三、四個まとめて投げるんだ」
「だけど、もう翼を失って落ちてきて……」
「相手は魔族だぞ! あんな攻撃で終わると思うな!」
シュワルツさんの口調が強い。そして初めて見る真剣は表情。そうだ、相手は魔王直属の四天王。油断なんて見せると、こっちがやられてしまうんだ。
ものすごい緊張感が伝わってきた。俺も一回唾を飲み込んで、うなずく。そして、足元の石を数個つかんで、連続で空に向かって投げた。
ビュン! ビュン! ビュン!
空中を切り裂きながら、石が赤く染まる。そして、真っ直ぐではなくカーブを描きながらシェイプアップの左の翼、胸の中心、さらに顔面へと直撃した。
「?」
俺はただ投げただけなんだけど? と不思議に思っていると、シュワルツさんがニヤリと笑って言った。
「自動追尾の魔法もおまけにつけてやった。こんなにうまくいくとは思わなかったけどね」
両翼と心臓と顔を潰されて、自称魔王様に仕える四天王の一人「風のシェイ・プアップ」は地面に落ちる前に、黒い霧になって消滅した。
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