第34話 魔法ってすごい。
魔法の煙幕っていうのは、キィンニィ王国全体を魔法の霧で包み、ただの森に見えるようにするというものらしい。
簡単にいうと、クーの能力「変身」を国レベルで行うってこと。それをだいぶ前からシュワルツさんは依頼を受けていて、長い間開発していたそう。最後の仕上げとしてクーの血を一滴もらうことで完成したんだって。
なんかすごいな、シュワルツさん。
やってることのスケールが違いすぎる。
「じゃ、いくぞ」
シュワルツさんは床に描いた魔法陣に両手を向けて呪文の詠唱を始める。すると、そこから薄い霧のようなものが発生して、ゆっくりと国中に広がっていく。
「よし、これでオッケー。一時間もすれば、霧が国中を覆い尽くして完了だ」
シュワルツさんがパンパンと手をはたく。どうやらこれで終了のようだ。
しかも国が森に見えるだけではなく、そこに住む人々が動物の姿に見えるという。
なんだけど、ここに住む獣人族と術師のシュワルツさん、ついでに立ち会った俺には、これまでと変わらず本来の姿のままに映るんだそうな。
つまり、キィンニィ王国に住む人たちはこれまでと全く変わらない生活ができて、外部からはただの森とそこに住んでいる動物にしか見えないってことだ。
シュワルツさんが補足する。
「もちろん本当に動物になるってわけじゃなくて、この国の中ではそう見えるってのが正しい表現だな。効き目はキィンニィ王国内に限るから、そこだけは気をつけてくれよ」
「素晴らしいですわ、シュワルツ様。これでこの国も魔王の侵攻を防げるというものです」
女王様もうれしそうだった。
だよな。獣人族の血を狙いに魔王がやってくる。だけど、ここにきても獣人族の国はなく、ただ森が広がっている……ように見えるのか。
魔法って……すごいな。
俺は武器と防具と魔法を放棄して、この筋肉を手に入れたけど……こんなすごい魔法を見せられたら、俺もちょっとでいいから魔法を使いたくなってきたぞ。
今度女神様にあったときにお願いしてみようかな。
っていうか、クーにお願いされてキィンニィ王国を救うためにやってきたんだけど、シュワルツさんも別ルートで依頼を受けていて、その魔法が完成した。となると、俺はお役御免だな。
と思った矢先だった。
「!?」
きらっと空中で何かが光った。
「危ない!」
俺はとっさにシュワルツさんとクーと女王様に飛びついた。
「きゃっ!」
ドゴオオオオン!
間一髪、俺たちは少し離れた場所に倒れ込んだ。
「いたたたた……何をするんですか、ニーナ様!」
「クー、すぐに女王様を連れて逃げるんだ」
なんと、遠くから何者かに攻撃されてしまい、つい今まで俺たちがいた場所は大きく
「わ……わかりました! ニーナ様もシュワルツ様もお気をつけて!」
クーもその様子を見ると、かなりヤバイことが起きたと理解できたようで、女王様を連れてすぐに階下へと降りていった。私も戦うとか言い出さなくてよかった。
「向こうだ!」
シュワルツさんが指差した先には、空中に浮遊している何かがいた。
黒い大きな翼と、赤く輝く目が、遠目からでもはっきりとわかった。明らかに敵だっていう雰囲気を醸し出している。
「ありゃあ、魔族だ。魔王の手下……だろうな」
魔族。初めて見る種族だ。すると、その魔族は一瞬にして俺たちの目の前にやってきた。
――瞬間移動? 疾すぎるんだけど!
「私は魔王様に使える四天王の一人、風のシェイ・プアップ! 魔王様の命令で、獣人族の血をいただきにきた!」
魔王じゃなくて、四天王。
マジですか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます