第33話 キィンニィ王国です。

 目を覚ますと、天井がびっくりするくらい高くて白かった。

 え? 天国?


 目線を横に向けると、綺麗な装飾が施された壁に囲まれていた。

 え? ここはどこ?


「あっ、ニーナ様! 目が覚めましたか! 体調はいかがですか?」


 クーの声がして起き上がる。


 クーはひらひらのたくさん入ったピンク色のドレスを着ていた。いかにも「お姫様」といった格好だった。


「クー、その姿は……」

「一応、この国のお姫様ですから。これが正装ってやつです……似合ってますか?」


 なんか可愛らしいポーズをとるクーを見て、初めて会ったときと印象がだいぶん違うことに驚いた。


「ああ、似合ってるよ。山賊になって襲いかかってきたのが嘘みたいだ」

「もう! やめてください!」


 クーは顔を赤くしながらも、バンバンと俺の胸を叩く。ちょっと力強いんですけど……。って、そんな場合じゃなくて。


「で、ここはどこだ?」


「キィンニィ王国のお城です。ニーナ様が眠っている間に、シュワルツ様がいろいろと魔法を使って、あっという間に戻ってくることができたんです」


 シュワルツさんの話を始めると、クーは目をハートにし出した。そっか、クーの様子を見る限りじゃ、獣人族の血のことについては解決したんだろうな、多分。だから、わざわざ聞くまでもないだろう。


 それに、国王は人々を救うために魔力を使い、現在は倒れたままだと聞いている。そんな状況でもクーは明るく振る舞っている。無理にでもそうしないと、心が潰れてしまうのかもしれない。

 まだ18歳だと言っていたが、なかなかどうして、しっかりしているじゃないか。


 ところで。


「シュワルツさんはどこにいったんだ? 姿が見えないけど」

「ああ、シュワルツ様ならお城の最上階で魔法の準備をされています。すごいんですよ、シュワルツさん! この国全体に魔法の煙幕を貼るんですって!」


 魔法の煙幕? なんだそりゃ。


「知ってました? ニーナ様。魔法の煙幕のこと」

「いや……初めて聞くな……。それは一体……?」


 せっかくだから魔法が発動する様子を見ようと、俺とクーは部屋を出て、お城の最上階へと向かう。


 途中、ケモミミの兵士たちとすれ違うと、みんなクーに敬礼をする。ああ、本当にこの子はお姫様だったんだなと改めて思った。そして、そんなお姫様と一緒に行動する俺が――タンクトップに短パンというただのマッチョ姿が――怪しまれなくて良かったと思った。


 長い通路を歩き、階段を上り、大広間を抜け……階段を登ると、お城の最上階についた。


 そこからはキィンニィ王国が一望できた。お城を中心とした城下町が広がり、街を囲むように高い城壁が築かれている。どこか活気がなく人の姿がほとんど見えないのは、ヴァルク山地に吹き荒れる大雪と魔王が侵攻してくるからなのだろう。


 最上階には相変わらず薄い布切れ一枚で座りながら作業をしているシュワルツさんと、ケモミミの生えた立って女性が一人立っていた。


 ……多分だけど、女王様? だよな。顔つきもなんだかクーに似ているし。


「お母様! ニーナ様が目を覚まされましたので、連れてまいりました」

「おお、あなたが伝説の戦士、マッチョ・ニーナぷっ・リタ・Eですね。あら、めちゃくちゃイケメンじゃないですか……失礼しました。この国を救うために来てくれたのですね、ありがとうございます」


 ――笑った。絶対、王女様、俺の名前で笑った。まあいいんだけど。笑わないほうがおかしいからね。


 と思いつつも、俺はしっかり片膝をついて挨拶をする。ふふふ、イケメンは行動もイケメンでないといけないのさ。


 王女様の言葉に、シュワルツさんも俺の存在に気づいたようだ。声をかけてくれた。


「おお、マッチョな青年ニーナ・リタ。もうすっかり体の調子はいいだろう? 私の魔法がしっかり効いているはずだからな!」


 あ、やっぱり。なんだかいつもよりも体が軽いと思っていたんだ。シュワルツさんの回復魔法のおかげか……。ありがたい。

 なんだかんだ言いながら、この人、やっぱりいい人だな。

 うーん、この間は断られてしまったけど、やっぱり仲間に入ってもらいたいなぁ。


 シュワルツさんは座り込んで、床に魔法陣を書いて何やら儀式を行う準備をしていた。それが、クーの言う「魔法の煙幕」なのかな?


「よーし、これでひとまず準備完了だ! あとは発動させるだけ。女王様、いいかい?」


 シュワルツさんが立ち上がった。

 なんだかこれからすごいことが起きる予感がする。

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