第32話 杞憂に終わりました。
「シュワルツ様も……血を欲するのですね……どうしてそこまでして魔力を高めたいのですか?」
クーが声を震わせる。ついでに俺の肩を掴む力も強くなる。ついさっきまで目をハートにしていたのが嘘のようだ。
「……シュワルツさん……もしかして最初から血が目的で……」
まだ。まだ俺は立って戦えるほど回復していない。頭がガンガンする。
――やばいそ。もしかして魔法か何かをかけられたのか?
「……」
シュワルツさんはにやっと笑ったままこちらを見ている。表情からは何も読めない。能力「
そして、彼女がゆっくりと口を開く。
「君たちは何か大きな勘違いをしているぞ」
「え?」
「へ?」
俺とクーの変な声が同時に出た。
シュワルツさんが続ける。
「とりあえず、ニーナ・リタは寝なさい。君は吹雪の中で気絶していたんだ。死の縁を彷徨うくらい体温が下がった状態だったんだぞ。ゆっくり体を温めるといい」
次に彼女はクーを見た。
「獣人族の血で魔力が劇的に上がる……なんて噂が広まって、いろいろとひどいことになっているらしいが、ありゃあ嘘だ」
「え、でも……」
「確かに少しは上がるぞ。でも劇的に、じゃない。しかも相当な量の血を飲むか、注射か何かで直接摂取しないといけない。でもそんなことしてみろ。体が拒絶反応を起こして死ぬ。どっかの誰かが金儲けのために話を誇張しまくったんだろう」
「そんな……そのせいで私たちの国は……」
「だから」
シュワルツさんが優しくクーの頭を撫でる。さっきまでの異様な雰囲気は俺の勘違いだったんだろう。彼女の言葉と行動に裏があるようには思えなかった。
「私が依頼を受けたんだよ。国を守る魔法を作ってくれってな。純粋な獣人族の血を一滴加えるだけで、魔法は完成するんだ」
な……なんだ。そういうことだったのか……俺は安心した。が、一つだけ謎が残る。
「俺たちが……ここに来なかったら……血はどうしていたんですか?」
シュワルツさんは俺を無理やり寝かせて、額に手をかざした。
「だからぁ、私はこのあとキィンニィ王国に用事があると言っただろうが。お姫様に合わなけりゃ、王様にでも血を分けてもらうつもりだったさ。一緒に連れていってやるから、それまでゆっくり寝ておくといい。次に目を覚ますときには、体も完全回復するように魔法をかけておいてやる」
シュワルツさんの手がじわぁっと暖かくなる。それが心地良くて、そしていい匂いがして……俺は目を閉じた。
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