第31話 見返りは相当なものです。
「えっ……」
ルーベからの紹介状を持っていたからか、俺は、シュワルツさんが快く仲間になってくれるだろうと勝手に思っていた。
「まあ、ルーベからの紹介状もあるから、一応キィンニィ王国へは同行してあげよう。私もそこに用事があるんだ」
シュワルツさんはそう言うと、立ち上がった。――もちろん、魔法が効いているんだろう、大事なところは一切見えないんだぜ……。
「出発は明日の朝でいいかな? ニーナ・リタもまだ体調が万全ではないだろう? 体を十分に温めるといい。魔法も少しずつ効いてくるはずだから」
シュワルツさん、やっぱり蘇生魔法なんて使ってないじゃないか……。
と思ったら、今度はクーの肩に手を回して、ぐっと耳元に口を近づけてささやく。っていうか、普通に聞こえるんだけど。
「なあクーちゃん。いや、お姫様。さっきの約束、覚えているよね? なんでも言うことを一つ聞くって」
「はい……シュワルツ様のおっしゃることなら……私……なんでも致しますわ……」
クーがポッと顔を赤らめながら、両手で頬を抑える。しかも、目の中にハートが浮かんでいるではないか。
「じゃあ、ちょっとあっちの部屋に行こうか……ふふふ」
「えぇ、何をされるんですか? ドキドキします」
えっ? 言うことを一つ聞くって……シュワルツさんとクーがふたりっきりでイチャイチャするってこと……? え、そんなの……ありなの?
「こーら、何を勘違いしておるか」
シュワルツさんが俺に向かっていった。はっと俺は我に帰るが、二人が見つめる目がなんだか冷たかった。
「ニーナ・リタ。まさかなんでも言うことを聞くっていうので、いやらしい想像をしたんじゃないだろうね?」
「えー、ニーナ様、私までそんないやらしい目で……はっ! やっぱりあのときだって……わざと胸を……!」
「違う! 違うんだ、クー! 誤解だ!」
なんかここにきてからこんなことしか言っていない気がするぞ。
「なになに? このイケメンマッチョな青年が一国のお姫様に手を出したって?」
やばい! シュワルツさんが食いついてきた。なんなんだ、この人は! 大魔法使いっているか、ただの変なセクシーお姉さんにしか思えなくなってきたぞ!
「はっはっは! 冗談だよ、冗談。ニーナ・リタはそんなことをするような男じゃないよ。見ればわかる」
シュワルツさんは優しくクーの頭を撫でる。冗談だよと笑い飛ばすが、こっちにしてみりゃ冗談で済まないんだよ……。
俺ははぁーっと深く息を吐いた。
「それでね、クーちゃんにお願いがあるんだけど……」
「ええ。なんでも仰せのままにいたしますわ」
するとシュワルツさんは不敵な笑みを浮かべた。一瞬背中に黒い影が浮かんだような気がしたのは……気のせいのはずだ。
「血が欲しいんだ。姫様の……純粋な獣人族の血が」
「!」
クーの顔が一瞬こわばる。
俺も思わず立ち上がる。しかし、まだ体調が万全ではなかったのか、くらくらっとめまいがして膝をついてしまう。
「ニーナ様!」
クーが慌てて俺の横に駆け寄り、肩に手を置く。その手は確かに震えていた。
――まさか、大魔法使いシュワルツさんが獣人族の血を求める者だったとは……。これはもしかしてクーを守るために、彼女と一戦交えなければいけない流れなのか?
先ほどまでのおふざけムードは一変。緊迫した空気が俺たちの間に流れ始めた。
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