第30話 見えそうで見えない。

「俺の名前は、ニーナ・リタ。魔王を倒すために旅をしているんだ」


「ニーナ・リタ……どっかで聞いたことある名前だけど……あっ! 伝説の戦士、マッチョ・ニーナ・リタ・Eか! おお、噂には聞いていたが、実在するとは……しかもいい感じのイケメンマッチョじゃないか!」


 ははは! と笑いながら、シュワルツさんは俺の三角筋(肩の筋肉)に触れる。

 はうっ! 女性に触れられるっていうだけで、ドキドキが止まらない。

 

 それに、そんなに近づくと、服の隙間からたわわに実った胸の先が……見え……くっ! いい匂い! あっ、見え……そうで見えない! 


 シュワルツさんの服が際どすぎて、目のやり場に困る! ちょっと前屈みになるだけで、あんなところやこんなところが見えそうになる。

 そんな俺の視線に気づいたのか、彼女はニヤリと笑っていった。


「心配するな! 際どい衣装だが、をかけてあるんだ。だからニーナ・リタに見えることはないよ。……ちょっと期待しちゃった?」


 うん、とうなづくわけにもいかず、俺はただ顔を真っ赤にしてその場にいることしかできなかった。


「ニーナ様……そんないやらしい目でシュワルツ様のことを見ていたのですか……?」


 クーが横から余計なことを言う。


「ちっ、違うんだ、クー! だって見えそう……じゃなくて! こんな吹雪の中、家の中とはいえ寒そうだなって心配してさ……」


 なんとかクーを納得させる言い訳を考えようとしたが、うまくいかない。


「それってつまり、シュワルツ様のお召し物に注目していたってことですもんね!」

「あら〜そっか、ニーナ・リタはそういうチラリズムが好きだったのかぁ。心配してくれて嬉しいんだが、もかかっているから心配しなくていいんだぞ」



「チッ、チラリズム? だから違うんですって! えっと、と、ところでシュワルツさんは面白い魔法を2つも使うんですね! それって、能力スキルを2つ持っているということですか?」



 無理やり話を変えようとしたが、結局洋服の話題から離れていないじゃないことに気づいてしまった。くそっ!


 だけど、シュワルツさんは隠すこともなく、自身の能力について教えてくれた。


「私の能力は『魔法マジック開発クリエイト』なんだ。自分で好きな魔法を生成して、扱うことができる。まあ、その好きな魔法を作るっていうのが、難しいけど、その分楽しいのさ」


「すごーい!」

 その話を聞いてクーが拍手をする。


 魔法開発――それはそれで面白そうな能力かもしれない。大魔法使いと言われる所以ゆえんはそれか。自分で作りたい魔法を作り出すことができれば、こんなに役立つことはないだろう。


「だろう? だから、さっきニーナ・リタの蘇生魔法も、ちょちょっと作って、唱えてみたわけさ」

「ほお!」


 クーよ、何でもかんでも信じすぎだろう。さすがにその話を聞けば蘇生魔法が冗談だったってことがわかるはずなのに、クーは目を輝かせてシュワルツさんを見つめている。あ、これはなんか完全に憧れの目を持って見ているな……。


「ま、はこれぐらいにして、マッチョな青年ニーナ・リタよ。どうしてこんな吹雪の日に山の中を歩いていたんだ?」



「それはですね――」


 俺は、ヴェンチ・プレイスでの話や女神様との話、そしてクーとの出会いについて話をした。


「へぇ。二人でキィンニィ王国を救いにねぇ。なんだ、クー。あんたはそこのお姫様だったのかい」


「一応……てへへ」

 クーが照れながら頭をかく。


 続けて、俺はタンクトップの内側から紹介状を取り出した。さすが、ルーベ・スージーの魔法の込められている、服の中に入れっぱなしでも綺麗なままだったそれをシュワルツさんに手渡す。


 彼女は紹介状を受け取ると、上品な手つきで封を切り、中に入っていた手紙を読み始めた。


「――なるほど。私に魔王討伐の戦いに加われと言うわけか」

「はい」


 シュワルツさんが何やら魔法を唱えると、手にしていた紹介状は暖炉の炎の中に飛んでいって、あっという間に灰になった。


「すまないが、断る。私にはしなければいけないことがたくさんあるんだ。今回助けてやっただけでも十分だろう?」

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