第4章 獣人族の国、キィンニィ王国を救え!
第28話 雪山を舐めてました。
「寒い寒い寒い寒い!」
タンクトップの上から毛皮のコートを着ているけど、それでも寒い。
はい、正直舐めてました。ヴァルク山地。
交易都市ローインから北へ一週間ほど進むと、そこはこれまでとは別世界といっていいくらいだった。
一面雪に覆われた銀世界……銀世界なんてもんじゃない。もはや雪の暴力といってもいいくらいだ。一歩進む度に十センチくらい足が沈むし、吹雪いていて視界もよくないし。しかも、ヴァルク山地に入って早々にクーはリスの姿に変身して、俺の肩の上でくつろいでるし。
「こんなの聞いてないけど!」
俺がクーに文句を垂れると、クーは「ニーナ様なら大丈夫です! ファイト!」と適当に返事する。
おい、キィンニィ王国に到着するのが遅れるぞ。そんな悠長に構えていていいのか? と思っていると、「ヴァルク山地が荒れているこの時期だと、流石の魔王軍も王国への進撃は難しいはずです」だって。
でも、大魔法使いシュワルツさんを探して仲間にしてから、魔王軍よりも早く王国へ到着しないといけないよな。
「そういうクーは、どうやってこの吹雪の中をくぐり抜けて来たんだ?」
「ホワイトウルフに変身して走ったり、スノーイーグルになって空を飛んだりしてきました! すごいでしょ!」
俺の肩の上でえっへん! と自慢げにクーが言う。
「じゃあ、そのスノーイーグルとやらに変身して、俺を掴んで空を飛んでくれよ」
一歩進むごとに沈んでいく足を持ち上げて、なんとか前へと進んでいく。正直これ、スクワットよりもきついかもしれない。太ももにだんだんと乳酸が溜まってくる。
「変身はとっても魔力を使うので、そんなに長時間はもたないんです。それに、私、ニーナ様を掴んだまま空を飛ぶ力がありませんわ」
どうやら、
「じゃあ、スノーモービルに変身して、俺を乗せて滑り降りるというのはどうだ?」
「スノーモービル? なんですか、それ」
それに、一度見たことがあって、全体像をイメージできるものでないと、変身もできないようだ。さらに、変身は生物に限られていて、無機物――機械とかモノ――はダメとのことだった。
なるほどね、万能と思われた
先へ進むごとに吹雪はどんどん強くなり、やがて目の前が真っ白になる。あまりの強さに、数メートル先さえ見えない状況になった。
「むむ、こんなに激しい吹雪は初めてです。ニーナ様、大丈夫ですか?」
耳元でクーの声が聞こえるが、それが風切音でかき消される程だった。やばいぞ、これは前に進むどころか、体温を持っていかれて……死んでしまうぞ。
さすがのイケメンマッチョでも、自然の前には無力……。
いやいや、早くこの吹雪を抜けてキィンニィ王国を救う……あれ、シュワルツさんを見つけるのが先だっけ……そもそも……ここは……どこ?
突然視界が真っ暗になって、俺は目の前の雪にうつ伏せに倒れた。
「ニ、ニーナ様? ニーナ様?」
クーの声がどこか遠くで聞こえた気がした。
ああ、寒さも感じなくなってきた。
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