第25話 名を名乗ります。
本当は試着だの何だのさせた方がいいのはわかっている。
だけど、そんなことをしてクーが獣人族だとバレると大変なことになるので、とりあえず俺がダッシュで近くの店に行き、ごくごく一般的な女性用の服と靴と帽子を購入してきた。これで、一応何の問題もなく一緒に街を歩ける……はずだ。
鎧とかはサイズ感とか性能とか好みとかあるだろうから、あとで一緒に行って見繕えばいいだろう。
別に出会ったばかりのクーにここまでしてやる義理もないんだが……特にお金に困っているわけではないし、「困っている人を助けるのが務めだ!」と女神様にもいわれているからな。あと、境遇を知ってしまったため、何とか助けてあげたいと思ったんだ。
「ありがとうございます、何から何まで。この御恩は必ずお返ししますので」
クーが丁寧に頭を下げる。こういう動作からも、本当に王女様なんだよなぁということがわかる。あ、ちなみに、クーは今、変身を解いて獣人族の姿に戻っている。
改めて。
お風呂から上がったクーは、先ほどまでとは打って変わって小綺麗になっていた。黒っぽい髪と思っていたら、それはただ汚れていただけだったようで、きれいな栗色をしていた。俺が購入して来た服も、サイズ的にはぴったりだった。お姫様感はないけど。
「おお、綺麗になったじゃないか」
「ふふふ、これでも一応、王女様ですから」
と言って、クーはその場でくるりと一周してみせた。
「わたし、そういえばまだ名前も聞いていないことに気づいて……あなたのこと、なんとお呼びすればよろしいですか?」
さあ来たぞ。俺の名を告げる瞬間が。
ええい、笑え! 笑うがいい、お姫様よ! 俺は意を決して言った。
「俺の名前は、ニーナ・リタ。魔王を倒すために旅をしているんだ」
「……ニーナ……リタ」
クーが俺の名前を復唱する。あれ? 笑うような感じではないぞ。もしかして俺のフルネームを知らない的な?
「……ま、まさか……あなたは伝説の戦士と言われるマッチョ・ニーナ・リタ・Eなのですか?」
クーは目をキラキラと輝かせながら、俺の手を握った。や、柔らかい。そしていい匂いがする。
「あ、ああ。そそそ、そうだけど……」
近い近い近い近い。クーが俺の手を握り締めて距離を詰めてくる。ちょっと待って、俺はまだお風呂に入っていないから、汗臭いんだけど!
「ニーナ・リタ様……まさかお会いできる日が来るなんて! 改めてどうかお願いです。私たちの国を魔王の手から救ってくださいませ!」
クーは俺の名前を聞いて笑うどころか、逆に尊敬の眼差しで見つめてきた。あれ、なんかいつもと違う展開なんですが……どういうこと? いや、意外だったけど、これはこれでなんか嬉しい。
ごほん。
そんな心のうちがバレないようにして、俺はあくまで冷静を装って、クーに向き合う。
「もちろん、魔王に狙われているクーの国を救うのは俺の使命だと思ってる。でも、その前にいくつか質問させてくれないか」
「わかりました、ニーナ様」
ニーナ様……今までそんな風に呼ばれたことがないから、ちょっと調子狂うけど、まぁいいか。下手に王女様がニーナって呼び捨てにするのも変だし。
俺はクーをベッドに座らせ、俺はさっきまで座っていた椅子に腰掛け、話をすることにした。俺が眉間にシワを寄せていただからだろうか、クーもいつになく真剣な顔つきでこちらを見ている。
「まずは、あの道中。どうして俺に助けを求めた? もしかしたら、俺も獣人族の血を狙う悪党だったかもしれないだろう?」
「ああ、それはですね!」
クーの顔がパッと明るくなる。
「私のミミを見たときに、
――そうだったかな? ただ単に「へぇ、この世界にはネコミミがついた種族もいるんだ」ぐらいにしか思ってなかったはずなんだけど……それがよかったのかもな。
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